第4話「亡国の姫」

4-1: 「目覚めと告白」


 暗闇の中、リバンスは息を切らせて逃げ続けていた。背後からは、バルザックの冷酷な笑い声が迫ってくる。突如、重圧が全身を包み込み、動けなくなる。


「お前は逃げられない」


 バルザックの声が耳元で響く。リバンスの首に冷たい手が伸びる。息ができない。視界が徐々に暗くなっていく――


「はっ!」


 リバンスは冷や汗をかきながら目を覚ました。荒い息を整えながら、周囲を見渡す。そこは古びた一室だった。薄暗い部屋に朝日が差し込み、埃っぽい空気が漂っている。


 ベッド脇の丸太椅子に、見覚えのある少女が座ったまま眠っていた。飛空艇での戦いを共にした彼女だ。リバンスは少女の顔をまじまじと見つめた。


 今まで気づかなかったが、彼女の顔立ちは整っていて、長い睫毛が印象的だった。艶のある黒髪が肩にかかり、穏やかな寝息を立てている。


(こんなにかわいい顔をしていたのか...)


 リバンスはそっと体を起こそうとしたが、激しい頭痛と体の痛みで顔をしかめた。その動きに反応したのか、少女がゆっくりと目を開いた。


 突然の視線の交差に、リバンスは慌てて目をそらす。頬が熱くなるのを感じながら、彼は咳払いをした。


「あ、あの...」


 リバンスが言葉を探していると、少女の方から声をかけてきた。


「やっと起きたのね」


 少女の声には疲れと安堵が混じっていた。彼女はゆっくりと椅子から立ち上がり、背筋を伸ばした。


「あなた、3日間も寝ていたのよ」


「3日間も...?」リバンスは驚きを隠せない。自分の体に目を向けると、傷の手当てがされているのに気づいた。「ずっと看病してくれていたのか?」


 少女は小さく頷いた。「みんなで交代でね」


 リバンスは感謝の言葉を口にしようとしたが、喉の渇きを感じた。少女はそれに気づいたように、テーブルの上の水差しから水を注ぎ、リバンスに差し出した。


 リバンスは感謝しながら水を飲み、喉の渇きを潤した。少し落ち着いてから、彼は周囲をゆっくりと見回した。


「ここは...どこなんだ?」


 少女は窓際に歩み寄り、外を見ながら答えた。「ミストヘイブンという町よ。飛空艇が墜落した場所から一番近くにあった小さな町なの」


 彼女は少し間を置いて続けた。「生き残った乗客たちと一緒に、ここまで避難してきたの」


 リバンスは眉をひそめた。「生き残りは...何人くらいいるんだ?」


 少女は悲しげな表情を浮かべ、小さく頷いた。「私たちを含めて、生き残ったのは十数人だけ...」


 その言葉に、リバンスは胸が締め付けられる思いがした。「たった...十数人...? そんなに多くの人が犠牲に...」


 彼は言葉を詰まらせ、拳を握りしめた。少女はリバンスの様子を見て、優しく声をかけた。


「あなたが気に病む必要はないわ。あなたがバルザックを倒さなければ、きっと全滅していたはず」


 リバンスは深く息を吐き、少女の言葉に感謝の意を示した。「ありがとう...でも、あんなに多くの命が失われたと思うと...」


 少女は静かに首を横に振った。「今は休むことに集中して。あなたの体はまだ回復中よ」


 リバンスはベッドに腰を下ろしたまま、少女をじっと見つめた。そして、ふと気づいたことがあった。


「そういえば、君の名前をまだ聞いていなかったな。俺はリバンス。君は?」


 少女は一瞬躊躇したように見えたが、すぐに答えた。「私は...ルーン」


「ルーン...」リバンスはその名前を口の中で繰り返した。どこか神秘的な響きを持つ名前だった。「変わった名前だな」


 ルーンは微かに笑みを浮かべた。「そうかしら。私の国ではそれほど珍しくないわ」


「君の国?」リバンスは思い出した。飛空艇での戦いの最中に聞いた、あの空賊の言葉を。彼は少し躊躇しながらも、聞いてみることにした。


「あのさ、ルーン。飛空艇で戦った時、あの空賊のボス...バルザックが何か言っていたんだ。君のことを『国から逃げた王女』と...それって本当なのか?」


 ルーンの表情が一瞬曇った。外の景色を見つめながら、深い吐息を漏らした。


「そうよ...私は確かに王女だった。でも、今はもう...」


 彼女の声には深い悲しみが滲んでいた。リバンスは急いで謝罪した。「悪い、聞くべきじゃなかったかもしれない」


 ルーンは振り返り、首を横に振った。「いいえ、気にしないで」彼女は一瞬、目を閉じて何かを決意するように見えた。「私の国は...ある組織に滅ぼされたの」


 リバンスは息を呑んだ。ルーンの表情には、言い知れぬ苦痛と怒りが浮かんでいた。


「よかったら...その話を聞かせてくれないか?」リバンスは慎重に言葉を選んだ。「無理をする必要はないけど」


 ルーンは少し考え込むような仕草を見せたが、やがて小さく頷いた。彼女はゆっくりとリバンスの近くの椅子に戻り、腰を下ろした。


「わかったわ。話すわ」彼女は深呼吸をして、話し始めた。


「私の国は、ヴァルディア帝国とガリア共和国の間に挟まれた小さな国だったの。私の父...国王の外交手腕は素晴らしく、両国との良好な関係を築いていたわ。小国でありながら、平和な日々を送ることができていたの」


 彼女の目に、懐かしさの色が浮かぶ。


「でも、その平和は長くは続かなかった」ルーンの表情が曇る。


「私たちの国には、ある秘密があったの。昔に失われたとされる技術...ロストテクノロジーに関する情報が、数多く保管されていたのよ」


 リバンスは息を呑んだ。「ロストテクノロジー?」


 ルーンは頷く。「ええ。その中には...世界を3日で滅ぼせるような恐ろしい古代兵器の設計図さえあったわ。もちろん、現代の技術では再現不可能なものばかりだけど」


「そんな危険な情報を、なぜ...」


「私にもよくわからないの」ルーンは首を横に振った。「ただ、その情報の存在は本来、国王とその直系親族しか知りえないはずだった」


 彼女の声に、悔しさが混じる。


「けれど、どういうわけか『ドミナージュ』という組織がその情報を手に入れたの。そして...」ルーンの拳が震える。「彼らは私たちの国を襲った。ロストテクノロジーの情報を奪うために」


 リバンスは黙って聞いていたが、ここで声を上げずにはいられなかった。「そんな...」


 ルーンは続けた。「父は...最後の手段として、全ての情報を魔法で私の心臓に封印したわ。そして、私だけを逃がしたの」


 彼女の目に涙が光る。「後日、様子を見に戻ったけれど...もう誰も...」


 言葉を詰まらせるルーンに、リバンスは思わず手を伸ばしかけた。しかし、途中で止める。


「だから私は...ドミナージュへの復讐を誓ったの。そして、彼らの情報を集めながら旅を続けてきた」


 ルーンは顔を上げ、強い眼差しでリバンスを見た。「バルザックたちも、おそらくドミナージュに雇われた者たちよ」


 リバンスは言葉を失った。目の前の少女が背負っている運命の重さに、圧倒されていた。


 ルーンの話を聞き終えたリバンスは、しばらく沈黙していた。彼女の背負っている運命の重さに、言葉を失っていたのだ。


「ルーン...そんな大変な経験をしていたなんて」リバンスはようやく口を開いた。「正直、どう反応していいか分からないよ」


 ルーンは小さく首を振った。「大丈夫よ。あなたに何かしてもらおうとは思っていないわ」


 リバンスは少し考え込むような表情を見せた後、「そうか...アーカルムへは何の用があって?」


「ドミナージュの情報が得られるかもしれないし、魔導都市のことだもの。私自身の力を高められる可能性も高いわ」


「なるほど」リバンスは理解したように言った。「俺もアーカルムに行くつもりだったんだ。自分の能力について調べたくてね」


「能力?」ルーンの声には興味が混じっていた。


 リバンスは頷いた。「ああ。俺には『複写再現コピー&ペースト』という能力があるんだ」


 そう言って、リバンスは自分の手のひらを見つめながら、その能力について説明し始めた。生まれつき魔法が使えなかったこと、突然この能力に目覚めたこと、そしてその能力の詳細を話した。


「...だから俺は、この能力についてもっと知りたくてアーカルムを目指していたんだ」リバンスは説明を終えた。


 ルーンは驚きと興味が入り混じった表情で聞いていた。「そんな不思議な能力があったなんて...」


「ああ。でも、まだよく分かっていないことばかりなんだ」リバンスは少し困ったように笑った。


 ルーンは考え込むような表情を浮かべた後、言った。「私たち、同じ目的地を目指しているのね」


 二人は互いの目を見つめ合った。同じアーカルムを目指していることに、何か運命的なものを感じる。


「じゃあ...一緒に行くのはどうだろう?」リバンスが提案した。「お互いの目的を達成するために、協力できるかもしれない」


 ルーンは少し迷うような表情を見せたが、すぐに微笑んだ。


「...そうね。一緒に行きましょう」


 こうして、思いがけない出会いから始まった二人の旅が、新たな一歩を踏み出そうとしていた。



4-2: 「静養と成長」


 アーカルムへの旅を共にすることを決めてから数日が過ぎていた。


 リバンスは窓の外を眺めながら、ミストヘイブンの穏やかな街並みに目を向けた。


 体の痛みは依然として残っていたが、少しずつ良くなっていることを実感していた。ルーンの献身的な看病のおかげで、ここまで回復できたのだろう。


「ルーン」


 リバンスは部屋の隅で本を読んでいた彼女に声をかけた。


「ありがとう。君のおかげでずいぶん良くなったよ」


 ルーンは本から顔を上げた。「いいえ。でも、まだ完全に回復したわけじゃないでしょう?」


「ああ」リバンスは頷いた。「でも、もう大丈夫だ。食事だけ運んでくれれば、あとは自分でなんとかできる」


「そう」ルーンは本を閉じた。


「じゃあ、私はアーカルムへの道順を調べたり、ドミナージュの情報を探ったりしてくるわ」


 リバンスは微笑んだ。「わかった。気をつけてな」


 ルーンが部屋を出ていくと、リバンスはゆっくりとベッドに腰を下ろした。


(さて、これからは回復に専念しつつ、能力の確認もしておかないとな)


 彼は飛空艇で購入した回復薬を手に取り、一口飲んだ。苦い味が口の中に広がったが、同時に体の痛みが和らぐのを感じた。


 そこから数日間、リバンスは回復薬を飲みながら静養に努めた。その合間に、彼は自分の能力、複写再現コピー&ペーストについて確認を始めた。バルザックとの戦いで起こった異変が、まだ彼の心に引っかかっていたのだ。


 バルザックとの戦いで見せた予想外の力。通常では考えられないほど多くのペーストを連続で行い、さらには当初コピーできなかった強力な重力魔法まで使えるようになっていた。この急激な能力の向上に、彼は戸惑いと期待を感じていた。


(なぜ、あの時はあんなことができたんだろう...)


 命の危険、そしてルーンを守らなければという強い思い。リバンスは、自分の感情の高まりが能力の強さに影響を与えるのではないかと考えた。しかし、それを自在にコントロールすることの難しさも感じていた。


 部屋にあるものを使って複写再現コピー&ペーストを試していると、コピーできる個数やコピーしておける時間、ペーストした後の持続時間などに向上が見られた。


 能力を使うたびに襲ってくる頭痛は、まだ完全には回復していない体を思い出させたが、自分の可能性が広がっていく感覚に、リバンスは静かな喜びを覚えた。


 そして、彼の思考は自然とルーンへと向かった。


 彼女の多彩で強力な魔法と自分の能力を組み合わせれば、単に威力を増すだけでなく、様々な戦術の可能性が広がるはずだ。その期待に、彼の胸は高鳴った。


 こうして、静かながらも充実した1週間が過ぎていった。



4-3: 「癒しの薬、柔らかな素顔」


 朝日が窓から差し込み、部屋を優しく照らしていた。リバンスはゆっくりとベッドから起き上がり、深呼吸をした。腕を伸ばし、首を回し、足首を軽くひねる。わずかな痛みは残っているものの、ほぼ回復したことを実感した。


「よし、ほとんど治ったみたいだな」


 リバンスは満足げにつぶやいた。


 部屋の隅では、ルーンが静かに本を読んでいた。彼女の周りには、何冊もの本が積み重ねられている。リバンスは彼女の横顔よこがおを見つめ、微笑んだ。


「ルーン、そろそろ出発の準備をしようか」リバンスは声をかけた。


「ただ、回復薬を使い切っちゃったんだ。この町で買えるかな?」


 ルーンは本から顔を上げ、首を横に振った。その表情には少し困惑こんわくの色が見えた。


「この町では売ってないわ。冒険者ギルドもないし、そういった文化がないみたい」


「え?ちょっと心配だな...」リバンスは眉をひそめ、腕を組んだ。回復薬がないのは少し不安だ。彼は部屋の中を行ったり来たりし始めた。


 ルーンはリバンスの様子を見て、静かに言った。


「材料があれば作れるわよ」


 リバンスは足を止め、驚いて目を見開いた。


「そんなこともできるのか。ルーンはどこまで多才なんだ」


 ルーンは少しれたような表情を見せた。彼女の頬が僅かに赤くなる。「別に...普通よ」と言いながら、視線をらした。


「よし、じゃあ早速材料を集めに行こう!」リバンスは元気よく言った。その声には、新たな冒険への期待が混じっていた。


 二人は町を出て、近くの森へ向かった。森の入り口は鬱蒼うっそうとしており、木々の間から漏れる光が地面に模様を描いていた。道中、小さなスライムやゴブリンとの遭遇もあったが、リバンスの複写再現コピー&ペーストとルーンの魔法で軽々と撃退しながら、順調に薬草や鉱物を集めていく。


「ねぇ、ルーン」リバンスは薬草をみながら声をかけた。


「どうして回復薬の作り方を知ってるんだ?」


 ルーンは少し遠い目をして答えた。「王宮で教わったの。万が一のために、色々な知識を身につけておくようにって...」


 その言葉に、リバンスは返答にまった。ルーンの過去を思い出し、何と声をかければいいのか分からない。


 突然、背後の草むらから「ガサガサ」という音が聞こえた。二人は警戒して振り返る。リバンスは剣に手をかけ、ルーンは魔法の詠唱えいしょうの準備をする。


 しかし、草むらから飛び出してきたのは、小さな白兎しろうさぎだった。その姿は、まるで雪の塊が動いているかのようだった。


「あー、びっくりした。ただの兎か」リバンスは胸をなでおろした。彼は剣から手を離し、緊張した体をほぐす。


 ふとルーンに目をやると、彼女は瞳を輝かせて兎を見つめていた。その表情は、今まで見たことのないほど柔らかく、幼い少女のようだった。


「もしかして、兎が好きなのかい?」


 リバンスが聞くと、ルーンは「ハッ」として我に返った。


「ふ、普通よ」


 ルーンは少しあわてた様子で答えた。彼女は急いで視線を逸らし、いつもの冷静な表情に戻ろうとする。


(へぇ、意外な一面があるんだな)


 リバンスは微笑ましく思いながら、少しいやされる気がした。ルーンの新たな一面を見られたことが、どこか嬉しかった。


 町に戻ると、ルーンは集めた素材を使って回復薬の調合ちょうごうを始めた。彼女の手さばきは素早く、正確だ。薬草をきざみ、鉱物を粉砕ふんさいし、それらを適切な比率で混ぜていく。


 その様子は、まるで芸術のようだった。


 リバンスはその様子を興味深く見守った。「本当に多才だな、ルーンは」


 ルーンは黙々もくもくと作業を続けながら、少し頬を赤らめた。「これくらい、誰でもできるわ」と言ったが、その声には少しだけほこらしげな響きがあった。


 必要な分の回復薬が完成すると、ルーンは「これで出発の準備は整ったわね」と言った。彼女の表情には、少しだけ達成感が見えた。


 リバンスはにやりと笑い、「兎は連れて行かなくていいの?」と茶化ちゃかした。


 ルーンは恥ずかしそうにしながらも、少し怒ったように「必要ないわ!」と返した。その反応に、リバンスは思わず笑ってしまった。


 翌朝、二人はミストヘイブンを後にした。朝霧の中、アーカルムへの道のりが始まる。


 リバンスは軽くびをしながら言った。


「よし、行くか」


 ルーンはうなずき、黙々と歩き始めた。


 二人の姿が徐々に霧の中に溶けていく。



4-4: 「未習の魔法」


 朝霧がゆっくりと晴れていく中、リバンスとルーンはミストヘイブンの町を後にしていた。


「よっしゃ、体の調子もバッチリだな」


 リバンスは腕を伸ばしながら言った。


「なあルーン、アーカルムまでどのくらいかかるんだ?」


 ルーンは少し躊躇しながら答えた。「その前に...寄り道をしたいの」


「寄り道?」


「ええ。昔お世話になった知り合いに会いに行きたいの」


 リバンスは首を傾げた。「どんな人なんだ?」


「王国がまだあったころ、王家の顧問魔法使いとして代々王家の魔法指導を行っていた女性よ」ルーンは説明した。


「魔法の知識がとんでもなくて、逆に知らないことを探す方が難しいほど精通しているの」


「へぇ、すごい人なんだな。でも、なんでわざわざ会いに行くんだ?」


 ルーンは真剣な表情で答えた。「実は...王家にのみ伝わる『融合魔法ゆうごうまほう』という魔法があるの。本来なら一定の年齢になった際に習得する過程に入るはずだったけど...」


 彼女の声が少し沈んだ。「その前に国が滅んでしまったから、私はまだその魔法を使えないの」


「そっか、それを習得しに行くってわけか」リバンスは理解したように頷いた。


「よし、行ってみよう。俺の複写再現コピー&ペーストのこともなにかわかるかもしれないしな」


 道中、リバンスは気になっていたことを尋ねた。


「その人も王国の生き残りなのか?」


 ルーンは首を横に振った。「いいえ、違うの。王国が滅ぶ前から別の場所に住んでいたわ。ミラっていう名前で、グリーンリーフという村にいるの」


「ミラさんか。どんな人なんだ?」


「もともとは王国の近衛魔法使いとして国防を担っていたんだけど、一線を退くと同時に今のグリーンリーフ村へ移り住んだの。静かな場所で穏やかに魔法について探求したいって理由だったわ」


 ルーンは説明した。「実力がとんでもないから、顧問魔法使いとして関わり続けてくれていたの。私も幼い頃、よく魔法の指導をしてもらったわ」


「へぇ、なんだかすごい人みたいだな」


 ルーンは少し恥ずかしそうに付け加えた。


「少し変わり者だけど、とてもいい人よ。それに...美人なの」


 リバンスは微笑んだ。「へぇ、美人か...」


 ルーンは呆れたように目を細めた。


「何を期待してるの」


「いや、なんでもないよ」リバンスは慌てて手を振った。


「それで、その村にはどうやって行くんだ?」


「『写し鏡うつしかがみの洞窟』という場所を抜けなきゃいけないの」


「写し鏡の洞窟?どんなところなんだ?」


 ルーンは説明を続けた。「もともとはただの洞窟だったんだけど、ミラが移り住んだ際に、王家の魔法や自分の知識が狙われるのを防ぐために、通り道の洞窟に魔法をかけたの」


「へぇ、どんな魔法なんだ?」


「洞窟の奥に行くと、自分自身を模した影が現れるの。それを倒さないと抜けられないようになってるわ」


 ルーンは少し不安そうに付け加えた。


「王家の人間や村人は影が出現しないで抜けられる仕様になってるから、今回抜ける時はリバンスの影を二人で倒すことになると思う」


 リバンスは複雑な表情を浮かべた。「自分が倒されるのを見るのは複雑な気持ちになりそうだな...でも、俺たち二人なら問題なく倒せるだろう」


 そうしてたわいもない話をしながら歩を進める二人。


 やがて、遠くに洞窟の入り口が見えてきた。


「あれだ」ルーンが指さす方向に、確かに大きな洞窟の口が見えている。


 リバンスは深呼吸をした。「よし、行こう」


 二人は新たな試練に向かって、ゆっくりと歩み寄っていった。

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