第14話 楽勝

 直ぐにジェド伯爵をコピーしてと。


「いやぁ、ジェド伯爵の型みたいのをとるだけなんだけどね」


「型?」


「ほ、ほら、同じ物を造る時に上から粘土なんかで押し付けてさ……」


「粘土?」

「そ、それはね……」

「はぁ~、良いわ、何でもいいから早くしてね」


「あっ、もう出来てるんだ。出すよ」


直ぐに眉間にシワをよせたジェド伯爵が現れる。


「んっ?変だな、意識が飛んでいるような気がするのだが」


「気のせいよジェド、行くわよダークバレット!」


「コンストラクション・セットオフ」


セシリアの前から放たれた闇の弾丸が黒い霧となって消える。魔力によって造り出された物がまるで無かった事にされた感じだ。


「我らに魔法など利かぬ」

「そう……」

「そして体術に於いても君は私に遠く及ばない」


気がつくとジェド伯爵はセシリアの前に移動していて、手刀がセシリアの胸に突き出さっていた。


「うぐっ」


ピンチに見えるけど、いつもの事なのでもう少し様子をみるか。セシリアも武道の鍛錬をした方がいいと思うな。


ジェド伯爵が手刀を引き抜くとセシリアの胸から血しぶきが舞い上がるが、それも一瞬で直ぐに傷口が修復された。


「ふむ、たいした物だな。本当に何が有った?殺してからゆっくり調べるとしよう、首でも切り落とすとしよう」


「調子に乗らないでね、ジェド」

「なっ、……貴様」


セシリアは下手に魔人としての能力が高いようで、その力にあぐらをかいている感じでちょっと危ない。


いくつもの触手がジェド伯爵の背中に突き刺さって、キンジィーの時の様に養分を吸い取っている。


「まさか、何故だ?どうして……何処で手に入れた、どこまで知っているのだ……」


「ベルモンド家の事……ベルモンド家って何なの?」


「知らないのだな、……安心したぞ、厄介なその血を必ず葬ってくれる」



ジェドの捨て台詞は気になったが、セシリアの首を締めようとしたジェド伯爵はキンジィーと同様にサラサラと粉になって崩れ去った。


本体が消滅したので生き人形のジェド伯爵と3人で空間から部屋に戻った。


セシリアがまじまじと生き人形の顔を見ている。なんかオデコに皺がよって怖い顔になって来た。


「ねぇヘイシロウ、この人ぶん殴って良い?」

「へっ?ジェドはさっき死んだよ」


「それは解ってる。けど無性に殴りたいの」


やれやれ。


「ジェド、セシリアがお前を殴りたいらしいぞ」

「仰せの儘に」


「どうぞ」


「ありがとう。よくも私を騙して殺そうとしたわね」


[ボコッ!]


「これは父と母の分」


[ボクッ!ボコッ!]


「気が済んだかい?」

「ええ」


「ジェド、顔を治しておけよ」

「はい、ご主人様」




再びセシリアを指輪の空間に入れて、生き人形ジェドと2人でパーティ会場に戻る。


俺達の姿を見付けたアンジュが上目遣いに警戒しながら近づいて来た。かなり挙動不審だ。


俺の目を疑い深く見るのでウインクをすると目をパチパチとして口をとんがらせる。


「上手く行ったのだな?」

「ああ、今夜救出作戦開始だ」

「この時をどれほど待ったことか」




ーーーー



オークションが始まるのは3時間後なので、奴隷達は綺麗に磨かれ、男共の欲情をそそる為にセクシーな服を着せられて会場の奥にある大広間に待機させられる事になる。



「ジェドが西側の警備を手薄にする手筈になっている」


「総勢55名を逃さなければならないのは骨が折れそうね」


「何としてもやり切る」


「見つけた魔人は、その都度生き人形にして行くから何とかなるでしょ」


「さすがは魔……」


アンジュは俺を魔王と言おうとして目が合ったので慌てて口を手で押さえた。


「ぷっ!」

「セシリア殿、笑わないでください」

「はい、はい。じゃ、行くわよ」


「よっしゃ」


ーー



俺が指示した通り西側に警備の者は居なかった。


「これなら何とかなろそうね」

「建物の中に入ってからが勝負ね」



建物の中はイズナを先行させて魔人達の気配を探る事にする。



『ヘイシロウ様、この先を曲がると2人います』

『解った』


「魔人がいるらしい。俺が先に行く」

「任せるわ」




「貴様、そこで何をしている?」

「奴隷をいただきに来た『録画2』」


「なっ……」


「いっちょ上がり。ササッとコピーして改造してと……本人を消去、これでよし。お前達、ちゃんと見張ってろよ」


「はっ、ご主人様」


「ホント、見事ね。アンジュが魔王と言いたくなるのが解るわ」


「解ってくださるか、セシリア殿」


「どうでもいいけど皆が集められている部屋はあの奥だよ」


「急ぎましょう」




途中で出会した魔人と部屋を警備していた魔人は、全て俺が生き人形にしたので問題なく部屋に入る事が出来た。


アンジュが必死になって王女様を捜している。


「アンジュ!」

「メアリ王女様」


ひしと抱き合う2人。


あちゃ~、やっぱりスケベおやじにア◯ルを責められていたのは王女様だったか。変な癖がついていないといいけど。


「アンジュ、感動の再会は後よ。皆さん、助けに来ました。私達の指示に従ってください」


「ほ、本当ですか?」

「ありがとうございます」



ぞろぞろ連れて歩くのはどうかと思ったが、解決案を思いついた。


皆を指輪の空間に入れれば良いのだ。直ぐに入れて建物を出る。生き人形化した魔人の協力もあって脱出はスムースに行った。



オークションの時間になり奴隷がいないことが判って大事になったようだが、生き人形化した魔人達が口裏を合わせ、ジェド伯爵が指揮をとった事もあって俺達は無事に隠れ家に戻る事が出来た。


奴隷オークションの会場は大変な事になっていたらしいが、翌日になっても王都で大掛かりな捜索は無かった。


違法な獣人やエルフを攫っていたのだ、公には出来ないのだろう。いい気味だ。


40人の人族の娘達に関しては、皆がただ単に拐われて奴隷にされたと思っているので、冒険者達を雇いそれぞれの家に送り届けてもらう事にした。


直ぐに助ける事が出来たのにもかかわらず、俺が目的の為に待ったをかけていたので罪滅ぼしの意味も有る。


だけど獣人とエルフに関してはそういう訳には行かない。


「セシリア殿、この先何が起きるか判らない。私一人では心許ない、エルフの国まで護衛を頼めまいか?」


「私はいいけど……ヘイシロウは直ぐに行きたい所が有るのではないの?」


「その前にやりたい事があるのでアンジュの依頼を受けても良いが条件があるんだ」


「条件?」


「獣王国への口添えとエルフの国の薬草を採取させて欲しい」


「……獣王国については確約は出来ないが薬草については何とかなるだろう」


「獣王国のお偉いさんに会えればいいんだ。説得は俺がする」


「解った、約束しよう」

「OK、……おっと、決まりだな」



皆と約束した通り、武器や道具、薬なんかを造らないといけないからね。うん、楽しみ。


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