第10話 魔人生き人形化計画

 俺の予選ブロックも4回戦目になる。残ったメンバーは36人になった。


この辺りからシードの選手も出てくる。今日の俺の相手がそのシード選手で、前回予選ブロックのトップ通過の大剣使いのバマッチョ選手になる。


俺の2倍は有るようにみえる大男だ。重い大剣を自由自在に操るのだから当然だろう。


木製の剣だから威力が無いかと思えば然にあらず。試合を見たが対戦相手は木製の大剣を受けきれず弾き飛ばされていた。


バマッチョの大剣は気乾比重の密度が高く、この世界で最も硬く重い木材バイタルマグナムの木で作ってあった。


あの大剣を上手く躱すのが重要ポイントだ。ここを越えれば後は強い選手には当たらないので予選のやまばと言える。


もちろん、嵯哭さないさんにお任せするんだけど。




「これよりニテンサン流ヘイシロウとオザッパ流バマッチョの試合を行う。始め!」



嵯哭さない!』



バマッチョは単に力まかせではなく、大剣の重さを上手く利用して攻めて来る。


大剣のバマッチョを見た嵯哭さないは上段に構えた。バマッチョには俺の構えは頼りなく見えたのだろう、一刀両断にするべく大剣を振りかぶった。


嵯哭さないは、この対戦に限らずバカ正直に木刀で攻撃を防御し受けるような事はしない。テレビの時代劇の様に[カキン!カキン!]などと真正面から刀の刃で受けていたら、その度に刃こぼれして大変だ。なので受け流すすべを持っている。


今回、嵯哭さないは前に出ていた左足を斜め右後に下げながら右足を前に出し差し替えた。この時、足を差し替えた事によって半身になり拳1つ分ていど左に変移している形になるので、例え大剣が振り下ろされたとしても嵯哭さないには触れる事はない。


実際は大剣が振り下ろされる前に、木刀がバマッチョの右前腕部に叩き込まれていた。


「うぐっ……」


バマッチョの右前腕部が腫れ上がって行く。これは折れたな可哀想に。


しかし、さすがは前回予選ブロックのトップになったシード選手だ。大剣を落とす事なく数回バックステップで方向を変えながら距離を取り、体勢を立て直し反撃を試みる。


「な……にっ」


だが既に抜重により瞬時に移動した嵯哭さないは、距離を取り反撃しようとするバマッチョの眼の前にいた。


「ぐはっ」


バマッチョの鳩尾に木刀が突き刺さる。胃液のような物を吐きながらピクピクと痙攣して倒れているバマッチョを見て、審判のコールが上がった。


「バマッチョ、戦闘不能。勝者ヘイシロウ」




そして3日後に俺はブ予選ロック優勝を果した。



ーーーー


本選出場を祝して宿の部屋で、打ち合わせを兼ねて酒を飲む。


「本選出場おめでとう」


「俺のブロックはシードが1人だけだったから助かったよ」


「ホント、ついてたわよね」


それもあるが、嵯哭さない様々だよ。


各予選ブロックの16名も決まり大会も更に盛り上がる。


今までも賭けの対象になっていたが、これからが本番で貴族が参加する事によって動く金額が膨大になるそうだ。


毎年、本選出場の半分は貴族のお抱え選手になるからだ。今年もその通りになった。



「本選は2日後からよ」

「凄い連中が揃ったようだね」


「莫大なお金が動くと言われております。ヘイシロウ様もお気をつけください」


「?」


「毎年、本選までの間にケガして棄権する選手が何人か出るのよ」


「それって……」


「貴族のメンツや金の為に手段を選ばないって事ね」

「なるほど」


「それにしても手強そうな人が居るわね。高位の騎士って感じよ」


「それもエルフの御方で御座いますな」


「セシリアの話だとエルフ族って排他的で人とは関わらないし、公の場に出て来ないって言ってたよね」


「そうよ……普通わね」


「だとすると何でまた?……行方不明の仲間を捜しに来たとか……」


「その線だと思う」

「何か情報を掴んだのかな?」


「エルフなら出来るかも、精霊と仲が良いという話よ」


「う~ん、精霊か……下手に動いたり暴れて欲しくないな。俺の計画が……」


「何なの、ヘイシロウの計画って?」


「詳しくは話せないが、セシリアが仇を討という事はジェドがこの世界から消えるという事だろ?」


「当然よ」


「本人が消えれば、そいつそっくりの生き人形を造れるんだ。それも俺の命令には絶対服従なやつ」


「なんと!それは古の魔王の様ではありませんか」


えっ?魔王ってそうなの?


「……ヘイシロウって、もしかして魔王だったりするの?」


「ち、違うってば、魔王がこんなに弱いわけないだろ?」


「それもそうよね」

「確かにそうで御座いますな」


「は、話を戻すよ。奴隷にされた獣人やエルフ達には申し訳ないけど助けるのはジェドを倒した後だ。その後で奴隷の人達を救い出して、生き人形のジェドに後始末というか対応させるんだ。これから先、魔人を倒したらその都度、生き人形化していく。何時かはバレると思うが、そうすれば情報も得られるし時間も稼げるだろう」


「ヘイシロウのスキルにツッコミどころ満載だけど、言わんとする事は解るわ」


「つまり、ジェド公爵を倒す前にエルフのあの御方に暴れられては水の泡という事で御座いますな」


「それに異種族を奴隷にするのは世界大戦が終わった時に禁止されたのよ、こんな事が明るみに出たら大変な事になるわ」


「しかしですぞ、奴隷の方々を救い出せば獣王国、エルフの国に知られる事になりますな」


「……おっと」


それは考えていなかった。


「もう、ヌケ作ね」


抜け作とは酷い言われようだ。


「……思い切ってあのエルフに相談して見たら、品格が有るし、きっと身分が高いわよ」


「排他的なんだろ、怒り出さないか?」

「そうね、可能性はあるかもね」




『ヘイシロウ様、エルフが魔人に襲われています』


オークション会場の館を見張っているイズナからだ。


「そのエルフだと思うが魔人に襲われているそうだ。イズナから連絡があった」


「不味いわね」

「行って来る」

「私も行くわ」



俺の時空の指輪を使って2人を時空間に入れた俺は、夜の街を抜けて貴族居住区に向かって走り出した。

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