3. Satz:初めての曲は

// SE チャイムの音

// SE ガララっと、引き戸を開く音


(あなたが第二音楽準備室に入って挨拶すると、中にいた歌織が嬉しそうに近づいてきた)


「えへへ、こんにちは! また来てくれて嬉しいな」


「音は安定して出るようになったし、今日は曲を弾いてみよっか」


「ふふ、そんなに身構えなくても、きらきら星、だよ」


(それならできそう、と、安堵するあなた)


「うん。きらきら星はね、弦は左の二本だけ、音も六音だけなの。うち二音は開放弦だから、指を使うのは四音だけでいいんだ。どんな感じか、まずわたしが弾いてみるね」


SE // 『きらきら星変奏曲』 ※歌織の演奏で、主旋律のみ


「こんな感じ! って、何をよそ見してるの?」// ちょっとだけ不満そうに


(あなたは目を逸らしたまま、「いや、先輩の足が……」とだけ、言った)


「えっ、足? ……ひゃっ!」


// SE 慌てたようにスカートの裾をひっぱる音


「あの、これはね、スカート、初めは長めに作ったんだけど、なんか昭和の不良みたいでヘンだって友達に言われてね、膝丈に直したの。でもこの長さでチェロ抱えたら、どうしても足出ちゃうから恥ずかしいんだけど、なんか、弾いてるうちに上がってきちゃうときあって!」// 慌てたように早口で


「あの、ごめん、また気づかないうちに上がってたら、早めに教えてくれる……?」


「あうう、よりによってキミの前で……」


「あの、ほんとにほんとに、アピールしてるとかじゃないからね? ぜったいぜったい誤解しないでね?」


(あまりにも必死に否定されるので、あなたはちょっぴりへこんだ)


「あっ、キミに見られるのが嫌なんじゃなくて! その……なんか恥ずかしすぎる、だけ」


(真っ赤になってうつむく歌織に、あなたも思わず顔を赤らめた)


「えっと、あの……次、キミが弾く番だよ! ほら、練習練習!」


(空気を変えようとする歌織にあなたは慌ててうなずくと、チェロを手に持った)


// SE ギシッとイスに座る音

// SE パラリと譜面台に楽譜を置く音


「ピアノとかだとキラキラ星はト長調の『ド』から始まると思うけど、この変奏曲はチェロで弾きやすいように、ニ長調の『レ』から始めるよ」


「あ、弓の上げ下げの記号、書き込んでおくね。このΠパイみたいな記号が下げるところで、Vが上げるところ、だよ」


// SE シャカシャカと、譜面にシャーペンを走らせる音


「これでよし、っと」


「では上手に弾く必要はないから、落ち着いて、ゆーったり、弓を引いてみて?」


// SE 『レー』


「ほら、ヴウウウウーンって、振動が伝わってきた……今日も良い音、だね」


// SE 歌織は小さく、だがうっとりとした吐息を漏らす


「じゃあ、最初の二小節、ひいてみよっか。レレララは開放で、シだけ、ほらここ、人差し指を置くよ。今は弓のほうをわたしが手を添えてサポートするから、左手の指をみていて」


// SE 背後に気配が移動し、衣擦れの音

// SE あなたの右手に、歌織の右手が重なる


「いち、に、さん、はい」// 耳元で、囁くように


// SE 『レーレーラーラーシーシーラー』


「ん、いいかんじ。次は二本目の弦に、指を全部置いて……」// 耳元で、囁くように


// SE 『ソーソーファ#ーファ#ーミーミーレー』


「ふふ、きらきら星になった。じゃあ、通しで弾いてみよっか」


// SE 『レーレーラーラーシーシーラー……』 ※徐々にフェードアウト

// SE 『ソーソーファ#ーファ#ーミーミーレー』 ※徐々にフェードイン


「うん、もう安定して弾けるようになったね! じゃあわたしピアノ弾くから、合奏してみようよ!」


// SE ピアノのイスを引く音


「準備はいい? いち、に、さん、はい」


// SE 『きらきら星変奏曲』 ※あなたの演奏で、ピアノ伴奏つき


// SE チャイムの音


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