第13話 優勝したのでお誘いが

 決勝の相手はジェド公爵の騎士ペルクだ。もちろん魔人なのだ。中々のイケメンでナルシストの傾向があるらしく前髪をクルクルと指で巻く癖が有り、見るといつもしている。


変な奴、どうしようかな。


「ヘイシロウ、もしかして目立ちたくないからってワザと負けようなんて思ってないわよね?」


うっ、なんで判った?


「ヘイシロウがバンティスに勝った時点で世間様には知れ渡ったから、もう遅いわよ」


「……ですよね」

「私に勝ったのだ、負けるなど許しませんよ」

「そう言われても」



ーー



魔人のペルクはショートソードを2本使う。そう、二刀流なのだ。


そして3番目の秘伝奥義の書を奪って行ったバンデクロスが裏社会で広めた暗殺剣を使う奴なのである。


まぁ、嵯哭さないであれば上手くやってくれるだろう。




ペルクは2本のショートソードの木剣を巧みに操る。嵯哭さないの木刀を弾くと直ぐに木剣が飛んで来るし、バンティスと戦った嵯哭さないの様に木剣のグリップを使い攻撃を仕掛けて来る。


剣術と言うより体術重視の感じがする。どこか嵯哭さないの動きに似ている。嵯哭さないも暗殺のプロなのだから当然か?


お互いに幾度となく華麗に攻撃を躱す時間が続くが、ペルクが木刀を受け流した時、傍から見れば判らない程の躓きが有った。


それを見て取った嵯哭さないは珍しく上段から鋭く木刀を打ち下ろす。


しかしペルクは身体を沈め嵯哭さないの懐に入り込む形で両方の剣を使い、嵯哭さないが握る柄の手と手の間に木剣をXの字にして受けた。


後の先というやつなのだろう。嵯哭さないが振りかぶる前に感知して動いていたのだから。さっきの隙もワザとと言う事か?


ペルクは受け止めると同時に右の木剣を外し、グリップを木刀を握る嵯哭さないの腕と腕の間に入れ身体を右回転させる。


木刀を持つ事に固執すれば、何処かの誰かさんみたいに地に転がされる事になるだろう……。


俺の考えを余所に嵯哭さないは両手を開いて木刀を放棄する。木刀はコーンという音と共に回転しながら試合会場の隅へと飛んで行った。唖然とするペルク。


「なっ……に?」


嵯哭さないは開いた右手をくるりと回し、最小限の動きでペルクの鼻面に掌底を御見舞する。


「うぐっ」


片膝をついたペルクの顔から血がポトリと落ちる。


あ~あ、鼻が陥没してる感じ、骨が折れて鼻血が出てる。痛そう。


『ヘイシロウさん、せっかくの色男が台無しだな、って言ってくれません』と言われたような気がする。


嵯哭さないさん、それって俺にペルクを煽れって事ですかね?


お任せください。


「鼻が凹んでひん曲がっているぜ、綺麗な顔だけがとりえなのに。そんな事では誑し込んで引っ掛かった女も逃げて行くんじゃないの?」


「き、貴様!よくも私の美しい鼻を!殺す」

「お~怖っ」


あ~あ、熱くなちゃって嵯哭さないの思うツボだよ。


片膝の状態から無造作に木剣を振ろうとしたペルクの烏兎に、俺の縦にした拳が突き刺さるとペルクは崩れ落ちた。魔人とは言え魔法やスキルによる強化が無ければ、こんな物なのだな。



こうして今大会の優勝は俺に決まったのだった。




ーーーー


「長かった……。パメラ様、後少しの辛抱です」


「取り敢えずセシリアは俺の指輪の空間に入るって事で良いかな?」


「それで良いけどジェドは私に任せてね」


「解った。頼むぞ、必ずジェドと2人っきりになれる機会を作って見せるからな」


「うん」




お城での祝賀パーティは夕方の17時から始まった。公式な謁見とは違うが、これから国王を始め偉い連中と会うと思うと気が重いが、俺も王子だった事もある。昔とった杵柄で礼儀作法は何とかなるだろう。


面倒な事だと思いつつ、俺とアンジュそして目が合うと睨みつけてくるペルク。折れた鼻はキレイに治っているのに根に持つタイプのようだ。


準決勝でペルクに敗れたコルーザを加えた4人で、お偉いさん達に挨拶をして周る。


エルフのアンジュはやはり目立つので、貴族の連中に質問攻めにあっている。困った顔で俺を見るので助け舟でもと思ったがジェド伯爵がこっちに来るのが見えたので、どうやって2人きりになるかと思考を巡らす。


「ヘイシロウ君、うちのペルクが子供扱いされるとは思わなかったよ」


「滅相も御座いません」


『この男、私の鑑定スキルでも肝心な所が判らない。私より上位の阻害スキルが有るというのか?腕も立つ、……敵に回すと厄介か。今の内に取り込んでおくか』


「どうだヘイシロウ君、私の部屋で少し話さないか?」



『しめた』

「喜んでお供致します」


俺はアンジュに目配せをしてジェド伯爵の後について行った。




元の世界で買ったら一体いくらするのだろう?ジェド伯爵にすすめられ北欧のヴィンテージ感をメチャクチャ出している椅子に座るとメイドがハーブティーを持って来た。


一口ハーブティーを含み、『うん』と頷くと伯爵が切り出す。


「私の騎士団に入らないかね?それなりの地位は用意する」


「本当で御座いますか?伯爵の騎士団に入れるとは光栄な事で御座います」


「ふふ」


「ただその前に会って頂きたい方がおりまして」

「誰だね?」

「こちらの方で御座います」


2人で指輪の空間に移動。


「ここは?……どういう事かなヘイシロウ君」


伯爵が語尾を強めて俺に尋ねる。


「待っていたわジェド」


「……セシリアか。やはり生きていたんだな。キンジィーは、もうこの世にはいないと言うことか」


「そうよ」


「君も鑑定が出来ないとは、一体なにが有ったのだろうね?」


「貴方を殺す為に冥界から戻って来たのよ」

「成る程……」



いよいよ2人の戦いが始まるのか。何か有ったら俺が『録画2』すれば良いだけだから、暫くはセシリアのお手並み拝見だな。


ん~、何か忘れているような、大事な事……。


「あっ!」


俺は慌ててジェド伯爵を『録画2』した。当然、セシリアの目の前から伯爵が消える。



「ちょ、ちょっとヘイシロウ、どういう事なのかしら?」


「悪い悪い、殺してからだと生き人形化が出来ないので先にコピーさせて」


「はっ?コピーって」


「え~と、そこからだよね」


なんて誤魔化そうか?


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