第20話 獣王国へ
薬草はコピーすれば良いので1本ずつで足りる、サクサクと採っていく。
「あっ、これも良いわ、これも素敵!本当にここは宝の山ね」
「ああ~、それは口にすると吐き気をもよおし腹痛、下痢をおこす毒草です。ああ、それも神経が冒される物で麻痺薬を作る物ですよ。またまた、得体のしれないキノコまで採っているし、アンジュ様、この御方大丈夫ですか?話し方も女性みたいでおかしいですし」
「そ、そうだな。ヘイシロウ殿、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。毒だって使い方によっては良い薬になるのよ。後で証明してあげるわ」
「だそうよ」
「ならよろしいのですが」
エルフの薬師達は訝しそうに俺を見るのであった。
宝庫の山を散策して半日、美夢の望む物は完璧に手に入ったらしい。夕方には城に戻る事が出来た。
「どう?お望みの物は出来そうなの」
「バッチリよ。あっ、でも足らない道具も有るから自白剤に関してはドワーフの国に行ってからね」
「そうなのね」
「ヘイシロウ殿の女性言葉にも慣れてきました」
「ホント、女友達と話してる感じになってきたわ」
いずれ薬を作る事は判っていたのでこの世界の医療のことは一通り調べていたし、錬金術師に作れる道具は作っておいた。
魔法が有るので元の世界に比べれば凄く画期的なのだが病気が無いわけだはない。
それに病気や怪我によっては高等魔法や高価な薬を使うので裕福な人達以外には縁が無い。俺みたいに魔法すら使えない者だっているのだし。
しかも魔法は体力回復や再生治療は得意でも細菌、ウイルスなどによる物は苦手のようだ。というよりその存在自体を知らないふしがある。
なので外科は得意だが内科に関しては元の世界より劣っている。
ほぼ万能薬と言える物を作る基を見つけたので美夢は喜んでいた。
ゴルゴゾと呼ばれる毒キノコの根本に付いている白っぽいカビの様な物がその基になる。美夢が作業手順はこうだ。
調理場で野菜のカスが残った煮汁を分けてもらって培養液を作り、白っぽいカビを中に入れて大量に発生させる。
白カビが大量発生した培養液を綿でろ過し別の容器に移し替える。
そこにエルフが調理に使っている植物性の油を入れてよくかき混ぜる。
時間を置くと油に溶けた物質の層、油にも水にも溶けない物質の層、水に溶けた物質の層に分かれるので1番下に出来た水に溶けた物質の層ところの溶液を取り出す。
あとは炭を砕いて入れ、酢を混ぜた蒸留水で炭を洗ったりアルカリ性の溶液で炭から抽出すれば出来上がりだ。
美夢の作り方を見ていて思い出した。元の世界のテレビドラマで江戸時代にタイムスリップした医者がこんな事をやっていたっけ。つまり作っていたのはペニシリンって事だ。
本当は抽出液の効果を調べたい所だが、流石にそこまで長くは居られないのでぶっつけ本番だ。害は無いので安心して欲しい。……美夢が作ったのだからきっと大丈夫な筈……?
「ねぇ、貴女その腕の包帯の中、化膿しているのでしょ?」
美夢(俺)が声をかけたのは山に同行してくれた薬師の1人で女性のエルフだ。
「え、ええ、よく判りましたね」
「まあね。手こずっているようね」
「そうなんです。仕事がら森や山に入るのですがその時に折れた枝で切ってしまって、ヒールで直ぐに傷は治ったのですが、ちょっと経つとまた膿んで来るんです。その繰り返しで困っています」
「やっぱりね。その気が有るなら物は試しで、これを日に数回ぬってみたら」
「薬ですか?」
「そうよ」
「分かりました。誓約の祠から帰って来た貴方を信じます」
「そう、それは良かったわ。治るわよきっと」
ーーーー
ここに来てから2週間が経ち獣王国ヘ向かう日が来た。
「本当にお世話になりました」
「いいえ感謝しているのはこちらの方です。あのままあそこに居たら私はどうなっていた事か。近くに来た時は必ずお寄りください」
そうだよね~。
「うむ、是非そうしてくれ。これは獣王国の国王宛に書いた親書だ役立ててくれ」
「お心遣い感謝致します、陛下」
「ヘイシロウ殿、私は行けないが獣人の人達をよろしく頼む」
「任せておけ」
「アンジュ、元気でね」
「はい、また会いましょう」
正式なルートで進んだ方が獣王国には早く着くらしいので馬車で城の前の大通りを進んでいく。今回は王都見物は出来なかったけどシング王国に行く時はここに立ち寄る事になるので、その時にゆっくり楽しもう。
蔦の絡まっていない立派な防壁をくぐり街道へと出た。獣王国ガウリンガルはここから西北に在る。獣王国の領地に入るには2週間と言ったところか。
馬車で3日間かけてパラフィンの街に着いた。イズナを通してパッと見だったが、王都に魔人らしき者はいなかった。俺の勘だがエルフ領には魔人はいない気がする。
前世の子供頃に読んだ本にエルフ、ドワーフは元は妖精だったと書いてあったような。記憶は曖昧だが獣人を含め魔人はこういった種族には、なり変われないのかもしれない。
なのでエルフ領という事もあって獣人の娘達には指輪の空間から出てもらっている。もちろんイズナによる偵察はバッチリだ。
改めて見ると猫耳、虎耳が凄くいい。俺は元々猫好きなので耳裏のモコモコがたまらない。触らせてくれないかな?
「ヘイシロウ、ちょっと目つきが変よ」
「そ、そんな事ないさ」
「ヘイシロウ様、セシリア様、よろしくお願いします」
「安心して、必ず連れて行くわ」
「任せなさい」
「鼻の下が伸びてるわよヘイシロウ」
むむ、そんな事は決して無い。……無いと思うぞ。
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