第16話 謎の集団

 ドアの鍵を開ける音が微かに聞こえ暗い部屋に4人の魔人が入って来た。


「いらっしゃい」


セシリアの声と共に部屋が明るくなる。灯を灯したわけではない。セシリアの指輪空間に全員が入ったのだ。


俺達の姿を見た魔人の1人が攻撃体勢になったので、既に録画1をしていた俺はそいつのデータを消去する。


崩れ落ち動かない仲間を見た店主は他の仲間の動きを制止する。


「良い心がけだね。君達にもう勝ち目は無い、死んだも同然だよ」


「言わないと思うけど一応訊くわ、この街の商業ギルドの役割は何?」


「……」


やはり魔人は話す気は無いようだ。セシリアが俺をチラッと見るので録画2に切り替え魔人達を消した。


「ヘイシロウ、どうする?」


「まだ夜中だし今から出発したくないよね。生き人形にして何も無かった事にして朝一でこの街を出よう」


「それが良いと思うぞ」

「じゃ、そうしましょうか」




ーーーー




「おはよう御座います」


1階の食堂に行くと店主がにこやかに挨拶をしてくれる。


「どうぞこちらに」


他に客がいない。どうやら貸し切りにしてくれたようだ。


「教育がいき届いているわね、ヘイシロウ?」

「ま、まあね」


「……恐るべし」


アンジュのジト目をスルーして食事にとりかかる。


朝食をすましログウサの街を後にする。長居は無用だ。



ーーーー





ログウサの街を出て何事も無く2週間と3日が過ぎ、バッカスニア帝国との国境を今越えようとしている。



「取り敢えずは一息つく感じね」

「そうですね」


俺も2人の意見に頷いたがイズナからの念話が入った。


『ヘイシロウ様、200m先で何やら争っているみたいです』



『分かった、先に行って映像を送ってくれ』

『かしこまりました』



少し立ってイズナの見た光景が俺の頭に入って来た。


「この先で騎士団と盗賊らしき者達が戦っている。イズナから連絡が入った」


「そうなの?」

「急がねば」



サイモンさんが馬車のスピードを上げる。直ぐに騎士団と盗賊らしき者達が戦っている光景が見えて来た。互角……いや、騎士団側がやや形勢が悪いか?


「セシリア殿、ヘイシロウ殿、直ぐに助太刀しなければ」


「どっちを?」

「おかしな事を、騎士団に決まっているではないか」


「騎士団は全員が魔人でも?」

「えっ、何だと?」


「確かにそうね、なんとなくだけど違和感を感じるわ。……どうするのヘイシロウ?」


「あの人達はスキルからみて判断すると盗賊ではない感じだし、馬車の中にいるのは眠らされている女性達なんで魔人騎士団の討伐一択かな」


「解ったわ、そうしましょう」

「わ、分かった」


魔人相手によく戦っている。中々の兵揃いだ、一体どういう集団なんだろう?


魔人騎士団がさっきより劣勢になってきた。手を貸すまでもないかもしれない。


そんな考えがよぎったが、その時、騎士団長らしき魔人が馬上で剣を抜いた。


「不味い」


奴が掲げた剣は魔剣ノスフェラトゥと鑑定された。効果は……。


禍々しいオーラが魔剣ノスフェラトゥを中心に拡がって行く。それに気がついた者達は顔が引きつって行った。


このままでは死ぬのが解ったのだろう。


「何なのあれ?ヘイシロウ」


「あの魔剣で範囲に入った人達の血を一気に吸い出し、干からびさせる気だ」


「ヘイシロウ殿、何とかしてください」

「もう、しょうがない。『録画2!』」



俺が念じると全ての魔人が消滅した。死を覚悟した者達は呆けている。無理はない。



「魔王……」

「コホン!」


「ち、違う。私は何も言っていないぞ。本当だヘイシロウ殿」


「アンジュったら、慌てて可愛いわね」

「うぷぷ」


「は、恥ずかしい」

「そんな事より話を訊きに行きましょう」



俺達が側に行くと固まってた人達はようやく我にかえったが暫く空を見上げている。そして考えがまとまったのか1分後に再起動して声を発した。


「君達が助けてくれたのだな?」


「そうなるかな。一応理由が訊きたい、多くの命を奪ったのだから」


「奴らは人なんかじゃない」

「オズマ!」


「すいません」


「それはどういう意味かな?鬼畜な行いをするから人でなし、という事かそれとも本当に人外の者という意味なのかな?」


「……助けてもらったのだ、礼は尽したいが話せない事も有る。言える事は、シング王国の王都ベルンで行われた奴隷オークションで何やら問題が起こったらしい。穴埋めをする為か近隣の村や私達の村が襲われ、女達が連れさられた。今日、騎士団が女達を運ぶと情報が入ったのだ」


奴隷オークションの事を知っているのか。ジェドの奴、穴埋めで女を拐うとは……まぁ、事態を収集する為にもっと上からの命令があれば仕方のないところか。


「そうか……」


「しかしよく考えると普通だったら、我らは騎士団を襲う盗賊に見える筈、躊躇いなく騎士団を消し去るとは少し変だと思うが?何者だ君達は」


その言葉を聞いた謎の集団は俺達に対して身構えた。


「はい、はい、腹の探り合いはそこまで。私達は特別な鑑定スキルを持っているし他にも色んなスキルを持っているのよ」


「た、確かにエルフの女性は別として、2人のステータスは私には鑑定が出来ない。さっきの事と言い力の差は明白だ。……我らの敵ではないのだな?」


「もちろんよ、ただの通りすがり」

「とにかくここを離れた方が良いのでは?」


「解った、そうしよう。こっちへ」




もう少し話が聞けそうなので、この人達について行くことにした。


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