5. Satz:文化祭にむけて練習を

// SE チャイムの音

// SE ガララっと、引き戸を開く音


「きいてきいて、文化祭の発表なんだけど、閉会式の始まりに時間をもらえることになったの! たったの五分だけど全校生徒の前だから、キミ、大役だよ。うふふ」


// SE ポン、と肩に手を置かれる


(え、自分? と、面食らうあなた)


「うん、キミが弾くの。この頃すっごく上達したし、レパートリーも増えてきたしね! わたしはピアノで伴奏するから」


(始めて半年の自分が全校生徒の前で弾くなんて絶対にムリだ。先輩が弾いてくれ! とあなたは頼み込んだが、歌織は首を横に振った)


「ううん、キミが弾くの。弦はね、確かに指運びの技巧も大切なんだけど、なにより音がブレないことが重要なんだ。キミの指先のカタチ、軽く押さえるだけで、弦をぴたりと留められているでしょう?」


「ああ、指を揺らしてかけるビブラートはね、基本の音が安定しているからこそ、なの。一音一音をゆっくりと大切に弾く曲ほど、音の安定感が重要になってくるんだ」


「ね、ちょっと弾いてみて? そうだなぁ……『愛の夢』が、いいな」


(あなたはうなずくと、チェロを持ってイスに座った)


// SE ギシッとイスに座る音

// SE リスト『愛の夢』第三番 ※あなたの演奏で、主旋律のみ


「やっぱり、キミの『音』、すっごくいいなぁ……わたしの方がずっといっぱい練習してて、技巧はあるはずなのに。……ずるいよ、指の形は生まれ持った才能だもんね。あーあ、嫉妬しちゃう」// 今にもため息をつかんばかりに


(途中で演奏の手をとめる、あなた)


「でも、一番近くで聞いていられるのは、わたしだもんね」// いらずらっぽく


「ねぇ、わたしにも、弾いてる気分でキミの音、聞かせてもらっても、いい?」


(あなたは意味が分からなかったが、とりあえず頷いた)


「えへへ、じゃあ遠慮なく」


// SE 背中にふわりと寄り添う、衣擦れの音


「ねぇ、わたしにもきかせてよ、キミの愛の夢」// 耳元で、囁くように


// SE リスト『愛の夢』第三番 ※あなたの演奏で、主旋律のみ


「ふぁ……」// 耳元で、気持ちよさそうな吐息がもれる


// SE 演奏が終わり、最後の音が余韻を持ってフェードアウト


(間)


// SE チャイムの音


「え、もう予鈴よれい!?」


// SE パッと、あなたの背中から先輩が離れる気配


「そうそう、今日中に文化祭で演奏する曲目決めようと思ってたんだった! 閉会式だから、ドヴォルザークの交響曲第九番『新世界より』第二楽章から、『家路』はどうかな!?」// 我に返り、照れ隠しの早口で


(なんか難しそうだと、難色を示すあなた)


「とーおきー、やーまにー、ひーはおーちてー、のやつだよ」


(おお! と、あなたはうなずいた)


「ふふ、『家路』は宮沢賢治をはじめ沢山の人が作詞しているんだけど、堀内敬三の『遠き山に日は落ちて』がやっぱり一番人気だね」


「試しに、一度弾いてみよっか?」


(お願いしますと、あなたは言った)


// SE ドヴォルザーク『家路』 ※歌織の演奏で、主旋律のみ


「この曲もね、左から二本の弦だけで弾けるの。ビブラートなしでも重厚に響いて素敵な曲だし、キミにすごく合っているんじゃないかな。大丈夫、わたしもすぐ隣で、ピアノでサポートするからね」


(うなずくあなた。ふと、時計に気づく)


「あ、そろそろ完全下校時刻だね。さ、帰ろっか!」


// SE チャイムの音





【演奏の雰囲気】

・歌織:なめらかでそつがなく、ビブラートもかかっている、優等生の弾き方

・あなた:一音一音確かめるように弾きビブラートもかかっていないが、音に深みがあり、響きが良い

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