第8話:街を歩いているとゴロツキに絡まれてる女の子を見つける

 ポーション薬を売却してお金を受け取り冒険者ギルドから出てきた後。


「よし、それじゃあいつもの食堂で昼飯を食うとするかなー」


 俺がいつも利用している食堂というのは冒険者ギルドからちょっとだけ歩いた場所にある大衆向け食堂だ。リーズナブルな料金でとても美味しい料理を提供してくれる素晴らしい食堂だ。


 しかも子供がお客さんの場合は問答無用でご飯を大盛にしてくれるので、育ち盛りな子供な俺にとっては本当にありがたい食堂だった。


 という事でお腹が空いてた俺は早速その食堂を目指して歩き始めていった。しかしその道中で……。


「……ん?」


 しかしその道中で唐突に喧噪の声が何処からか聞こえてきた。注意深く聞いてみると、それはどうやら裏路地の方から聞こえてきているようだ。


 俺は何事だと思って路地裏の方にゆっくりと近づいて行った。


「……や、やめてください……!」


 裏路地に近づくとそんな声が鮮明に聞こえてきた。それはどう聞いても嫌がっている女の子の声だった。もしかしたら女の子が街のゴロツキに襲われているのかもしれない。


(……まぁ、俺は胸糞ボスキャラになんてならないって決めたわけだし、助けられそうなものは助けていく事にするか)


 俺はそんな事を思いながら裏路地の中に入って行った。すると予想通り路地裏では小さな女の子がガラの悪そうな男達に絡まれているという状況だった。女の子の年齢はおそらく俺と同じくらいかな?


 とりあえずそのまま女の子の身なりを確認していってみた。とても鮮やかで高価そうなドレスを身に着けているので、おそらく貴族か裕福な商家の娘と言った所だろう。


(という事は今絡んでいる男達は金銭を要求してるチンピラって所かな?)


 まぁ流石にこんな真っ昼間から街中でチンピラ行為をしてる馬鹿共が“本職の悪人”な訳がない。


 だって“本職の悪人”である強盗や野盗だとしたら、普通はもっと人の少ない場所とか時間帯を狙うはずだしな。


(うーん、それにしてもあの女の子……俺どっかで見た気がするんだけど……って、あぁっ!)


 目を凝らして路地裏の状況を見ていると俺はある事に気が付いた。あのチンピラに絡まれている女の子は俺の知っているキャラだったんだ。


 まぁゲーム本編で登場するよりも遥かに若いんだけど、でもあの顔には見覚えのある。あの女の子は……。


(あ、あの女の子って……アーシャじゃん!!)


 という事であの女の子はソードファンタジアに登場するアーシャ・グレイスというキャラだった。ゲーム本編ではかなり重要な立ち位置のキャラだ。


 アーシャはセラスの一つ年下の24歳の女性で、ゲーム本編では一番最初に仲間になるお助けユニット的なキャラだった。主人公に戦闘の仕方やゲームシステムなどについて優しく教えてくれるんだ。


 見た目に関しては綺麗な金髪のロングヘアが特徴的なとても可愛らしい美女という雰囲気だった。性格は慈悲深くてとても優しいお姉さんだったのでプレイヤーからの人気もかなり高かった。


 ちなみにアーシャの役職は『ハイ・プリースト』という上級職のヒーラーで登場する。回復キャラだけど攻撃魔法も使えるので、上級職の高ステータスを頼りに序盤はアーシャだけでも簡単にクリア出来たりする。


(だからゲーム序盤だとアーシャが凄く頼りになるんだよなー)


 そしてソードファンタジアの主人公である勇者は17歳くらい(エロゲなので年齢はぼやかされてるけど)のちょっと可愛い感じの男の子だったので、主人公とアーシャの絡みはおねショタの波動を感じれて正直大好物でした。


 まぁでもそんな頼りになるお助けユニットのアーシャは一章までしか使えないキャラだったんだよな。一章のボスを倒すとアーシャは急用があるという事で強制的に勇者パーティから離脱してしまうんだ。


 そして物語が中盤になると実はアーシャは聖女だった事が判明し、アーシャには魔王を倒すための祈りの力があるという事がわかるんだ。


 そしてその事実を魔王も知る事になり、魔王はセラスにアーシャの殺害を命令する事になるんだ……。


(マジでここからのイベントでほぼ全プレイヤーが軽く鬱になりかけたからな……)


 という事で前にもちょっと話したと思うんだけど……セラスはその命令に従ってアーシャを誘拐し、そして三日三晩かけて酷い強姦を行った後にセラスは笑いながらアーシャの首を撥ね飛ばすという史上最悪の胸糞シーンを全プレイヤーに見せつける事になるんだ……。


 そしてもちろんソードファンタジアは“エロゲ”なのでアーシャの強姦シーンは恐ろしい程丁寧に描かれていた。


 ソードファンタジアのシナリオライターとイラストレーターと声優さんの本気でアーシャの悲痛な泣き叫ぶシーンや次第に精神が壊れていくシーンなどを物凄く丁寧に描いていたので、このゲームをプレイしてた人達全員に物凄い衝撃を与えた恐ろしいシーンだと思う。


 もちろん俺もそのシーンを初見で見た時には大きな衝撃を受けたし、何ならマジで泣きそうになるくらいショックがデカかった。だって……だって俺はさ……。


(だって……だって俺は……アーシャが一番好きだったんだからな……!!)


 俺は個人的に“お姉さん”とか“人妻”とか“未亡人”とかの年上キャラがドチャクソに好きという癖があったので、正直このアーシャというお姉さんキャラは俺にとってドンピシャなキャラだったんだ。


 そしてソードファンタジアには好感度というシステムがあって、好感度を高めるとカップルになる事が出来て専用のエッチシーンを楽しめるんだ。そしてエンディングを迎えるとその好感度を高めた女の子と結婚する事が出来るんだ。


 だから俺は序盤の内にアーシャの好感度をマックス状態まで高めて絶対にアーシャとの結婚エンディングを見るんだ! ……って思ってたのに、ゲーム中盤でアーシャは惨殺される事になるので、アーシャとの結婚エンディングなんてものは一切存在すらしてなかったんだ……。


 アーシャに対する救済エンドが一つも用意されてないと知った時は絶望のあまりパソコン前で大号泣したのも今となっては良い思い出だなぁ……って、いや全然良い思い出じゃねぇよ!!


(だけどそんな最推しキャラのアーシャが危ない目にあってるなんて……これは絶対に俺が助けなきゃだ!!)


 という事でそう思った俺はすぐにアーシャの元へと全力で駆け寄っていった。

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