第3話:悪役に転生しちゃった

 『ソードファンタジア』とは十年近く前に発売されたシュミレーションRPGのエロゲだ。


 大雑把にシナリオの説明をすると勇者である主人公が悪の魔王を倒すために旅に出るという王道の物語だ。


 もちろんエロゲなので女の子との好感度を上げていくと専用のエッチシーンが見れたり、エンディングで結婚イベントが見れたりもする。


 でも原作者であるシナリオライターのクセがかなり強くて、ハードなエロシーンや戦闘のグロ描写がとても多く、物語の内容的にもダークファンタジーに分類される結構重い感じの話だった。


 そしてそんなダークファンタジー系のゲームだった『ソードファンタジア』を当時の俺は……。


「うわっ、めっちゃなつかしいなー。確かソードファンタジアって俺が大学一年の頃に発売されたゲームだよな。大学生だった当時は物凄くやり込んだっけ」


 エログロ系ダークファンタジーなんて厨二病全開だった当時の俺には物凄く大好物な作風だったから、俺は発売日当日に買ってその日から毎日寝る間も惜しんで全力でプレイしてたっけ。


 シナリオは想像通り厨二病全開のダークファンタジーで面白かったし、ゲーム難易度もかなり難しくてやり応えもあったし、他にも隠し要素とかやり込み要素も沢山あって最高に面白いゲームだったな。


 そしてその当時は俺と同じような厨二病の若者が非常に沢山いたため、『ソードファンタジア』はエロゲだったにも関わらず人気はかなり凄まじかった。


 当時はソードファンタジアの新情報が出るとすぐにSNSのトレンドに上がるくらい凄く賑わってたし、その時期のコミケでは薄い本の人気ジャンルとしてソードファンタジアが毎回上位を取ってた程だしな。


 そしてそんな人気エロゲのソードファンタジアに登場するのがこの“セラス・アルフィード”と呼ばれる男だった。作中では確か25歳の男だったはず。


 それでそのセラス……ってか、まぁ俺なんだけど。その俺が作中でどういう活躍をするのかというとただの悪役だ。いや、ただのっていうか……もっと正確に言うと作中で一番最悪な悪役だった。


 ゲーム本編でセラス・アルフィードは“戦争屋”という異名で恐れられていた。戦争や殺し合いが大好きな生粋の狂人であり、剣を握らせればどんな相手でも必ず仕留める最強の戦士でもあり、大金さえ払えばどんな汚い依頼でも引き受けるという作中でもっとも危険な傭兵集団のリーダーだった。


 そしてそんなセラスはラスボスである魔王から大金を支払われて魔王軍に雇われる事になり、序盤から終盤までかけて主人公パーティと何度も敵対する事になるボスキャラの一人だった。


 ちなみに本編でのセラスの性格はかなり悪い性格だった。いやまぁ敵キャラなんだから性格が悪いのは当たり前だろって思うかもしれないけど……そんな想像よりも遥かに残忍な性格だった。


 セラスは魔王軍に雇われてからは魔王の指示で貴族や王族などの人類側の権力者を次々に捕らえていくんだ。もちろんその中には力を持たない女性や子供達も含まれている。


 それで捕らえた貴族達を土下座で並ばせて涙ながらに命乞いをさせていくというシーンがあったんだけど、セラスはそんな土下座する貴族達を見て笑いながら全員を惨殺するんだ。今でも思い出せる程の胸糞シーンだ。


 でもセラスの一番の胸糞シーンはそこではない。一番最悪の胸糞シーンは……うん、やっぱりセラスが主人公の味方キャラの一人を惨殺してしまうシーンだろうな……。


 ソードファンタジアはエロゲだけどノベルゲーではなくてシュミレーションRPGだ。わかりやすく言えば自分でキャラを操作して敵と戦うゲームなんだ。


 そしてゲームを開始するとすぐに主人公であるプレイヤーを導いてくれる優しいお姉さんキャラがお助けユニットとして仲間になる。


 そのお姉さんに戦闘の仕方やゲームシステムなどのチュートリアルを教わっていってゲームを進めていくというのが序盤の流れだった。


 それでゲームをある程度まで進めていくとそのお姉さんがパーティから離れてしまう強制イベントが発生するんだ。そしてそれ以降そのお姉さんとは二度と生きて会えなくなってしまうんだ……。


 実はそのお姉さんは有名な貴族であり、王族とも繋がりを持つ世界的にも超重要な人物だった。だからそのお姉さんはセラスの処刑リストに入ってしまっていたんだ。


 なのでシナリオ中盤でそのお姉さんはセラスに捕えられてしまい、そのまま牢屋の中で沢山の男達から何度も何度も強姦を受け続けるという惨過ぎるシーンがあるんだ。もちろんエロゲなのでお姉さんへの酷い強姦シーンは滅茶苦茶丁寧に描かれている。


 そして酷い強姦を受け続けていったお姉さんはやがて精神を完全に壊して廃人のようになってしまい、それを見たセラスは大きく笑いながらお姉さんの首を飛ばすという超絶胸糞シーンがあったんだ。これがセラスに関する一番の胸糞シーンだ。


 俺は……というか、初見で遊んでた人達は皆そのお姉さんは中盤以降になったら主人公パーティに合流するだろうと思っていたはずなので、まさか酷い強姦の末に精神崩壊させられて首をはねられる事になるなんて思いもよらなくて大きなショックを受けたプレイヤーはかなり多いはずだ。


 そして俺はそのお姉さんがゲーム中で一番大好きな最推しキャラだったので、仲間に戻ってきたらそのお姉さんとの結婚エンディングを絶対に目指すぞ! って思ってたのにまさか過ぎる結末で軽くうつ状態になったのを今でも覚えてるわ……。


 まぁそんな感じでセラス・アルフィードは純度100%の生粋な胸糞悪役だった。もちろん多くのプレイヤー達からはかなり嫌われていた。


 そしてそんな胸糞ボスのセラスとは序盤から終盤まで何度も戦う事になるんだけど、正直毎回強すぎてセラスと戦う時のストレスも非常にヤバかった。セラスと戦う度に何度もゲームオーバーにさせられて絶望しまくったプレイヤーも非常に多い事だろう。


 でもそんなセラスにラストダンジョンでの最終決戦で勝利する事が出来ると、傷だらけになったセラスは国王軍に捉えられていき、それから長い拷問を味合わされた後に八つ裂きの刑に処されて絶叫を上げながら惨殺されるという最後を迎える事になる。


 そしてその処刑シーンを見届けた全プレイヤー達は心の底から「ざまぁっ!!」という言葉をセラスに送ったのであった。


 あ、あれ? でもさ……という事は俺って……。


「……あっ! ま、まずいじゃん!! って事は俺ってこのままだと処刑される運命って事じゃん!!」


 俺はそんなヤバすぎる事実に気が付いて大きく焦りだしていった。そして俺は急いで小屋の中に備え付けられていた鏡で自分の顔を見ていった。


 するとそこにはまだかなり幼いけど、でも特徴的な赤髪と青紫の瞳を持つ子供が映し出されていた。それはまさしく胸糞ボスであるセラス・アルフィードの持つ特徴と全く同じだった。

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