第18話 説得
突如として現われたメアリ王女達に動揺しているエルフ達。
まぁ、無理も無いか。
「この方々は私達を卑劣な魔人から救い出してくれたのです。無礼は許しませんよ」
「「「はっ!」」」
エルフ達はメアリ王女の前に一斉に跪いた。
ーー
メアリ王女とアンジュのおかげでエルフの巡回兵達とも打ちとけて話しながら森を進む。
出くわす魔物はビックブルとかグレートウルフとかCランクの奴が偶に出るくらいだ。
「あまり魔物に会いませんね」
「我々は奴らの習性や縄張りを熟知しているからな」
「そうなんですね」
途中、森の中で野営を2回する事になったが要所々々に秘密の施設が設置してあり問題は無かった。
「あれが見えますか?もうすぐ着きますよ」
アンジュが指差す方を見ると、蔦が絡みほとんどが覆い隠されている遺跡の様な物が見えた。よく見るとそれは、何処までも続く万里の長城をより高くした防壁だった。
巡回兵が取り出した鍵らしき物を防壁に付いている紋章みたいな所にあてると、人が1人通れるくらいの通路が[ゴゴゴ]と音を立て現われる。
20mくらい先に小さく灯りが見える。巡回兵の後について暗い通路に入り進んでいく。防壁は向こう迄であるって事だ。
「なんていう分厚い防壁だろう」
「まだまだですよ、ヘイシロウ殿」
暗い通路を抜けると広場が有り左右に兵達の詰所がある。
そして20mくらい先にまた防壁がそびえ立っていた。
驚いている俺にアンジュが説明してくれる。
「もう一つ奥に防壁が有ります。全部で3重になっています」
「なにせ森にはSランクの魔物達がいますからね」
巡回兵が誇らしげに補足の説明をしてくれる。
分厚い防壁を3回通ると、ようやくエルフの国ソルレンティスの美しい山々や川、そして魔物のいない森などの景色が目の前いっぱいに広がった。
「やっと戻ってこれた。ヘイシロウ殿、メアリ王女様達を出してあげてください」
「OK」
「これからは皆んなも景色を楽しめるわね」
この頃になると俺がポロッと元の世界の言葉を度々使うものだからセシリアもアンジュも慣れっこだ。まぁ、誤魔化すのにちょっと苦労したが。
「ああ……、戻って来たのですね。ヘイシロウ様、セシリア様、本当にありがとう御座います。アンジュにも苦労をかけましたありがとう」
「メアリ様」
美しいエルフが手を取り合って見つめ合う姿は色んな意味で素晴らしい。
ここからは馬車で移動出来る。俺達は自前の馬車を出し、エルフと獣人達はエルフの兵が用意をしてくれた馬車に乗っての移動になる。
アンジュの説明では王都アスルテカまで1週間程度だそうだ。
エルフの国は治安がよく"エルフ"の盗賊などはいない。移動は順調に進み予定通り1週間で王都に着いた。
「これからこの国の国王や重鎮達と交渉か……緊張してきた」
「ヘイシロウなら大丈夫よ」
「そうですヘイシロウ殿」
2人にそう言ってもらえるとね、……前世では海千山千の相場師相手に営業してたんだ、いっちょうハッタリをカマしてやろうじゃないの。
ーーーー
まず、アンジュがエルフのお偉いさん達に経緯を説明をするという事で、俺達の話は翌日となった。
一応はメアリ王女の生命の恩人という事で、立派な部屋に通された。
「素敵なお城よね、お伽噺に出てきそう」
「だけどさっきの奴ら嫌な感じだったぜ」
「そうね、もともと人族が好きではないので無理はないけど」
給仕係りのメイドが夕食を運んで来たので美味しくいただきセシリアは自分の部屋に戻って行った。
俺は大きな湯槽にお湯をはってゆっくりとくつろぐ事にする。
明日は話し合いが上手く行くと良いが。
ーー
翌日、会議室のような大広間に通された。しかめっ面したお偉いさん達がズラッと並んで座っている。
やっぱり、やり難いよな。
「陛下は後ほどお見えになられますので、先ずは我々が貴公のお話を伺いましょう」
顎髭をはやした歳をくった風のエルフが言う。
「分かりました」
俺は全世界を裏で牛耳っている魔人の存在と危険性を訴えたのだが……。
「魔人ですと?」
「馬鹿な」
「そんな事よりエルフや獣人を拐って慰みものにしてるなど許されん」
「左様、協定破りではないか、直ぐにでも断固糾弾すべきだ」
はぁ~、やれやれ。
エルフ達の態度に呆れた俺を見てセシリアも援護射撃で強く訴えてくれるがエルフ達は聞き入れようとはしない。
「ダメね、この人達は事の重大さがまるで解っていないのよ」
「だよな」
どうやって説得しようかと考えていると扉開けナイスミドルのイケメンオヤジとアンジュが入って来た。
「「「陛下」」」
家臣達が一斉に立ち上がり頭を垂れる。
このエルフが国王グロウセルか、俺達は直ぐに立ち上がりエルフの礼儀作法は知らないので貴族の所作で挨拶をし跪いた。
「そなた達がメアリを救ってくれたそうだな、かたじけない」
国王が頭を下げるのが気配で感じられた。
「滅相もない事で御座います」
「うむ、堅苦しいのはここまでとしよう。席に着いてくれ」
アンジュに促されて国王はテーブルより一段高い位置に有る椅子に座った。
「さて、大まかな話はアンジュより聞いたが、今一度そなたから話を聴きたい」
他の連中とは違い好意的に感じられる。きっとアンジュが国王に根気強く説明してくれたのだろう。そしてアンジュは国王に信頼されているに違いない。
ーーーー
「……なるほど、各国の重要な地位に魔人がついていて裏で暗躍していると、そなたの考えでは今事を起こせば人族が支配する国は全て敵にまわり我らに勝ち目は無いと言うのだな」
「戯言を。陛下、この様な者の話しなど聞いてはなりませんぞ」
「その通りで御座います」
「アンジュがこの者達に信頼を寄せている。私も信じたいのだが……」
「陛下!なりませぬ」
「……どうだ、この者に誓約の祠に入ってもらうというのは?」
「へ、陛下それは……」
アンジュの顔色が変わった。なにそれ?
「名案で御座いますな」
「左様で御座います。それならば皆も納得致しましょう」
「ヘイシロウ、そなたの言う事が真であると証明する為に誓約の祠に入って見るか?」
「そこに入って何をすればよいのです?」
「祠の奥に居る人物に会って或る物をもらってくればよいのだ」
「解りました」
「但し、嘘偽りがありと判断された場合は生命の保証はない」
「……大丈夫です」
「ヘイシロウ、絶対にその人物とは戦ってはいけませんよ」
「これ、アンジュ、ズルはいかんぞ」
「も、申しわけ御座いません、陛下」
「アンジュ、詳しくは判らないけど大丈夫よヘイシロウなら」
「それはそうなのですが、……魔王と勘違いされないかと心配で」
「あ~、確かに」
国王はニコニコ微笑んでいるが、エライ事になったのかもしらん。
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