第24話 魔人判定薬

 薬を作るということで、ギルドが薬師用の工房がある一軒家を貸してくれる事になった。


「なかなか良い所ね」

「こっちにお風呂もあるぞ」


「ホント、助かるわ」


「うん、一息つけそうだ。じゃ皆んなを出してあげよう」



ーー


腹ごしらえをした後、一通り皆んなに説明して納得してもらい、一安心。



「それでは私は薬師を演じればよろしいので御座いますね?」


「そうなんです。お手数かけますけどお願いします」


「いえいえ、ヘイシロウ様のお頼みでしたら喜んでお引き受け致します」


「サイモンは演劇鑑賞が好きだったものね」

「左様でございます。完璧に演じきって見せますぞ」



「それで、どうするの?」


「俺がスキルで簡単にあんな物は削除出来るんだけど、人前でやるのは問題がある」


「それはそうよね、問題有りすぎ」


「そ、そこでだ、先ずは美夢に薬で何とかなるか診てもらう事にする」


「美夢ちゃんか、なるほど」


「では、『憑依召喚、美夢!』」



美夢は俺に憑依した。……これは嵯哭さないが憑依した時にも感じる事なんだが、俺の見たこと感じた事を受け取っている気がする。


「事情はだいたい解ったわ。……そうね、セシリアの協力がちょっと必要かな」


「えっ?なになに」


「そんな大した事ではないのよ。セシリアが精気を吸い取って魔人を倒す時の例の触手。魔物の肉にその触手を使って欲しいの」


「どうしてなの?」


「簡単に説明すると、精気を吸い易くする為に触手から何らかの分泌物が出ている感じがするのよね。でないと、あんな短時間でサラサラの粉にならないもの。もっともスキルのせいと言われれば、それまでだけど」


なるほど、血が固まらず吸い易くするする為に、蚊が血を吸う時に出す唾液の様な物か。


「う~ん……解りました」


持っているミノタウロスの肉はもったいないので、肉屋に行ってオークの肉の塊を買ってきた。




「どうすれば良いの?」

「精気を吸い取るつもりで触手を刺して」


「了解」


セシリアの人差し指の先から一本の触手が伸びて出ていく。


どこからでも出せるんだ。便利だな。


オークの肉の塊は直ぐに萎んで行く。



「ストップ!……もとい、止めて」

「は、はい」



美夢は触手の刺さった付近の変色した肉を切り取り、細かく刻んで行く。


それを試験官に入れるとエルフの国で造った透明の液体を注いだ。それを丹念に混ぜ込むと赤く濁った液体の出来上がりだ。


濁った液体の入った試験官を手動式の遠心分離機に挟みクルクルと暫く回す。


綺麗に分離した透明の液体の上の部分をビーカーに移す。


美夢はそれをじっと眺める。美夢が憑依した俺にはそれが触手から出された分泌物だと解った。


「何か判ったの?」


「ええ」


この世界では何と言うのだろう。いや、認識されているのだろうか?元の世界で例えるのなら硫酸に近い成分だ。


これをコピーして量産する。濃縮、精製して魔核にだけ作用して赤ちゃんの正常な細胞には害のないように作り変えないといけない。


「イズナ、仮設の診療所に行って正常な赤ちゃんの細胞と魔核に侵されている細胞をちょこっとずつ取って来てくれないか。赤ちゃんの傷はちゃんと治してくるんだよ」


「了解しました。ヘイシロウ様」



ーー


イズナが採取してきた細胞で何回か実験を繰り返す。5回目の改良で魔核の細胞だけが消えて無くなった。


「凄いわね。さすがは美夢」

「もっと褒めてくれて良いのよ」



この世界に来た時に、魂や霊にスキルが付くかは判らないが、俺と同じ様に特殊なスキルが付いていたとしても美夢は天才だよね。


この薬、丈の狙撃ライフルの弾丸に詰めても良いのじゃない?


リサの拷問にも使える、絶対。


待てよ、これなら魔人を判別出来るよな。俺やセシリアのように鑑定能力が無くたって魔人を見つける事が出来る、識別薬って事だ。


これを射つのを嫌がったりすればもちろんの事、射って溶ければ一目瞭然だもの。



「OK、後は注射器と薬を赤ちゃんの数だけ作れば準備完了」




ーー



「もう薬が出来たのですか?」


「はい、卵の根が赤ちゃんの内臓や頭の中心に達する寸前でしたので昼夜を問わず研究致しました」


「それにしてもこのような奇病の対処法がよくお判りに」


「はは、私は全国を旅して風土病に精通しておりますからな」





「ふふっ、サイモンたら、もっともらしい事を言っているわ」


「ホントだね」


街中の薬師が手分けして魔核除去の薬の入った注射を卵にしていく。


5分ほど経つと、セシリアに精気を吸われサラサラの粉になった魔人とは違い、卵は干乾びてポロリと赤ちゃんから落ちた。


念の為、赤ちゃんを録画して診てみる。大丈夫、侵食していた魔核細胞は綺麗に消えていた。




ギルドに対して魔核の事を説明しなければならないのだが……。



「つまり、何者かが赤ちゃん達を使って実験をしてたって事か?」


「そうです」

「なんの為に?」


「自分の思い通りに動く者を造る為に」

「何だと!」


「確かにそれが本当だとするとあまり公には出来ないな。奴らの戦闘力は見えていないし調査する必要がある。エルフや獣人、ドワーフのギルドとも連携を取りたいし」


「……とするとだ、タレコミしてきた者は何者かという事だが」


「奴らを裏切った者か、あるいは敵対する者か」

「うむむ」



ギルド長とマッカラムさん達は考え込んでしまった。無理もない。


裏では俺達が戦うので、表では冒険者ギルドに頑張ってもらおう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る