第20話
橋を渡ると次の目的地まですぐだとテクトは言った。
「次の目的地って?」
「街道の敷設現場だよ」
それから暫く進むと、左手にそれらしき現場が見えてきた。アオイ達の通ってきた街道を出発点として南の方に街道を作っていた。その現場の近くに荷車を止め、テクトに連れられて作業風景を見に行ったが、大勢の人間が様々な作業をしているという事しか分からなかった。
隣にいたテクトが、尋ねるまでもなくそれを解説してくれて、一人一人何をしているのかようやくわかった。
まず路床と呼ばれる道路の基礎のさらに下の部分を作る者達がいる。初めに地面を二パッス程の深さに掘削していく者達。そしてシャベルで路床と呼ばれる一番下の部分を削って平らにしていく者達。それらが出した廃土を邪魔にならないように外に運んでいく者達。
そして、剥き出しになった路床を竪杵の様な物で叩いて固めていく者達。路床をしっかり固めておかないと、路面が歪みやすくなってしまうとテクトは言った。
その後に続くように、路盤と呼ばれる道路の基礎となる部分を路床に敷き詰めていく者達がいる。一番下に大きな石。その次にそれよりも小さな石。更にその次に砂利を敷き詰めていく。それらもそれぞれ突き固められて行き、最終的に砂が敷き詰められ、それも突き固められて路盤づくりは終わりだという。テクトが言うには、水はけを良くする為に中心線が盛り上がっているのだという。よく見れば僅かに椀を伏せたように湾曲していた。
そして最後に路面を敷いていく者達がいる。路面の石はアオイが想像していたよりも厚みがあった。
「やってみる?」
とテクトが聞いてきた。
「いいのかしら?素人がやっても」
「僕も一緒にやるから大丈夫だよ」
テクトはそう言い現場の責任者らしき人間の男性に話しかけに行った。その者を離れて見る分に、神経質そうだという印象を受ける。
テクトが戻ってきた。
「少しぐらいならいいってさ」
「そう。ならやりましょ。……それにしても一番偉いのにちゃんと許可をとるのね」
「まあね。現場ではその責任者の指示に従うべきだと僕は思っているし」
局員にはそれぞれその局員なりの計画と構想がある。決裁を出して以降は基本的にその局員の裁量と判断に委ねるべきだとテクトは言った。
それから、アオイ達三人は今まさに路面が作られている所へと向かった。街道が出来るであろう箇所の脇に様々な形の石材が集積されている。この石材は最初に見かけた石切場から運ばれてきた物らしかった。
「それじゃあ。僕がまずやって見せるね」
テクトはそう言い、既に敷かれてある路面をしばしの間じっと見て、それから石材が集積されている所へと向かった。そして一抱え程もある石を持ってきて、路面に並べた。
テクトの並べた石は既に敷かれている石の形にピッタリ合わさるようになっており、殆ど隙間が無かった。
「へー。凄いじゃない」
「『良き技術者とは良き職人でもなければならない』幼い頃から父さんにみっちりと鍛えられたんだよね」
次にアオイがやる事となった。テクトのしていたように、まず既に敷かれてある路面の形を見る。それを目に焼き付けてから集積場へと向かう。そしてその形にはまると思った石材を見つけるとアオイはそれを抱えて目当ての場所へ運んでいった。
「重……たい……わね!」
何とか持って行って合わせようとしたが、全然はまらなかった。向きや角度を何度か変えてみたがそれでも隙間は埋まることが無かった。
「……どうしたらいいのかしら?」
「別のに代えてみたら?」
軽々しくテクトは言うが、アオイにとってはかなりの重労働である。とはいえ、ここに置いていくわけにもいかないので、アオイは重たい石材を集積場に何とか持って帰った。
それから改めてぴったりはまるであろう石材を探す。適するであろう石材は直ぐに見つかった。
「これならいけるわ。きっと」
そう独り言を言いながら石材を持ち上げ、アオイは路面を振り返った。しかし、作業員の手によって、その箇所は既に別の石材が敷き詰められていた。
アオイは無言で石材を降ろした。アオイがやっている事は本職の者達の邪魔にならない範囲でやるしかない。楽しくなってきたところだったがこれで終わりのようだった。
「成功するまでやってみない?」
「……やるわ」
それからアオイは、何箇所も挑戦したが、本職の者に敷き詰められていく前にピッタリと石材をはめる事が出来なかった。
夕刻になり、アオイは降参した。
「もう……無理……」
筋肉が悲鳴を上げていた。路盤の上に置いた石材を戻す事すらできそうになかった。
「結局一回も成功しなかったね……。……ちょっと見てて」
テクトはそう言い、終業時刻になった為引き上げようとする作業員に、のみと槌を借りると石材を少し割った。
「はめてみて」
最後の力を振り絞り石材を動かすと、テクトに削られた石材はアオイがはめようとしていた箇所にピッタリとはまった。
「こういう方法もあるんだよね。毎回こうしてたら時間がかかるから誰もやらないけどね」
テクトは作業員に礼を言い、借りた道具を返した。
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