第19話 誓約の祠

 エルフの神官が祠の扉を開ける。その周りでひそひそ話をしている連中がいるのだが、話し声がイズナを通して俺には聞こえているとは知らずに悪口のオンパレードだ。


奴らの予測では俺は生きて戻って来れないらしい。祠の奥に居る人物は何者なのだろう。エルフの長老様か?


「ヘイシロウ、しっかりね」

「ヘイシロウ殿、ご武運を」

「ありがとう、行ってくるよ」


エルフの神官に促され俺が祠に入ると扉が閉まった。中は真っ暗だったが一歩踏み出すと両側の壁の上部が等間隔で明るくなった。魔道具が仕込んであるのだろう。


通路は一本道ではなく枝分かれしていたが、分岐の所で進むべき方の壁に明りが灯る。


誘導された通り進み、階段を3階分下がった所で大広間が見えてきた。


中は暗くまだ視えない。


『ヘイシロウ様、ただならぬ雰囲気です』


「ああ、危険察知能力の無い俺でもビンビンと感じるよ」



中に入るのを躊躇っていると重苦しい声が聞こえて来た。



『その気になれば僅かな日数で一国を落とせる魔物を従えている者が何を怖れている。さあ、中に入ってみよ』


くぅ、俺を信用しないエルフ達が生きて帰って来れないなどと口々に言うから少し神経質になっていたようだ……ん~、イズナってそんなに凄いのか?強くし過ぎたかな、まぁ、いっか。



録画さえできれば何とかなるだろう。おっと、アンジュは戦うなと言っていたな、気をつけねば。


注意しながら暗い大広間に進む。入ったとたん灯りがつき10m程先にいる声の主の姿が見えた。その存在は離れていてもハッキリと判る者だった。



あ~、成る程。それは子供の頃に読んだギリシャ神話に出てくるドラゴンそのものだった。


直ぐに録画1してスキル鑑定する。


うっ、どんだけの種類のスキルを持ってんだよ!俺のスキルが通用するか不安になって来る。


しかも名称が神竜とは、ご丁寧に不安のダメ押しをしてくれるぜ。


『この我が鑑定出来ぬとは有り得ん。魔王か?……いや、魔王が産まれるにはまだその時では無い。さすれば、勇者か?……勇者が召喚された気配は無い。貴様、何者だ?』



なんかさり気なく凄い事を言っている気がするが、そこは後で考えるとして……どうする?誤魔化すか……しかし誤魔化し切れるのか?嘘だとバレたらどうなる?……ひょっとして、この祠はそういう事を試される場所ではないのか?


ここは……。


「私は異世界からの転生者です」


『……そうであったか。それで貴様は何を望む?』


「この世界の魔人を全て消去したいので、その為にエルフの信頼を得たい」


「魔人?……フン、地上でくだらん事をやっているあやつらの事か」


「魔人の事を知っているのなら、何故なんとかしないのです?神の貴方なら出来るはずです」


『……食えぬ奴だな貴様は、我を鑑定しおったな。まぁ、よい。我がここに居るのは古い友人に頼まれたからだ。エルフが困った時には助言をしてやってくれとな。故に地上の者がどうなろうと興味は無い、他の神にでも任せておけばよいであろう』


なんて自分勝手な奴。曲がりなりにも神とついてるくせに。


「解りました。でも、このままではエルフにもいずれはもっと酷い影響が出ますよ」


『フン、仕方ない。これを持って行くがよい』



ドラゴンのブルーの眼が光ると、俺の前に群青色の水晶の珠が浮かんでいた。


「ありがとう御座います」

『さぁ、行くがよい』



ーーーー



『ヘイシロウ様、変わったドラゴンの神様でしたね』

「ホントにそうだったね」


でもこれで何とかなりそうだ。




入口の所に戻ったが扉は閉まったままだ、どうすんだこれ、押せばいいのか?扉に手をつこうとした時、鞄から青白い光が発せられた。鞄に仕舞った群青の珠が光ったらしい。


光を浴びた扉がギギギと音を立てて開いていく。眩しい光が差し込み景色はハッキリしないが、直ぐに聞こえて来たのはセシリアの声だった。




「ほら、帰って来たわ。私の行った通り」

「ヘイシロウ殿!」


俺の姿を見たセシリアがドヤ顔でエルフ達に向かってニコニコの笑顔で俺が教えたVサインをしている。



「ま、まだじゃ。祠の神と会ったという証拠を見せい」


「ああ、コレね」


俺は群青の珠を取り出し手首を捻り、人差し指の上でボールを回す様に回して見せた。



「おお!まさしく誓約の宝珠……」


「見事である。ヘイシロウ殿」


いつの間にか来ていた国王グロウセルが宝珠の前に跪いた。




「これで皆も異論は無いな」

「「「御意」」」


「うむ。ではヘイシロウ殿の希望の1つである薬草採取の段取りを直ぐにするとしよう」


「ありがとう御座います」


「やったね、ヘイシロウ」

「おう」


ーーーー



「明日は薬草採りに山に入るのだけどヘイシロウ殿は薬草を見分ける事が出来るのか?」


「ああ、任せておけ」

「どうせ謎スキルを使うんでしょ」

「ご明察、その通り」





ーー



翌日、エルフの薬師2人と俺達3人でエルフの国で薬草の宝庫と言われるオウロイの山に入るのこととなった。



「この先から色んな種類の薬草が生息していますので必要な薬草を採取してくださって構いません」


「ありがとう御座います」



いよいよだ。『憑依召喚、美夢!』



「よ~し、色々と集めちゃうわ、私にお任せよ!」


「「えっ?何で女言葉なのヘイシロウ?」ヘイシロウ殿?」



あ~、憑依召喚なので、だいぶ美夢に引っ張られてるな、これは仕方ない。また言い訳考えないとな。

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