第14話


 ……ここからの話は余談となる。

 ザウザウルスに興味を惹かれた Jardin d’iris のオーナー、小野孝之は、焼きドー・ザウザウルスの製造元である瀬宮甘味屋に新商品の提案を持ち掛けた。小野孝之プロデュースの焼きドー・ザウザウルスを出さないか、という提案である。


 小野孝之はコンテストで賞を取るほどの実力あるパティシエである。それならば悪くはない話だと丸美の父親も前向きになり、とんとん拍子で商品化までに至った。

 小野孝之プロデュース、焼きドー・ザウザウルス「チョコ餡味」は、その半年後に瀬宮甘味屋と Jardin d’iris 両店にて販売を開始した。


 この商品は雑誌に紹介されるや否や評判を呼び、奇跡のコラボとしてまたたく間に製造が追いつかないほどの人気商品となった。


「チョコと餡と和菓子、みんなで一緒に食べてくれればいいのに」という丸美の夢はここで叶ったわけである。


 最悪かと思っていた篠原との出会いは、案外悪くなかったのかもしれない。丸美は今になって彼への見解をほんの少しだけ見直している。

 本当に、人生って何がどうなるか分からない。


 そしてもう一つ、余談の話。


 このザウザウルスチョコ餡味に歓喜したのが、ザウザウルスオタクの人気漫画家、北寄ススムだった。


 アシスタントの人や相談社でお世話になっている人に配りたいからと、チョコ餡味を五十個注文してきた。これにはさすがの丸美の父親も腰を抜かしてしまった。しかもそのほとんどは北寄ススムが食べきってしまったとの噂だ。


 彼はこの焼きドー・ザウザウルスと瀬宮甘味屋、そしてあわら市との出会いにすこぶる感謝していた。その感謝の気持ちを届けようと、とうとう福井市美術館で漫画イラスト展まで催すことになった。


 世界的に有名な漫画家の初の漫画イラスト展である。それがまさか、この福井で開催されるようなことになるとは、誰も予想していなかった。更にはサイン会まで実施するとの情報まで入ってきて、北寄クラスタの間に衝撃が走った。


 次回作ではあわら市を舞台にしたバトルホラー漫画を描こうと、北寄本人が乗り気になっていた。この企画には、ファンはもとよりあわら市の市長までがむせび泣いて感謝した。この漫画の聖地にしてみせると、漫画が始まる前から市長が張り切って宣言していた。


 あわら市が、漫画の聖地になる。全く、人生って何がおこるか本当に分からない。

 誰かとの出会いも、別れも、すべて何かに繋がっている。それを教えてくれたのが大阪生まれのザウザウルス、そして焼きドー・ザウザウルスだったなって丸美は思う。


 丸美はチョコ餡味をぱくっと一口食べた。和菓子とも違う、かと言って洋菓子とも言えない、不思議な感覚が口いっぱいに広がる奇跡の味。お互いがぶつかり合うこともなく逆に魅力をひき立てている、優しい思いやりの味がした。


 あわら市名菓「焼きドー・ザウザウルス」

 あわらに来たら、みんなも一つ、食べてみよっさ。


《完》

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