第2話「異能の探求」

2-1: 「帰還と報告」


洞窟どうくつからの脱出だっしゅつは、リバンスとグレンたちにとって命懸けのものだった。地響じひびきと共に崩れ落ちる岩壁の中、何とか無事に外へと脱出だっしゅつした彼らだが、その代償は決して小さくなかった。サラマンダーの尻尾しっぽの一撃で仲間の一人が命を落とし、残された者たちの表情には疲労ひろう絶望ぜつぼうが色濃く刻まれていた。


 リバンスは無言で周囲を見渡す。グレンをはじめとする仲間たちも、無傷ではいられなかった。皆、擦り傷や打撲だぼくを負い、服もボロボロに破けている。それでも何とか命だけは助かった。それが唯一の救いだった。


「行くぞ、町に戻ろう」


 グレンが低い声で言い、仲間たちはうなずいた。リバンスもまた、その言葉に従うようにして足を動かす。しかし、その足取りは重く、誰もが先ほどの恐怖きょうふと失った命の重さに囚われていた。道中、誰も言葉を発することなく、ただひたすらに歩き続けた。


 やがて、夕方ゆうがたになる頃、ようやく町が見えてきた。疲れ切った体を引きずるようにして宿屋やどやに戻ると、皆はそれぞれの部屋に籠る。リバンスもまた、自分の部屋に戻るが、彼の心中しんちゅうには一つの感情かんじょうが渦巻いていた。


「俺の中に、あの時目覚めたちから…あれは一体…?」


 リバンスは手のひらを見つめる。洞窟どうくつの中で、確かに何かが自分の中で目覚めたのを感じた。無意識のうちにサラマンダーの攻撃をコピーし、同じ技を放ったあの瞬間。それは、まるで神から与えられた贈り物おくりもののように感じられた。


 リバンスはその感覚かんかくを確かめるために部屋の中を見渡し、目に留まったのは小さな木製もくせいの椅子だった。彼は慎重に椅子に手をかざし、心の中で「コピー」と念じてみる。すると、彼の手に微かな光が集まり、その瞬間、椅子の形が頭の中に鮮明に浮かび上がった。


「これが…コピーしたってことなのか?」


 リバンスは不安ふあん興奮こうふんが入り混じった表情で、次に「ペースト」と心の中で呟いた。すると、目の前に同じ形の椅子がもう一つ現れた。驚きと喜びが彼の中で渦巻く。


「本当にできる…俺の力だ…!」


 彼は目の前に二つ並んだ椅子を見つめながら、これからの自分に少しだけ希望を見出した。リバンスはそう自分に言い聞かせ、わずかながらも希望を胸に宿のベッドに身を横たえた。


 翌朝よくあさ、リバンスが目を覚ますと、昨夜コピーした椅子が消えていることに気づいた。部屋を見回し、もう一度同じ場所に椅子を探すが、やはり見当たらない。


「まさか…時間じかんが経つと消えてしまうのか?」


 彼は疑問ぎもんに思いながら、再度椅子に手をかざし、コピーしようと試みた。しかし、その瞬間、一階からグレンの怒鳴り声が響いてきた。


「リバンス!いつまで寝てるんだ、早く降りてこい!ギルドに行くぞ!」


 その声に驚いたリバンスは、急いで身支度みじたくを整え始める。試したかったことはひとまず後回しにし、彼は階段かいだんを駆け下りた。


 ギルドの建物はいつも通りにぎわっており、冒険者ぼうけんしゃたちの声が飛び交っている。リバンスとグレンたちが受付に向かうと、グレンが怒りを抑えきれず、受付嬢に向かって怒鳴り始めた。


「あんな危険な依頼だとは聞いていない!仲間が一人死んだんだぞ!」


 その声に、周囲の冒険者ぼうけんしゃたちが何事かとざわつき始める。ギルド内の喧騒けんそうは一瞬にして静まり、視線が一斉にグレンに集まった。何が起こったのか、誰もが興味津々きょうみしんしんで耳を傾けている。


 受付嬢は困惑こんわくした表情でグレンを見つめるが、すぐにギルドマスターギルドマスターのウルスが現れ、間に入った。


「落ち着け、グレン。ここで騒いでも何も解決しない。とにかく、事の詳細を聞かせてもらおう」


 ウルスは落ち着いた声で言いながら、リバンスとグレンたちを別室べっしつに案内した。その背中には、大柄で屈強くっきょう体躯たいくから感じられる威圧感いあつかんがあったが、その目はどこか優しげで、彼が歴戦れきせん冒険者ぼうけんしゃであることを物語っていた。


2-2: 「試運転」


 ギルドの応接室には緊張感が漂っていた。グレンが怒りに満ちた顔で話し始めた。


「俺たちは、ギルドの依頼で小型モンスターの討伐に向かったんだ。洞窟どうくつの中でモンスターを倒していた時、不意に激しい地響きがして、突然落盤が起きた! 退路が塞がれてどうしようもなくなり、仕方なく奥へ進んで行ったら、目の前にあのサラマンダーが現れたんだ!」


 グレンの声には、アクシデントに見舞われたことへの動揺と怒りが滲み出ていた。


 ウルスは眉をひそめ、「あの洞窟どうくつにそんな危険なモンスターが現れることはありえない」と低い声で言った。


「でも現れたんだよ!まったく信じられない…俺たちは全力で逃げたが、一人がやられてしまった。俺たちは必死だったんだ。結局、なんとか逃げ延びたが…」


 グレンは悔しそうに言葉を続けるが、そこで言葉を詰まらせる。


 ウルスはそんなグレンの様子を見て、リバンスに目を向けた。「リバンス、何があったんだ?」


 リバンスは緊張しながらも口を開いた。「実は…あの時、俺に不思議な能力が目覚めたんです」


「不思議な能力…?それはどういうものだ?」


 リバンスは深呼吸をし、続けた。「俺の能力は『複写再現コピー&ペースト』といって、目の前の物や技をそのままコピーして、好きな時に再現できるというものです。ただ…まだ自分でもよくわかっていなくて、どうしてこの能力に目覚めたのかも、全然…」


 ウルスは目を見開いた。「そんな魔法まほうスキルすきるは聞いたことがない…。それで、その能力を使ってサラマンダーの攻撃をしのいだのか?」


 リバンスは一瞬ためらった後、説明を続けた。「この能力を使って、なんとかサラマンダーの攻撃を防ぎながら隙を見つけて逃げることができたんです。本当に必死で、どうにかこうにかやり遂げたという感じで…」


 ウルスは少し驚いた様子を見せながらも、真剣な表情で頷いた。「なるほど、そんなことが…」


 ウルスは深く息を吸い込み、「事情はわかった。まずはギルドの事前の調査が不十分であり、それにより犠牲者が出てしまったことを謝罪する。今回の件はギルドで改めて調査する」と謝罪の言葉を述べた。


 だが、その言葉にグレンは怒りを爆発させた。「謝罪で済む話じゃねぇだろ!こっちは仲間が死んでいるんだぞ!」


 ウルスは冷静にグレンを見据え、「その気持ちはわかる。だが、冒険者になった以上、いつどんな時でも命の危険があることを理解してほしい。それが納得できないというなら、冒険者をやめた方が良い」と強い口調で返した。


 グレンはウルスの言葉に一瞬たじろいだが、悔しさを抑えきれず、「くそ…こんなギルドなんか信じられるか!」と捨て台詞を残し、部屋を飛び出していった。彼の仲間たちもそれに続いた。


 リバンスも立ち去ろうとしたその時、ウルスが彼を呼び止めた。「リバンス」


 振り返ったリバンスに、ウルスは静かに言った。「お前のその能力は非常に珍しいものだ。しかし、使い方を誤れば大きな危険を伴う。くれぐれも注意して使うんだ」


 リバンスは少し驚きながらも、ウルスの言葉に頷いた。ウルスの凄みがかった忠告に、彼は改めて自分の能力を知る必要があると再認識した。


「はい、わかりました。気をつけます」


 リバンスは心中でそう思いながら、宿へと戻っていった。


 宿に戻ったリバンスは、すぐに自分の能力を試すため、草原へと向かった。


 草原にたどり着くと、リバンスはウサギ型の小型モンスターを見つけ、能力を試し始めた。手をかざして「複写再現コピー&ペースト」を行うと、目の前に全く同じウサギ型の小型モンスターが現れた。


「本当に…できるんだ」


 リバンスは驚きと興奮を感じながら、次々とモンスターや岩をコピーし、ペーストしていった。その中で、いくつかの重要なことに気づき始める。


「まずは…コピーしたものは、どうやらオリジナルと全く同じらしい。技や魔法も、見た目も、完全に再現されている」


 次に、リバンスは試しにウサギ型モンスターをもう一匹コピーしようとした。しかし、頭に鋭い痛みが走り、コピーがうまくいかない。


「どうやら、今の俺には同時に2つまでしかコピーできないみたいだ…それ以上は無理か…」


 また、コピーしたウサギ型モンスターはしばらくするとふっと消えてしまった。リバンスは時計を確認し、消えるまでに約10分かかったことを知る。


「どうやら、ペーストしたものの持続時間は10分程度のようだ…」


 リバンスはさらに試すため、岩と小型モンスターを並べて同時にペーストし、消えるまでの時間を確認した。どちらも同じ時間で消えることを見て、持続時間が物の大きさや種類に関係ないことを理解する。


「持続時間は物の大きさや種類に関係なく同じか…」


 さらに、リバンスは岩をコピーした後、しばらくして感覚が薄れていくのを感じた。「どうやら、コピーを保持できる時間も限られているようだ。これも5分くらいか…」


 次に、リバンスはスキルや魔法をコピーして試してみた。小型モンスターの技をコピーしてみると、それは簡単に再現できたが、どうやら体力と精神力をかなり消耗するようだった。


「簡単な技でも、使い続けると疲れる…大きなものや強い魔法なら、もっと疲れるんだろうな」


 こうしてリバンスは、自分の能力の範囲と限界について少しずつ理解していった。


 ふと前方に中型のモンスターが現れた。リバンスはそれを見て、新たな挑戦の予感を感じた。


「…あれも試してみるか」


 リバンスは心の中で決意を固め、緊張と期待を胸に、中型モンスターに挑む準備を始めた。


2-3: 「芽生える自信と妬む者」


リバンスは草むらに身を隠し、目の前の光景をじっと見つめていた。そこには、身の丈が自分の倍以上あるレッドオークが立っていた。レッドオークは手に巨大な棍棒を持ち、時折うなり声を上げながら周囲を見回している。ここは草原の真ん中で、リバンスは今、単独でこの危険なモンスターに挑もうとしていた。


「いけるか…?」


 リバンスは自分に問いかける。あの洞窟で手に入れた「複写再現コピー&ペースト」の能力があれば、もしかしたらレッドオークに立ち向かえるかもしれない。しかし、サラマンダー以降、強いモンスターを相手にこの能力を使ったことがないため、少なからず不安を感じていた。


「いや…試してみよう!」


 リバンスは決意を固め、静かに草むらから姿を現した。そして、「複写再現コピー&ペースト」の呪文を唱え、コピーしておいたスティールラビット2匹をペーストする。


「ペースト!」


 瞬時に、リバンスの前には2匹のスティールラビットが現れた。彼らはすぐにレッドオークに向かって駆け出し、足元で攻撃を仕掛け始める。スティールラビットたちはその小柄な体を活かし、ヒット&アウェイの戦法でレッドオークの注意を引いている。レッドオークはうなり声を上げながら棍棒を振り回し、彼らを追い払おうとするが、その素早い動きにはついていけない。


「よし、今だ…!」


 リバンスはチャンスを見計らい、レッドオークをコピーするために「複写再現コピー&ペースト」を発動した。しかし、まだ未熟な能力のためか、レッドオークの強大な存在をコピーすることができず、何度も失敗してしまう。リバンスは焦りを感じながらも、心の中で叫ぶ。


「どうして…サラマンダーはできたのに…レッドオークがコピーできないなんて…!」


 スティールラビットたちはまだレッドオークの攻撃をかわし続けていたが、その一匹がついにレッドオークの棍棒の直撃を受けて消えてしまう。リバンスは焦りを感じつつも、残りの1匹がまだ攻撃を続けていることを確認し、もう一度集中し直す。


「もう1匹がやられてしまえば次は俺の番だ。ここで決めるしかない…!」


 リバンスは深呼吸をし、冷静さを取り戻そうと努める。残りのスティールラビットが必死にレッドオークの攻撃をかわしている中、再び「複写再現コピー&ペースト」を試みる。必死に集中力を高めながら、リバンスは頭の中でレッドオークの姿を思い浮かべる。だが、その瞬間、レッドオークの棍棒がスティールラビットにかすり、地面に倒れ込んでしまう。


「コピー…!」


 レッドオークは倒れたスティールラビットに邪悪な笑みを浮かべ、棍棒を振り上げた。


 次の瞬間、レッドオークの頭部が棍棒によりぐしゃっと潰された。巨体はぐらりと揺れた後、崩れ落ちて動かなくなった。その後ろには、リバンスがペーストに成功したもう一体のレッドオークが立っていた。


 リバンスは追い込まれた状況の中なんとかコピペを成功させ、見事にレッドオークを倒すことに成功した。疲れで膝をつきながらも、自分の能力で勝利を収めたことに安堵し、少しだけ誇らしい気持ちになった。


「この力で…戦っていけるかもしれない…」


 妹の治療費を稼ぐために、この力をもっと磨いていこうと、リバンスは新たな決意を胸に抱いた。


 その頃、宿の一室では、グレンがソファに深く腰を沈め、苛立ちを募らせていた。彼の頭の中では、洞窟でリバンスに助けられた屈辱的な瞬間が何度も再生されている。


「なんで俺が、あんな奴に…」


 彼の拳は、気づかぬうちに強く握りしめられていた。無能だと思っていたリバンスが突然能力に目覚め、自分を助ける立場に立ったという事実が、彼のプライドを打ち砕いていた。


 さらに、ギルドへの不満も彼の苛立ちを増幅させていた。当初は簡単な依頼だったはずが、サラマンダーがなぜか現れるというアクシデントにより、事態は一変し、危険な状況になったのだ。それに対するギルドの対応は、ただの軽い謝罪だけだった。


「ふざけるな…こっちは仲間を失い、さらに死にかけたんだぞ…」


 グレンの中で、リバンスへの嫉妬と怒り、そしてギルドへの不満が混ざり合い、彼の心をさらに混乱させていく。


「もう一度、あいつに立場をわからせる必要がある…」


 グレンは決意を固め、リバンスに再び自分の存在を示すための行動に出ることを心に誓った。その瞳には、リバンスへの対抗心と、自尊心を守ろうとする強い意思が宿っていた。


2-4: 「嫉妬の炎」


 リバンスはギルドの納品窓口に到着し、破損してしまったレッドオークの角を手にしていた。素材としての価値は少し落ちてしまうだろうが、試しに納品することにした。


「すみません、こちらの素材を納品したいのですが…」

 リバンスが窓口に角を差し出すと、係員は驚いた様子で彼を見た。


「これは…レッドオークの角ですね。通常、こういった素材は5人以上のパーティで討伐して持ち帰るものですが…代理提出ですか?」

 係員の疑念に満ちた質問に、リバンスは少し悲しげに笑った。彼の今までの実績からすれば、疑われるのも無理はない。


「いえ、俺個人の納品物です。」

 リバンスの返答に、係員は一瞬黙り込んだ後、「了解いたしました。それではこれより鑑定作業に入りますので、しばらくお待ちください」と答え、角を持って奥へと消えていった。


 鑑定が終わるのを待つ間、リバンスはギルドのロビーで椅子に腰掛けていた。周囲を見渡すと、冒険者たちが集まって情報交換をしたり、次の依頼を探していたりする光景が広がっていた。


 リバンスがロビーで待っていると、グレンたちがギルドへやってきた。グレンはリバンスを見つけると、すぐに大声を上げた。


「おい、雑用係!これから西の草原にできたアイスバードの巣を潰しに行くぞ。いつも通り荷物持ちでついてこい。」


 リバンスは少し迷ったが、「俺の納品素材の鑑定が終わるまで少し待ってくれないか。」と返事をした。

「納品素材?」とグレンが疑わしげに聞き返したその時、ギルドの鑑定士がリバンスに声をかけた。


「レッドオークの角の鑑定が終わりました。窓口までお越しください。」


「レッドオークの角だと!?どこでそんなものを手に入れたんだ!」

 驚くグレンを横目に、リバンスは静かに「俺が倒したんだよ」と言いながら窓口へ向かった。


 鑑定士はリバンスに鑑定結果を告げた。「鑑定結果でございます。こちらのレッドオークの角は折れてしまってはいますが、倒したレッドオークは通常個体より大きいものだったのでしょう。角のサイズがギルドの納品基準を大きく超えているため、今回は15ゴールドで取引させていただければと思います。」

(1000シルバー=1ゴールド)


 リバンスはその言葉に目を見開いた。今までグレンのもとで雑用をこなしながら、一つの依頼をこなしてもせいぜい100シルバーしかもらえなかった。リバンスの1か月の生活費は平均して800シルバー、妹の薬代を足して約1ゴールド必要だった。15ゴールドという報酬は、リバンスにとって15か月分の稼ぎになる。


 喜びと驚きが混ざった表情で、リバンスは窓口から15ゴールドを受け取った。この能力を使えば、自分でもこれだけの金額を稼げるという希望が胸に広がった。


 素材を受け取ってグレンたちのもとへ戻ると、グレンは不機嫌そうに言った。「おい無能。どこからレッドオークの角なんて盗んできたんだ。」


「盗んでいない。倒したと言ってるだろ。」リバンスは少しイラつきを隠しきれない様子で答えた。「それより、西の草原へ行くんだろ。早く行こう。」そう言ってギルドを出ていくリバンス。


 グレンは驚きを隠せないまま、リバンスの後を追った。「リバンスがレッドオークを倒すなんてありえない。俺ですら歯が立たないというのに…」


 リバンス、グレン、その仲間たちは西の草原にたどり着いた。目の前にはアイスバードの巣が見える。氷を操るアイスバードというだけあって、巣の周りは周囲の風景から浮いていて、巣の半径10メートルほどの地面が完全に凍り付いていた。


 グレンはリバンスに向かって言った。「いつも通りお前は素材を拾っていりゃあそれでいいんだ。まぁ、おとり役を買って出るんなら戦闘に加えてやってもいいぞ。」

 その言葉に笑いながら賛同する仲間たち。リバンスは悔しい気持ちを抑えつつ、「わかったから早く済ませよう」と答え、戦闘が始まった。


 アイスバードに対して炎を使うグレンが有利に戦いを進めていたが、アイスバードはC+ランクのモンスターであり、簡単には倒れなかった。アイスバードの攻撃により、仲間たちが次々と負傷していく。後方からその様子を観察していたリバンスは、自分ならどう戦うかをシミュレーションしていた。


 グレンの攻撃が届かず、仲間たちが負傷する状況が続く中、グレンの焦りが次第に募っていく。そしてついに、仲間との連携を無視してアイスバードに突撃した。


 しかし、アイスバードはその単調な動きを見抜いていた。グレンの片足を凍らせ、地面に固定する。動けなくなったグレンに向かって、アイスバードがアイススピアを放つ。


「まずい!」とリバンスは咄嗟に「複写再現コピー&ペースト」を発動し、アイススピアを相殺した。グレンは驚いた顔でリバンスを見た。


 リバンスは動揺するグレンを尻目に素早く行動した。グレンのファイアボールを複写再現コピー&ペーストし、そのファイアボールを経由して仲間のウインドカッターを2度複写再現コピー&ペースト。ファイアボールを飛び越えたウインドカッターは「火×風」の相乗効果で炎を纏い、「ファイアカッター」となってアイスバードに直撃した。


 2連続ペーストにより威力が増した攻撃により、アイスバードは避けきれず倒された。リバンスが素材を回収するために歩き出すと、グレンとその仲間たちは驚きの表情でリバンスを見つめていた。


「なに勝手なことをしてるんだ!」と怒鳴るグレン。リバンスは冷静に答えた。「俺が助けなかったらお前はやられてただろ。助けてくれた俺に対して一番に言うことがそれかよ!」


「うるせぇ!この前の洞窟からすこし調子に乗っているみてぇだな。お前は俺らの雑用係なんだよ。大人しくしてりゃいいものを、立場をわからせなきゃいけねえみたいだな!」グレンはそう言いながら武器を構え、その仲間たちもリバンスを囲んだ。


「私はグレン様の雑用係です。どうかお許しください。と泣いて謝ればまだ許してやるよ。」と歪んだ笑顔を浮かべるグレンに対し、リバンスは静かに応じた。「グレン。お前は人を下に見て貶めることでしか自分を保てない人間なんだな。今までは扱いこそ悪かったけど、無能な俺を誘ってくれて金を稼ぐ機会をくれたお前に感謝はしていたんだよ。でも武器を向けるということはそういうことでいいんだな。」


 リバンスは「ペースト」と唱えた。その瞬間、アイスバードが再び現れた。リバンスはアイスバードを倒す寸前にコピーしていたのだ。


 驚きと恐怖で動揺するグレンと仲間たちを見ながら、リバンスは静かに言った。「今日この場を持って俺はお前たちのパーティから抜けるよ。今まで一緒に稼がせてくれた恩だ。命まではとらない。」


 リバンスはアイスバードに「足を凍らせて動けなくしてくれ」と指示を出す。次の瞬間、アイスバードの「アイスウィンド」が放たれ、グレンとその仲間たちの腰から下が凍りつき、動けなくなった。


「何しやがる!!おい!許さねぇからなぁ!!!」というグレンの叫びに対し、リバンスは冷ややかに「ここでしばらく反省してろ」と言い、倒したアイスバードの素材を素材袋に詰め込み、その場を去った。


 グレンの心には、リバンスへの屈辱と恨みの炎が激しく燃えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る