第11話 エルフの事情と本戦開始

 

★★★


「こそこそ嗅ぎ回っていると思えばエルフだったか」


「ザハ、このエルフもオークションに出してやりましょう」


「そうだなジェド様もお喜びになるだろう」


「やはり貴様らは裏でそのような事を。許さん!」


「ほう、どう許さないのだ?」



「ミスティ、頼む」

「はい、アンジュ様、ウインドストーム!」


「ふん、この程度か。ハッ!」


「バカな、ミスティのウインドストームが掻き消されるなんて」


「その程度の精霊など屁でもないわ。なめるな」


「バカな娘ね、風属性でザハを相手にするなら高位のシルフくらいは連れて来ないとダメよ」


「くっ」


「今度はこちらの番だな、ダークバレット!」


「マジックシールド!」

「ぬるい」


「なっ……ぐはっ……なんでシールドを突き抜ける?」


「そこいらの雑魚とは違うのだよ、雑魚とは。私の魔力の質はな。リア、拘束しろ」


「分かったわ」


『ハイヒール』


「傷が治って行く。こ、これは?」


「むっ、仲間がいるな」




ーー



オークション会場の館まで大体5km位か、12分~15分ってとこかな?こんな所で走り込みが役に立つとはね。とにかく急ごう。






『ヘイシロウ様、2対1でかなり不利な様子です』

『あと2,3分で着くからカバーして上げて』

『了解です』





「出て来い!姿を現さねば、此奴の命は無いぞ」

「キュィ」


「ん、ガッツ?ハハ、お前の様なお間抜け魔物のわけがなかろう」


『お待たせ』

『ヘイシロウ様』


セシリアから貰った髑髏の指輪のお陰で気配を察知されずに近づけた。名前が名前だけに呪われるかと心配したが、光属性の者が身につけると呪われるそうだ。



「2人がかりとはズルくないか?」


「出て来たか、貴様みたいに色気の無い男に用はない。死ね!」


「ザハ、待ちなさいよ。そういうのが好きな男もいるのよ」


「そうか?こんな男をか」


「いきなり酷いな、自己紹介も済んでないのに。じゃ、2人共さようなら『録画2』」



「えっ?き、消えた……お前はいったい何者だ?」

「俺?ヘイシロウと申します」



ーー



「ヘイシロウ、どういう事かしら?魔人2人は何処に行ったの?指輪の空間の中なのかしら?」



「ち、ちょっと他の場所に行ってもらってる」


「そう、後でゆっくりとね。先ずは、この御方のお話が聞きたいわ」


「……助けてもらった事については礼を言わねばならないが」


「おおよその見当はついているんだ。仲間を助けに来たんだろ?」


「……」


「助けるのは構わないが、俺達がジェド公爵を、消去しまつしてからにして欲しい」


「それは何時だ?」

「本戦が終った時」


「今から1週間後ではないか、囚われている者の中には第3王女様も居られるのだ。精霊の力を借りて各地に捜索隊が出立した中で、半年かけてやっと私が見つけたのだ。パメラ様がどれほど苦労されたことか、待てん」


もしかしてあの時のエルフが第3王女様なのか?おっと、話を進ませないと。


「大体、ジェド公爵は上位の魔人だ、2対1とは言え格下の魔人に手も足もでなかった君に救い出せるのかい?」


「無理ね、犬死だわ」


「くうぅ…………魔人?魔人とはなんだ?」

「そこからか……仕方ない」



ーー




「あんなに強い魔人とやらを生き人形にするだと?お、お前は魔王なのか」


「そう、そう思うわよね普通」


「だから違うってば。ダンジョンで見つけた魔道具を使うんです」


「怪しい、本当かしら?」

「セシリアはどっちの味方なのさ」


「まぁ、良いわ。さっきの2人はどうするの?」


「いなくなったら問題だろ、生き人形にして送り込む」

「そう……仰せの儘に、魔王ヘイシロウ様」


「セシリアさんや、本気にしそうな人がいるので気をつけませう」



俺のスキルで生き人形化した魔人を見て、エルフの騎士アンジュはゴクリと唾を飲んだ。


自分が手も足も出なかった2人が、俺をご主人様と呼ぶのを見て、第3王女様を救うのを大会が終わるまで待つ事を了承してくれた。


『……やっぱり魔王だ』





ーーーー



次の日、本戦の組み合わせが発表された。俺とアンジュは勝ち進めば準決勝で当たる事になるが、ベスト4は確定なので問題は無い。



その夜に案の定、俺は襲われた。ご丁寧に仲間を連れて御本人様登場だ。今までは大人数で闇討ちすれば対戦相手を葬ってこれたのだろうが、今回はそうは行かないぞ。


襲って来たのは1回戦で当たるカバレ子爵の騎士だ。因みに魔人ではない。襲われるのは実力が認められたようで悪い気はしないが(嵯哭さないだけど)面倒くさいのでまとめて録画2して片付ける。


当然、俺の相手である騎士は試合会場には現れないので、俺の不戦勝となった。



「ホントバカよね」

「魔王を闇討ちするなどと」


「なんの話をしているの?」


「ううん、何でもない。それより次の試合が今大会1番人気のバンティスよ大丈夫?」


「何とかなるさ」




ーー



この世界で剣術の開祖と言われるジェリオンスレイの弟子から弟子に引き継がれ、長きに渡って確立された正統派騎士の剣、ヴェルデュノール流の第一人者が俺の前に立っている。


ちょっと鍛えただけの俺とは違い、バンティスの身体は美術館に飾ってあるギリシャの彫刻の様に美しい。


裸でなくても、試合用のシャツとズボンがピッタリと張り付いてしまうその姿を見れば誰もが溜息を漏らす程だ。


これは俺が嵯哭さないの足を引っ張らなければいいが。



開始の合図とともにバンティスが動く。速い。迫って来る木剣を手首を捻り角度を僅かに付けて突き出し木刀の側面、刀で言う所の鎬筋に当たる部分で弾きそのまま突きを決めに行く。


だが思い通りにはならなかった。この世界の剣は特別な用途を除けば両刃で剣の厚さは均等だ。


対して木刀は刀を模しているので反りが有り厚さが均等ではなく丸みもある。


木刀同士なら互いの丸みのせいで嵯哭さないの腕であれば最短距離で綺麗に弾き、突きが決まっていた筈だが剣の形状の違いで逸れ方が僅かな事に加え相手は超一流と来ているので仕方ない所だろう。


バンティスは剣身を接触させ押し込んで来た。凄い力だ、俺の筋肉が悲鳴を上げるが嵯哭さないが容赦なく俺の身体を限界まで引き上げ鍔迫り合いの形になった。



あ~、また筋肉痛になるな、これは。嵯哭さないさん、

どうかお手柔らかにお願いします。

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