第15話 怪しい街

 移動の為に馬車を購入した。御者は執事のサイモンさんが引き受けてくれた。イズナを隣に座らせておく。


その他の人達は移動の時は指輪の空間に入っててもらうので馬車の中は俺とセシリア、アンジュの3人だけになる。


「ねぇ、聞きたい事は山ほど有るけど、ヘイシロウのよんどころのない事情もあるでしょうから軽い所から聞くけど薬草もらってどうするの?」


「そりゃ薬を作るさ」

「そうでしょうけども、そういう事でなく」


「ちょっと特殊な薬になるかな」

「例えば?」


「う~ん、自白剤とか毒とか毒とか毒とか」

「えっ?自白剤って何よ」

「毒って言ったか?」


おっと、余計な事を言ったか?実を言うと、これは俺も必要ないと思っていたからな。


尋問や拷問をしなくてもコピーして生き人形を造って質問すれば答えを得られると思っていたのだが、それは違った。


ジェドの生き人形から魔人の事やベルモンド家の事を聞き出そうとしたがダメだったのだ。


イズナの時には判らなかったが、自我は有るが過去の記憶はオリジナルが消滅した時点で無くなるらしい。


手間はかかるが最初に物を考えられるようにして、人工知能の様に学習させ、俺がある程度の状況を設定をしてやらなければならない。


まぁ、人形なのだから仕方ないと諦めた。


「危ない人を見るような目で見ないでくれよ。生き人形からは聞くことが出来なかったので、話してくれないであろう魔人達から口を割らせて情報を聞き出す為さ」


「さ、流石だな……」

「俺は魔王じゃないぞ、アンジュ?」


「わ、解っている」


「多才なのね」


「スキルを分けてくれる知り合いがいてね」

「はぃ~?スキルを分けるですって?」


「そ、そうさ。スキルには色んな物があるんだ。おかしくないだろう?」


「それはそうだけど……武術が急に強くなったのもそのせい?」


「もちろんさ」

「はぁ~」


俺の返答を聞いて深い溜息をついたセシリアは、数回首を横に振ってそれ以上は俺のスキルについての質問はして来ず、これからの移動行程に話を切り替えた。


ホッとしたが何も言われないのも、それはそれで怖い。


「アンジュ、エルフの国まではどのくらいかかるのかしら?」


「そうですね、バッカスニア帝国を縦断する形で北上すれば2ヶ月弱でエルフの森に着くでしょう」


およそ2ヶ月か、道中長いな。


「エルフの森からは?」

「3日もあればソルレンティス王国に入れます」


エルフの国か、どんな所なんだろう?


あれやこれやとエルフの国ソルレンティスに思いを馳せていると馬車が止まった。索敵をしているイズナからの念話は無いので、王都の隣街ログウサに着いたのだろう。


窓から外を覗くと立派な城壁と街に入る為のチェック待ちの人達の行列が見えた。


「そこそこ時間がかかりそうね」

「仕方ないさ」


30分後に街に入った俺達は、この街でも有数な高級宿に泊まる事にした。お金は魔物の素材を売れば幾らでも手に入いるので困る事は無い。優勝賞金も有るしね。


部屋は全部で4部屋、俺用のそこそこの大きさの部屋と元の世界で言うスィートルームが3部屋だ。


拐われていた人達にはくつろいでもらいたいからね。


風呂に入ってベッドに横になっているとアンジュが呼びに来た。


「もう食事の時間?」


「いや、王女様がどうしてもヘイシロウ殿に御礼が言いたいと言ってな」


「そう」


アンジュに連れられてセシリアと王女様がいる部屋に入った。




「本当に助けて頂きありがとう御座いました」

「い、いえどうかお気になさらずに」


い、いかん。不味いぞ。


基本、スタイルよく美人なのに、着替える暇が無かったのでオークション用のセクシーな服を来たメアリ王女に見つめられると嫌が上でもあの時の光景が目に浮かぶので、まともに顔が見れない。


「ヘイシロウ、顔を見ないでソッポを向いて話すなんて失礼ですよ」


セシリア、余計な事を。乙女心を傷つけ無いように言い訳せねば。


「王女様が余りにお美しいので、まともに見られず失礼致しました。お許しください」


「まぁ、『ポッ』」


顔を赤らめた王女を見てセシリアとアンジュが眉間にシワをよせて俺を睨む。


何でだよ!



ーーーー


セシリアとアンジュの提案で俺は街の探索に、女性軍は服、その他もろもろを買いに行くこととなった。


先ずは冒険者ギルドに行ってみる事にする。


中に入り、さり気なく見回すと奥の立派な机に座っているやつは魔人だった。副ギルドマスターのようだ。


『イズナ、たいてい2階にギルドマスターの部屋が有る筈なんだが見てきてくれるか?』


『承知しました』



イズナは気配を消して2階に上がっていく。直ぐに映像が俺の中に流れこんで来た。


奥のゴツいドアがそれっぽい。ドアは閉まっているのでダークスライムのスキルでふにゃふにゃになって隙間からイズナは入って行った。


大男が机で書類に目を通している。良かった、魔人ではない。ここはそれほど侵食されてないようだ。


冒険者ギルドを出て次は商業ギルドに向かう。


こっちは酷かった。職員からギルドマスターまで殆どが魔人で占められている。金の流れを重視しているのか?


各部門の大きな商店の店主は、これまた魔人だった。この街で何をやってる?待てよ、宿のお偉いさんも魔人の可能性が高い、不味い。


解っていたはずなのにクソっ。事が上手く運び過ぎたので油断した。急いで宿に戻ろう。



宿に戻るとセシリア達も戻っていた。


「ちょっと良いか?」

「どうぞ」


「どうしたの、街で何かあったの?」

「実は……」


ーー


「そうか、ちょっと失敗したわね。目立ってしまったものね」


「イズナにこの宿を探らせたら、店主はやはり魔人だったよ」


「仕掛けてくるのか?」

「今夜直ぐにでも?」


「用心するに越したことはない。俺達以外はセシリアの指輪の中に入っていた方がいいな」


「了解したわ」




今夜来るか?イズナには俺に変身してもらって、俺達はセシリア達の部屋に泊まり待ち構える事にした。


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