第6話 別れ。でも、かけがえのない存在だから……。
ある朝、起きると涙が止まらなかった。私は胸騒ぎを感じて周りを見渡す。すると、勉強机の上にクマたんのぬいぐるみが置かれていた。
「クマたん、帰ってきたの?」
その言葉を発した瞬間、過呼吸に襲われる。消えそうな意識の中で虹菜が隣に座っているのが確認できた。
「あのクマたんのぬいぐるみはフラッシュバックと同じできっかけにすぎない。私の目的はミキティー姉様の溜まりに溜まった負の感情を奪い取ること。そう、悪の組織は感情のエネルギーが欲しいだけ。さ、私に負の感情をちょうだい」
これが虹菜の目的、私に近づいたのは負の感情が欲しいだけ……。
消えゆく意識の中で虹菜は更に語る。
「大丈夫、次に目覚めた時は私に関する全ての記憶は失っている」
その言葉と共に意識が無くなる。
……―――
夕方、私は涙を流しながら眠りから覚める。今日は二度目の寝起きに感じる。
この涙も二度目……。
でも、一度目の記憶が無い。私は涙を拭くと辺りを見渡す気になったのは勉強机の上であった。しかし、見ると何も無かった。
私は微睡の中でクマたんと再会したが……。
は~ぁ、現実の世界にクマたんなどもう居るはずもない。
「幹、起きたの?」
一階から母親の声がする。
「今、行く」
どうやら、母親は仕事を早退して家に居るらしい。私は頭をかきながらリビングに向かう。
おかしいな、家族の中に『ミキティー』と呼ぶ人が居たはず……。
「おはよう」
私は挨拶をすると母親は心配そうにしている。
「もう、夕方よ。幹は今日、体調が悪かったの?」
「分からない、でも、悪いモノか取れた感じ。そう、体が軽いから体調は良い」
「それならいいけど、だけど何か足りない気がするわ」
母親は不思議そうに小首を傾げる。私も同感だ、まるで妹が家出をした様な寂しさだ。
翌日の昼休み。私は校舎の屋上に居た。
あれ?高い所に立っていても死にたくならない。それは負の感情が無くなった気分であった。
それよりも、ここで楽しい思い出が残っている気がする。毎日、バカな話をして、楽しくお弁当を食べたはずだ。
私は首を傾げて長考していると……。
「ミキティー、担任が探していたよ」
不意にクラスメイトから声をかけられて思考回路がショートする。
『ミキティー!?』
誰からもミキティーと呼ばれていたが『姉様』が足りない!
思い出した!
私には『虹菜』なる義妹が居たはずだ!!!
「ミキティー?何を興奮しているの?こないだの中間テストで赤点だったでしょう」
あが……。
義妹が居たとの妄想もいいが現実は赤点で呼び出されているのだ。
結局、私は来週追試を受ける事になった。この高校は中間テストの成績不良者は追試なのだ。
科目は数学、英語、国語だ。
何やら全部の様な気はするが仕方ない。
しかし、義妹の虹菜を探さねばならない。親の呼び出し覚悟で勉強を止めて虹菜を探す事にした。
その後は壮絶な一週間であった。
『虹菜なる少女を探しています』とのチラシを作り駅で配り、人々の冷たい目線で心にダメージをくらう結果となった。
次は図書館で悪の組織について調べた。昔の新興宗教の大規模テロの本は沢山あったが名前も解らない悪の組織など載っている本など無かった。
あああ、かなりのエネルギーを無駄遣いした。
そして、赤い紐ビキニ姿で室内プールに行ってナンパをした。これは正確に言うと聞き込みのことである。
しかし、逆ナンパに終わり。無駄にアイドル気分で浮かれてしまった。
その結果、追試を放置したら本当に親が呼び出された。私は母親の前で担任に酸っぱく怒られた。
母親との帰り道の事である。
「やはり、義妹探しか?」
私は言葉につまり、うつむいて頷く。
「私も虹菜には戻ってきて欲しい。だが、幹が潰れる事には賛成出来ない」
その母親の正論に私は反論した。
「利用されただけでもいい、私は虹菜の笑顔を信じたい!」
……。
帰り道でしばしの沈黙の時間が流れた後。
黙り込む母親はおも重たい口を開く。
「危険な事はするな」
「でも、お願いがあるの。画像編集アプリに残っていた公園でキャンプしたいの」
「駄目だ、危険な事はするなと言ったはずよ」
「女子がアニメでキャンプする時代よ、お願いやらせて下さい」
「わかった、高校の方には上手く言っておく。だか、これがラストチャンスだ」
私は凛とした表情で会釈をして返事を母親に返すのであった。
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