第22話 救出 ①
険しい山道を想像していたが、そうではなく緩やかな坂だった。ただ、道らしいものは無く、木々の合間を縫うように進んでいく。
1時間程度登った所で斥候パーティを仕切っているクレアキンさんがマッカラムさんに声をかけた。
「この辺から慎重に進んだ方が良い」
「解った。イリヤ、頼む」
「了解。では皆んな、これから"同化"スキルを発動する。近くにいる者と手を繋いでくれ。繋いだな?ロゴスは俺の手を握れ」
「おう」
「いいか、絶対に手を離すな。俺から離れた時点でそこから先はスキルの効力が無くなる」
手を繋いだ45人の人が山道を登って行く姿は傍から見ると変な集団が異様な儀式をしているように見える事だろう。おっと傍からは視えないのだったな。
打ち合わせの時にこのスキルの力の一端を見せてもらった。俺達の前で消えて見せてくれたのだ。
俺にこのスキルが看破れないと同じ様なスキルに出会した時に困るので、エルフの魔道具の時と同様に録画して解析してみた。
『イズナ、気配を読めるか?』
『残念ですが全く読めません』
イズナでも無理か、厄介だな。録画の解析が進んでいくがイリヤさんの姿は視える気配が無い。
…………んんん、机の表面に人型が張り付いているのが視える。その人型がヌルヌルと机から床に移動し始めた。2次元になって物に同化し動き回れるのか?仮面を付けた忍者の漫画にあった影の中に入るやつのグレードアップしたスキルか。
あっ、冒険者の足首を掴んだ。
「うわっ!」
冒険者が驚いた所でイリヤさんが現われた。
「「凄え」」
確かに。暗殺者向きのスキルだと思う。手の内を見せても大丈夫という自信も有るのだろう。
この世界は俺のスキルを始め、魔法に妖精、ドラゴンなど色んな事が有るが、こんな現象を見るとファンタジーだと再認識させられる。
にしてもこれを看破るには常に録画して解析をしていないといけないのか?大変だな。何か対応策を考えないと。などと思いおこしていると現場の洞窟に到着したようだ。
突入するのはSランクの2人とAランク10人、Bランク20人だ。
Sランクのイリヤさんを始めC、Dランクの俺達はマッカラムさん達から逃げて来た連中を気配を消して待ち伏せをする役だ。
「いいか、手を話すぞ」
「任せたぞ」
「ああ、行って来る」
突入組が洞窟内に入って行った。
作戦通りただ待っているのでは芸が無い。皆が突入する前に先んじてイズナを行かせているので映像が俺の頭の中に送り込まれて来る。
洞窟内は一本道だった。壁はゴツゴツしていない、きれいに削り取られた感じで自然で出来た物では無いようだ。
大きな空洞が見えて来た。
『凄いな』
『ヘイシロウ様、赤ちゃんがいました』
『ああ、見えている』
個々の小さな台座の上に赤ちゃんが寝かされている。綺麗に間隔をとって裸で並べられているのだ。いったい何人の赤ちゃんが居るのだろう?縦の列が30以上、横の列も30以上か、1000、1500……待て待て人族だけではないエルフ、獣人、ドワーフの赤ちゃんまでいる。
ここで何をしているんだ?背筋が寒くなって来た。よく見ると赤ちゃん達はちょっと大き目の卵みたいな物を抱えている。
何だ?直ぐに録画して解析を始める。そこにマッカラムさん達が入って来た。
「何なんだこれ?」
「敵はいないみたいだが」
「油断するな各自、周りの調査だ」
「「「了解」」」
「マッカラムさん、あそこに大きな魔法陣が有ります」
「ホントだ」
「うむ、こんな魔法陣は見たことがないが、俺が王都で見た転移の魔法陣にどこか似ている気がする」
「そんな高等な魔法技術を持っているのか敵は?」
「どうやらタレコミ通り、ただの盗賊というわけではなさそうだな」
録画の解析が進んで行く。
くっ、魔人の奴ら。
俺が解析結果から答えを必死に導き出そうとしていると、セシリアが俺の手をグッと握った。
「このどうしようもなく言いようの無い不愉快な感覚。ヘイシロウ、奴らが来るわ」
「くそっ!もう少しで解けかけていたのに。イリヤさん、敵が来ます。それも手強い連中が」
「何だと!……皆、戦闘準備。敵には俺達が判らない、これを利用して奇襲をかけ一気に勝負をかける。初手は魔法攻撃だ、ありったけぶち込め」
「任せろ」
ジェドが言っていたな。我らには魔法は効かないと。あいつが上位の魔人だから効かないのか、全ての魔人に効果が無いのか判らないが、効かない確率が高い。
物理攻撃の方が良いと思うが、それも話す訳にはいかない。もどかしいぜ。
『イズナ、直ぐに戻って来い』
『了解しました』
録画2をすれば一気に片がつくが、さすがにそれも出来ない。
密かにイズナに処分してもらうのと、この魔剣ノスフェラトゥの能力のせいにしてしまおう。
「セシリアのアレは使用禁止ね」
「わ、解ってるわよ」
『ヘイシロウ様、奴らが現われます』
『おっ、戻ってたのか』
洞窟の入口前の地面が光出し魔法術式が展開されていく。
「くそっ、魔法陣が描かれていたのか」
「戦闘準備」
皆の唾を呑む音が聞こえる。
光の中から現われたのは身なりの良い人族の男達だった。人数は30人くらいでこちらの倍だが、安心しきっているのだろう、昨日寝た女の話やくだらない話をしながら洞窟に入ろうとして全員が俺達に背を向けた。
「今だ、かかれ!」
皆が一斉に魔法をぶっ放した。
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