第5話:それから一年後
そんな決心をしてから一年近くが経過した頃。
「ふん……ふん……ふん!」
俺はあの日から毎日休まず身体を鍛えていた。そして今日も日課の剣の素振りを行っている最中だ。
俺が身体を鍛え始めたり剣の素振りをし始めた当初はクソ親父や生意気な弟も滅茶苦茶に馬鹿にしてきたんだけど、もちろん一年経った今でもクソ親父達は未だに俺の事を馬鹿にしてきている。
『魔術の勉強ではなく身体を鍛えるだと!? 貴様は本当に馬鹿なのか?? 由緒あるアルフィード家に生まれてきたのに魔術の勉強をろくにしようともしないなんて……魔術の研究に一生を捧げてきた御先祖様達に申し訳なく思わないのか!!』
『そうですよ、兄上。そんな棒を振り回す野蛮な行為に没頭するなんて由緒あるアルフィード家の恥さらしも良い所ですよ? それに兄上のような無能なゴミクズが幾ら剣を振り回した所で強くなれるわけないじゃないですか? くすくす』
クソ親父達からはそんなイラっとくる事をほぼ毎日のように言われていた。こいつら性格ねじ曲がりすぎだろ。
あとはクソ親父による魔術訓練も毎日ずっと行われているんだけど、ここ最近はクソ親父だけでなくシュバルツの魔術のサンドバッグ役にもされていた。
そのおかげでここ最近は俺の身体の傷もだいぶ増えてきてしまった。まぁでも別にこんなのはどうでも良いんだけどさ。
だって俺はなるべく早く野盗を倒す力を得ないといけないんだから……あんなクソ共の事なんか気にしてらんねぇよ。
それに野盗に捕まったら変態貴族にケツ穴を掘られまくって精神崩壊を起こして人を殺しまくって魔王と手を組んで最終的に処刑されるルートが発生しちゃうんだ。そんな酷い目に遭遇しないためにも俺は本気で頑張るしかねぇんだよ……。
(というか異世界転生をしたのに俺はケツ穴なんて掘られたくねぇんだよ!!)
という事で俺はそんな思いから、毎日クソ親父達のサンドバッグにされて痛めつけられていても我慢してひたすらに自分の鍛錬を続けていったんだ。
まぁでもその結果鍛錬を始めてわずか一年しか経ってないにも関わらず、俺は十一歳とは思えない筋力や体力、瞬発力などはちゃんと得られていた。流石は最強格のボスキャラだよな。
そしてこのままのペースで行けば十六歳になる頃にはそれなりに強い肉体を得られそうな気はする。なのでこれからも強くなれると信じてひたすらに鍛錬は続けて行こう。
「……ふぅ、それじゃあ今日はこれくらいにしておこうかな」
という事で俺は今日の鍛錬を終わりにしていき、近くに置いていたタオルで汗を軽く拭いてから新しい服に着替えていった。
もちろん俺には専属のメイドや従者はいないのでタオルや服の用意は全部自分でやっている。でも何で十一歳の子供が身の回りの事を全部自分一人でやらないといけないんだよ……?
「はぁ、全く……まだ十一歳だっていうのに色々とハードモード過ぎるだろ……」
俺はため息をつきながらそんな事を呟いていった。色々としんどすぎる人生だけど、特に一番ハードモードだって実感してるのは人間関係だ。この家マジで終わってる。
俺はこの一年間で知ったんだけど、どうやらソードファンタジアの世界の貴族には一夫多妻制が導入されているらしい。
まぁどんな世界であっても偉い人達というのは血脈を大事にすると思うので、子孫を沢山作るのは貴族としての重要な務めだという事は俺だって理解している。
「でもだからといって血の繋がった子供を虐待するのは人として終わってるからな……絶対に地獄に落ちるぞ」
俺はため息交じりにそんな事を呟いていった。当然それはクソ親父に向けた独り言だ。
という事で話を戻すんだけど、もちろんクソ親父も由緒ある貴族なので妻が二人いた。クソ親父には第一夫人と第二夫人がいるんだ。
それで俺の母親が第一夫人で、シュバルツの母親が第二夫人だ。だから俺とシュバルツは腹違いの兄弟ってヤツらしい。
でも俺の母親は数年前に病気で他界してしまっているんだ。まだ十一歳なのに実の母親が既に亡くなっているのは流石に悲しいよな。しかも俺はクソ親父からネグレクトを受けてるという最悪の状況だしさ……。
まぁでも俺はこのアルフィード家がかなり優秀な魔族家系だという事はこの一年間でしっかりと理解していた。
だから優秀な魔術家系であるアルフィード家の長男に魔術適正が一切無いというのは、由緒あるアルフィード家の現当主であるクソ親父からしたら面汚し的な感じで見るのも多少は理解出来る。
だって貴族ってのはやっぱりそういう面子に拘るとかもあったりするだろうしな。
「でもそれはそれ、これはこれってやつじゃねぇのか?」
まぁ確かに俺はアルフィード家の面汚しなのかもしれないけど、でもそれでも血の分けた家族なんだろ? 自分の子供が幾ら無能であっても、それを理由にして酷い態度を取って来るなんて絶対におかしいだろ
そしてそんな酷い態度で俺に接してくるのはクソ親父だけでなく、この家に住むメイドや従者達も全員そうだった。アルフィード家に住んでいる者達は皆俺の事をいつも嘲笑うかのような態度で接してくるんだ。それは確実にクソ親父の指示だろうな。
という事でこの家のメイドや従者も全員がクソ親父の味方をしているので、俺の怪我の手当をしたり、炊事や洗濯などの身の回りのお世話をやってくれる人は誰一人として存在していなかった。
「はぁ、せめて義母さんが常に屋敷にいてくれたら違ったんだろうけどなぁ……」
でもそんな俺にも唯一味方になってくれるアルフィード家の住人が“いた”んだ。それは継母である第二夫人のレインだった。つまりはシュバルツの母親だ。
レインは見た目は物凄く美人なんだけど、でも絵本とか寓話に出てきそうな典型的な「ザ・継母」って感じの冷徹な雰囲気を常に醸し出してるちょっと怖そうな見た目の人だった。
でもそんな怖そうな見た目とは裏腹にレインは血が繋がってない俺に対しても自分の息子のように接してきてくれる優しい継母だった。
そして俺がまだ転生するよりも前の……セラスが赤ん坊だった頃からレインは俺の事を凄く可愛がってくれていた記憶もちょっとだけ残っていた。
でもそんなレインは第一夫人であった俺の母親が亡くなってからは近隣の領地との外交を全て一人でやる事になったため、今現在は年に1~2回しかアルフィード家に帰ってこれない程の超多忙になっていた。そして今もレインは外交のために近隣の領地や諸国に出張に行ってるのでアルフィード家には不在中だ。
という事で今現状、この屋敷には俺の味方になってくれる人は誰一人として存在していなかった。
「いやマジで十一歳の子供が味わったら駄目なクソ環境過ぎるって……」
でもこんなクソみたいな環境で毎日ずっと過ごしていたとしたら、まぁセラスの性格はどんどんと落ち込んでいくだろうし、そしてそれから野盗に襲われ、変態貴族に毎日のように嬲られて行くと思うと……うん、そりゃあ精神崩壊も起こしちゃうわな……。
「そう考えると……もしかしたらセラスってちょっとだけ可哀そうな悪役だったのかもしれないなぁ……」
ゲーム本編だとセラスの貴族時代の話なんてほぼ一切語られてなかったし、プレイヤー視点では純粋なる胸糞ドクズ野郎だと思っていたけど、でも本当はただの哀れな敵キャラだったのかもしれないな……。
「……よし、それじゃあこの世界でくらいは精神崩壊を起こして闇堕ちしないようにしてあげなきゃだな!」
という事で今まで本当に辛すぎる人生を歩んでいたセラスのためにも俺はそんな大きな目標を立てていったのであった。
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