第2話:あれ、アルフィード家ってもしかして……!?
それから程なくして。
「いててっ……」
ボロボロの掘っ立て小屋の中に入っていった俺は、近くのテーブルの上に置かれていた傷薬を手に取ってそれを全身に塗っていった。
多分この子供はあのオッサンによる魔術訓練(?)のせいで毎日怪我をさせられていたから傷薬を常備してたんだろうな。まぁ気休め程度の回復にしかなってないと思うけど……。
「とりあえずこれで良し。はぁ、それにしても……」
全身に傷薬を塗り終えた俺はため息をつきながら辺りをキョロキョロと見渡していった。
やっぱりこの掘っ立て小屋は俺が住んでいた小さなアパートと同じくらいの狭さだった。何が別邸だよ。明らかに嘘じゃねぇか。
それと中を見渡してみた感じ、どうやらこの掘っ立て小屋は俺以外には誰も住んでいないようだ。
「こんな子供をボロボロの掘っ立て小屋に一人暮らしさせるって中々に鬼畜過ぎじゃねぇか? まぁいっか。疲れたしちょっと横になろう……」
掘っ立て小屋の中の観察を終えた俺はそのまま近くのベッドにダイブしていった。もう今日は色々と疲れたわ。
いやそれにしても身体中痛いな。火傷跡も出来てるしマジで酷すぎるだろ。あのクソ親父許せねぇ……。
「でも何で俺はこんな異世界みたいな所にいるんだろう? さっきまで俺は普通に仕事してたはずなのにさ?」
俺はベッドの上で腕を組みながらそんな事を呟いていった。俺はこんな西洋風な世界の住人なんかでは決して無いからな。
俺は都内のブラック企業で働いているごく普通の社畜の一人だった。
そして俺はついさっきまでそんなブラック企業で仕事をしてたはずだ。クソ上司が持ってきた厄介案件のせいで俺は三日連続の完徹状態で仕事をしてたんだ。
それで今日の朝6時にプログラムソースが完成して思いっきり喜んでいたら、急に何だか眠くなって一瞬気を失ったような記憶まではあるんだけど……。
「うーん……まぁ、どうでもいっか。もうブラック企業で働かなくても良いんだったらそっちの方が遥かにマシだし」
という事で俺は楽観的な気持ちになりながら元の世界について考えるのは止める事にした。だってブラック企業で毎日死ぬ気で働く必要がなくなるなんてマジで最高だしな!
「ふぁあ……まぁでもこれってやっぱりあれかな? 何だか異世界っぽい雰囲気があるし、もしかして最近流行りの異世界転生ってヤツが俺にも起きたって事かな?」
俺は欠伸をしながらそんな事を呟いていった。まぁそれにしては何もチート能力とか授かってないんだけどさ。それに神様的な人にも出会ってないし……。
「それとさっきのクソオッサンとかクソガキは一体何なんだよ? 何か滅茶苦茶にムカつくような事を散々と言ってきてたよな?」
あの二人の身なりからして身分の高い家系なのはわかるけど、それなら俺も同じ家系の生まれって事だよな? だって俺の事を長男だって言ってたし。
それなのに何で長男と次男でこんなにも育て方に差が出てんだよ? マジであのオッサン毒親じゃねぇか。
「はぁ、せっかく異世界に来たっていうのに毒親の子供に転生するとか辛すぎんだろ。まぁ辛い事への耐性なんてもう付きまくってるから別にいいんだけどさ」
サビ残&徹夜勤務が当たり前かつ上司から口汚く罵られる環境で毎日仕事をしていた身としては、今更よくわからんオッサンから罵られた所で何とも思わない。
それに俺は子供の頃からずっと体育会系の部活に入ってたからある程度の怪我や痛みくらいなら全然我慢できる。
だからまぁ確かに今はボロボロ状態にさせられてるけど、でも死ぬほどの致命傷を負わされてる訳じゃないしこれくらいの怪我なら気にしなくてもいいや。
「でも“魔術訓練”って言葉にはちょっとだけ厨二病心がくすぐられたよなー」
俺は子供の頃からファンタジー系のゲームとかアニメがめっちゃ好きだった。学生だった頃はそういうゲームを毎日のようにやってたしな。
だからクソ親父の口から“魔術”という言葉が出てきた時は、正直俺の厨二病心がめっちゃくすぐられていっていた。
という事は、もしかしたらこの異世界は剣とか魔法とかが沢山出てくるファンタジー系の異世界なのかもしれないな。
「うーん、でも個人的には厨二病なファンタジーを楽しむ異世界よりも、スローライフを楽しむ感じの異世界の方がありがたいんだけどな」
ここ最近ずっと仕事で忙しかった社畜の俺としては、剣とか魔法を駆使して敵を倒す的なファンタジー系の異世界なんかよりも、畑を耕したり釣りをしたりとかのスローライフな人生を過ごしたい欲求の方が凄まじかった。やっぱりスローライフって全人類の夢だもんな。
まぁでもあんなクソ過ぎる毒親がいる時点で、俺がスローライフな人生を送れるとは全く思ってないんだけどさ……。
「はぁ、それにしてもマジで最低なクソ親父だったよな……でも魔術の名門のアルフィード家か。はは、何かそう聞くと本当にゲームみたいな感じの異世界だよな」
という事で俺はため息をつきながらさっきのクソ親父との会話を思い出していった。あ、そういえば俺の名前って確か“セラス”って言うんだっけか?
「という事は俺の名前はセラス・アルフィードって言うのか? ふぅん、セラス・アルフィー……って、あれ? でもその名前を何処かで聞いた事があるような気が……」
俺は“セラス・アルフィード”という名前に聞き覚えがある気がしてきた。アルフィードという家名の貴族。この家族構成。父と弟がいて、それに魔術の名門……?
……あっ!! そ、それってもしかして……!
「あぁっ! セ、セラス・アルフィードって……“ソードファンタジア”に出てくるあの超絶胸糞ボスの事じゃねぇか!!」
それに気が付いた瞬間、俺は大きな声で叫びながらベッドから思いっきり飛び出していった。
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