4. Satz:夏休み、演奏会デート

// SE チャイムの音


「あ、予鈴だ! そろそろ帰る準備しよっか」


「特にコンクールとか出るわけじゃないのに、夏休みも部活に来てくれてありがとう」// 嬉しそうに


// SE ソフトケースのファスナーを閉めるなど、チェロを片付ける音


「あのね、キミはコンサートって興味ないかな。すごく有名なチェロ奏者が、わりと近くのコンサートホールに来るんだけど……あの、よければ一緒に行かない?」// おずおずと


「ええと、世界的奏者の演奏を地元で聞けるなんてなかなかないし、その、これも部活動の一環ってことでどうかなって……はいこれ、チラシ」


// SE パラリと、紙を渡される音


(そこに書かれたお値段を見て、あなたは思わずのけぞった)


「え、八千円? ああ、その金額はS席のだよ! 学生席は、ほらこっち。当日参加OKで、ワンコインなんだ~。たぶんものすごく端っこだけどね」// クスクスと笑いつつ


「え、いいの!?」// 嬉しそうに


「じゃあ当日は、現地集合でね!」



(間)



// SE 蝉の声

// SE トントンと肩を叩かれる


「ごめんね、お待たせっ」


(振り返ると、私服姿の歌織がいた)


「えへへ、制服じゃない格好、初めてみた。なんか緊張するね……」


「えっ、ありがとう。このワンピース、気に入ってるんだ」


「なんだかデートみたい……」// ぼそっと


「えっと、なんでもない! 学生席は先着順なんだ。急いで行こう!」


// SE 石畳を走って向かう音


(建物に入ると、開演を待つ人でごった返していた)


// SE コンサートホールに集う人のざわめきが、しばらく続く


「ええと、学生席は……三階席の端っこかぁ。あ、でも右のほう、まだ一番前が空いてるみたい。行こう!」


// SE パタン、と座席を倒す音

// SE ギシッ、と座席に座る音


「はい、パンフレット。こんなに細身の女の人なのに、CDでも音の迫力がすごいんだ」


(歌織は綺麗な女の人の写真を指差している。あなたはパンフレットを覗き込んだ)


「生演奏、地元で聞けてラッキーだね♪」


(ホールのざわめきの中でも聞こえるように、歌織はあなたの耳元に手を添えた)


「そろそろはじまるみたい」// 耳元で、囁くように


// SE ざわめきが小さくなり、消える

// SE ビーッと、開演のブザーが鳴る

// SE ウゥン……とモーターの駆動音がして、緞帳が上がる

// SE 盛大な拍手の音(フェードアウト)


(しばらく、無音)※安眠向けの、プロ演奏を流しても


// SE 拍手の音(フェードイン)

// SE トントンと肩を叩かれる


「ねぇねぇ、終わったよ~」// 笑いを含んだ声で


(はっと目を見開くあなた)


「ふふふ、ぐっすり寝てたねぇ。気持ちよかった?」


(あなたは「はい、気持ち良すぎて、つい……」と、平謝り)


「ごめんね、そんなに謝らなくて大丈夫だよ。そうだよね、綺麗な音色を聞いてたら、眠くなってあたりまえだもん。チェロは人の声に似ているから、子守歌みたいだよね」


「うんうん、やっぱり、生音はいいよねぇ! でも席が端っこすぎて、ちょっと音のバランスが偏ってたかも? いつか、S席の真ん中で聞いてみたいなぁ……」// うっとりとして


「えっと、それじゃあ……これからどうする?」// 本当はまだ一緒にいたいけど、誘う勇気がなくて顔色を窺うように


「いいね! ケーキでも食べながら、ちょっと休憩していこっか」// 心底嬉しそうに


「えっと、ここのホールは確か併設のカフェがあるけど……すごい行列、だねぇ」// 軽く引きながら


「あ、外にアイスキャンディーの屋台でてる! あれ買って、そっちの木陰のベンチで食べようよ」


// SE 屋台に向かう、足音


「えっと、ソーダとピーチ、どっちにしようかなぁ……」


「うう、迷うなぁ……」


「あ、キミはソーダにするの? じゃあわたしはピーチ味、ひとつくださーい」


// SE シャワシャワシャワシャワと、セミの鳴き声がする木陰へ近づいて行く


「よし、ここにしよう」


// SE パッパッとベンチの木の葉を払って、腰を下ろす

// SE サワサワと爽やかな葉擦れの音

// SE シャクッと、アイスキャンディーをかじる音


「うーん、やっぱり暑いところで食べるアイスって、最高だよね! おととい台風が来たからかな、今日の風はちょっぴり涼しくて、気持ちがいいね」


// SE シャクシャクと、アイスキャンディーを食べ続ける


「ねぇ、ソーダの方はどんな味?」


「そっか、色だけじゃなくて、味もちゃんと違うんだ。おいしそうだね……」


「あのね、ひとくち、もらってもいい?」


(どうぞ、と、あなたは水色のアイスを差し出した)


「やった!」


// SE シャクッと、アイスキャンディーをかじる音


「はい、ピーチのほう、あげる」


(差し出された桃色のアイスキャンディーに、あなたは遠慮がちにかじりついた)


// SE シャクッと、アイスキャンディーをかじる音


「ね、こっちも美味しいでしょ? 気になってたの両方食べられてラッキーだ~」


「ああー、おいしかった。そろそろ駅も空いた頃かなぁ」


「うん、じゃあいこっか」


// SE 二人で連れ立って、石畳を歩き始める


(二人で連れ立って歩き、駅に到着)


// SE タイル張りの階段を上る音

// SE それほど大きくない駅の中らしい環境音が流れる


「ああなんだ、最寄り駅も同じだったんだ。なら行きも、駅から一緒に来ればよかったね」


「あ、電車来たよ!」


SE // 電車がホームに入って来る音

SE // プシューっというドアが開く音

SE // 数人が乗り降りする音

SE // プシューっというドアが閉まる音

SE // 発車メロディーが鳴って、電車が動き出す


(並んで座ると、あなたは今日の感想を歌織に話すことにした)


「なになに、最初の曲のこと? うん、私もすっごくワクワクした! 軽快なのにぐんぐん迫って来るようで、この先にどんな世界が広がっているんだろうって」


「うん、うん、ふふっ、だよね」


「ええっ、それホント!?」


「えっ、じゃあそっちの方は……」


(何気ない雑談に相槌を打つ声が、徐々にフェードアウト)


SE // タタンタタン……と、電車の走行音が続く

SE // トンっと、あなたの肩に歌織の頭が乗った

SE // 電車の走行音が続く中、すぅすぅと小さな歌織の寝息が混じる


(あと一駅で降りるところで、あなたは歌織の肩をそっとゆすった)


「ん……あ、ごめん、寝ちゃってた?」


「えへへ、これでおあいこだね」


SE // 電車を降りる人たちの、ガヤガヤ音


「今日はね、キミと一緒に来れて、すごく楽しかったよ。ありがとう」


「そっか、キミも楽しんでくれたんだね。よかったぁ……」


「うん、また良いコンサートあったら誘うね。キミも何かおすすめの場所とかあったら、教えてほしいな。その……特に音楽関連とかじゃなくても、いいから」


「えっ、それじゃただのデート!? ち、ちがっ、そんなつもりじゃ……!」


「だっ、だよね。びっくりしたぁ」// ほっとしたように


「でも、ちょっとガッカリ……」// ボソッと


「ええと、何でもない!」// 少しだけ慌てつつ


「それじゃあまた、学校でね♪」


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