第8話 気の長い計画

 セシリアを嵯哭さないで一蹴し、納得させた後の1日の始まりは走り込みから始まる。


走りに行く前に生卵を一飲みする。どこかのボクシング映画のワンシーンの様な感じで。


走り込みの後は、若い頃に流行り多少かじった事のあるブートキャンプのビデオを思い出し1日に5ラウンド粉していく。



始めて1週間しか経っていないが、休み休み走っていたコースも今は息もあがらない。余裕で周る事が出来るようになった。


筋肉も引き締まった……ような気がする。




「武術大会の申し込み開始が5日後だから王都に戻った方がいいわね」


「うん、そうしようか」




3日後に王都に無事に戻る。最初にやるべき事は情報を仕入れる事だ。


この国の中枢にどれだけ魔人が入り込んでいるかを調べないわけにはいかない。ここからはイズナにお任せだ。


「ではヘイシロウ様、行ってまいります」

「頼むな」

「お任せを」


どの魔物のスキルを使ったのかは判らないが、イズナの気配が瞬時に無くなる。


「し、喋った?今、イズナが喋ったわよね?」


長く一緒にいれば、いずれ判る事だしセシリアなら良いと思ってイズナには許可していた。


「俺の従魔だからね」


「……呆れた。何時かきちんとヘイシロウの事を話してよ」

「分かったよ」



イズナが視た物は全て俺にも見える。もちろん録画1も出来るのでしておく。城が見えて来た。先ずは色々な所を歩き回ってみるか。




「まじかよ」

「どうしたの?」


イズナの目に映る者達が酷い事になっている。同じ制服で話しあっている内容からすると、この国の文官なのだろう。


「文官だと思うが、5人に1人は魔人だ」

「う、嘘……」


「丁度良い、国王に会いに行く奴がいる。ついて行ってみよう」


階段を上がるとテレビでよく見るような大広間がある。謁見の間かな?偉そうな人はいない。文官はそこを通り過ぎ奥にある部屋に入った。


「ジェド公爵、アルバンカ王国からカルヴィン様がご到着されたようで御座います」


「そうか、すぐ行く。陛下、この件は後ほど」

「うむ」



あれが国王……それでこいつがジェド公爵。


「ん、何かが紛れ込んでいるな」


くっ、バレた。


「キィ」


「フン。愚かで頭の悪い身の程知らずのガッツか、何でこのような所に?つまみ出せ」


「畏まりました」


イズナ、逃げろ。


『はい』




ーー



「ふぅ~、ジェド公爵か、やっぱり侮れないな」

「見つかってしまったの?」


「ああ、国王はまだ人だったよ。でもジェド公爵は……」


「魔人だったのね?」

「かなり凄腕のね」


「私、勝てるかしら?」


「それは何とも言えないよ。状況にもよるだろうし」

「……そうね」


「でも俺達はパーティだろ?2人なら大丈夫さ」

「うん、頼りにしているわよ」


「問題はジェド公爵を倒したとして、その後だ」

「知った仲間が黙っていない?」


「その通り。直ぐに後釜が来るだろうし原因を調べ始めるだろう」


「極力正体は知られたくないわよね」


「そうなんだ。そこで時間稼ぎの工作は俺に任せてくれないか?」


「……何か切り札が有るのね?」

「まあね」


「解りました。お任せします」

「よし、決まり。食事にでも行こう」




魔物の中で高級素材の1つであるコカトリスの肉を使った王都名物のフルコースを出す店に行き、英気を養う事にして食事を堪能する。


「あ~、美味かった」

「ホント、久しぶりだわ満足」


「後は四強に入ればいいだけだ」

「期待しているわよ」

「任せろ」


イズナを使って判った事だが、イズナを通して見たものは録画して相手のステータスや物の鑑定は出来るが、消去はできなかった。


自分の目で見た物でなければどうやらダメのようだ。イズナによってスキルの効力が及ぶ距離が伸ばせると思ったのだが、そうは甘くなかった。そうなれば、ほぼ無敵だったんだけど……惜しい。




ーー


武術大会の参加申込みが始まった。凄い人出で受付場所は20箇所もあるのだが、皆長蛇の列だ。


「決勝まで一体何日かかるんだろう?」

「去年は確か、1か月半かかった筈よ」


「うわっ、気の長い計画になったもんだ」

「仕方ないわよ。この世界の3大行事の1つだもの」


「……今から城を襲った方が良いのでは?」

「偽装工作するんでしょ?本気なら付き合うけど」


「そうだよな、俺に任せろって言ったんだっけ。はぁ~、道中長いな」



やっと俺の順番になった。


「名前と出身地、流派をここに書いて」


出身地、流派とは、また面倒くさい事を言うね。出身地は俺の住所の品川区にしとけ。


「シナガワク?」

「西の果ての小さな村です」


「流派は?」


流派って言ってもな、有名な所では宮本武蔵か柳生になるけども、二天一流で……流石にちょっとおこがましいか、二天三流でいいや。


「ニテンサン流か、これまた弱そうだな」

「西の果ての小さな村ですから」


「やれやれ、まあ楽しんで行ってくれ。次!」



夕方になってようやく参加者の人数が判った。総勢4501人だそうだ。



トーナメント方式なので、優勝が決まるまで4500試合をしなければならない。


発表によると王都に在る由緒正しき王立競技場で行われるのは上位16名、ベスト16による15試合だけだ。


それ以外は各地域に仮設で造られた16の予選競技場で、1日に6試合ずつ行われるらしい。もちろん実績の有る選手はシードされる。


頭の中でざっと計算する。各競技場で割ると大体1ブロックが280人、6試合で競技場毎の代表が決まるのが46日以上かかるのかよ……予備日だの何だので、やっぱり今年も一月半コースだ。下手すりゃ2か月かかるかもしれん。


地方から出てきた奴は滞在費もバカにならない。冒険者ギルドで依頼を受けながら過ごすのが当たり前のようだ。


それでもベスト128以上になれば滞在費など気にならないくらいの褒賞金が出るそうで、皆んな結構気合が入っている。





「それで城に招待されるのは何人なの?」

「上位4名で御座います」


「そうですか」



大会中は色んな所から人が集まって来る。各国のお偉いさん達も招待され、商人達も儲けどころなのだろう大バザール化するので、出見世や大道芸などで大賑わいになるという。


さすがはこの世界の大イベントの1つだと言って良い。……魔人の文官達の話を聴いていなければだが。


さて、セシリアになんて切り出そうか?


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