第7話 天の助け?憑依召喚

 今日もセシリアの叱咤で1日が始まった。


「そうではないわ、もっと下から斬り上げる感じ。こうよ」


「こう?」

「そうそう。頑張って」



ここ1週間はセシリアに剣術の基本の型を教わり、各単元で、ある程度の合格点をもらうとその都度ダンジョンに行きゴブリンを相手に剣のみで戦わされている。


レベルの低いゴブリン相手では何とかなったが、ゴブリンファイターともなると剣の腕は俺より良かったりする。


なのでヒヤッとすることも結構有る。俺のスキルが特殊な事を知っているセシリアはついても来ない。まあ、指輪の空間の中にイズナも居るしね。


「こんなんで間に合うのかよ」


解ってもらえるだろうか?愚痴りたくもなる俺の気持ち。


地下8階に降りてオークファイターとの連戦を終え、腰を下ろし呆けていると何処からともなく声が聞こえて来た。



『お困りの様子ですね力をお貸ししましょうか?』

「何方様?」


『レベルアップおめでとう』

『あらあら』

『やっとよね』


『こうして話せるのも最初で最後だ、よく聞いてくれ』

「?……は、はい」


『俺達は或る組織の暗殺チームだった。依頼者の指示であの列車に乗りコンタクトをとる筈だったのだが事故にあい、このザマだ』


列車の事故って、……えっ、えっ?日本にも暗殺組織なんて物が有るんだ。あの4人がそうなの?


『そうなのよ』

「うっ」


『俺達の命運は尽き死ぬ筈だったが、あんたの強運に引っ張られスキルの一部になってこの世界に来た』


「俺が強運?金持ちでもないし平凡だったけど」


『何が幸せで幸運かは個人個人で違うだろう?あんたは金持ちになる事を願ったわけでもあるまい。平々凡々、普通に暮らせる幸運だって有るのさ』


確かに。願いが叶うからと言って欲をかけば、そこに隙ができて悪魔につけ込まれ悲惨なめに合うなんていう事はよく有る話だ。


『ここに来る時、あんたの加護神の意思は多少理解できたからな。それにしても、やきもきさせてくれるぜアンタは』


『ホントですわよ』

『2度も死ぬなんて』

『私の力も日の目を見ないで消えると思うと残念で』


『後1回死んでいたら、簡単に言うと運の量が空になって、例え転生したとしてもスキルは何も無かったのだから』



や、やっぱりあれが最後のチャンスだったのか。しかし、3度も転生できる俺の運てどんだけだったのだろう……。


「す、すいません。私が甘かったのは自覚しております」


『OK、時間が無いので自己紹介と力の説明をしよう。俺の名は丈で狙撃担当だ』


『ワタシはリサ。情報収集の為の交渉役、簡単に言うと拷問担当よん』


『あたしは美夢。薬の専門家、最も得意なのは毒よ』


『私は嵯哭さないだ。武術なら何でも。丈が狙撃できない状況の時は私が対応してたんだよ』


ううっ、俺の第一印象であってたのは、かろうじて丈さんの狙撃手のイメージが有るくらいだ。


『憑依召喚をして暇な時に狙撃銃を造っておいた方がいいぜ』


『薬もね』『拷問道具もよ』『刀や武器も』


「わ、理解りました」


『健闘を祈るぜ』

『アデュー』

『しっかりね、ヘイシロウ』


『身体は鍛えてください。じゃないと憑依が解けた後で筋肉痛になりますよ』



ふぅ~、どうやら終わったようだ。え~と、整理しよう。先ずステータスの確認だ。


「憑依召喚が反転じゃない。使えるって事だな」


現状で出来るのは嵯哭さないさんの剣術だけか……いやいや、今、必要なのは剣技なので大助かり。俺はやはり運が良いようだ。



オークファイターが向こうからやって来るのが見える、丁度良い。


「憑依召喚、嵯哭さない!」


俺を見つけた3頭のオークファイターが鉄剣を振り上げ、俺の好きなアニメの技、ジェットス○リー○アタックの如くフォーメーションを組んで襲って来た。


先頭のオークファイターが一文字に胴を斬って来る、僅かな差を付けて後ろの奴がタプタプの脂肪の付いた身体とは思えないジャンプ力で跳び、俺の頭を真っ二つにするべく振り下ろして来た。


うへぇ~、こんなのどうやって避けるんだよ。俺の心配をよそに身体が勝手に反応していた。


横や後に移動して躱すのではなく、先頭の奴の懐に俺は飛び込んでいた。左の手刀でオークファイターの剣のグリップを抑え込みながらセシリアから複製させてもらった幻惑の剣で頭を突き刺す。


刹那、幻惑の剣は片刃なので手首を捻り、左手を添えて斬り上げ、ジャンプし落下してくるオークファイターを股間から切り裂いた。


ゾーンというやつに入った状態なのだろう、スローモーションのように時が進む。


徐々に股間から真っ二つになっていくオークファイターの肉塊の隙間から3頭目の奴の突きが俺の顔めがけてやって来る。


嵯哭さないの憑依した俺の身体は当然の如く見切っていた。


首を右に傾けると耳の横を剣先が[シュッ]と音をたてて過ぎて行く。その時、俺の目には落ちてくる最後のオークファイターの頭が映っていた。



なにこれ?凄くない?嵯哭さないさんカッコ良い。



それから俺は地下15階まで行きオーガファイターなどを相手に憑依召喚を存分に体感した。


元々、魔力量はあったので魔力切れなどにはならなかった。こうして俺は意気揚々とダンジョン街、ラズロウに戻った 




「あら、サッパリとした顔をしているわね」

「ふふふ、これからは俺を剣聖と呼びなさい」


「余りにも上達しないので気が触れたのかしら?」


「明日になってもそのような口がきけるかな?」

「はい、はい解りました。楽しみね」



翌日、俺の勇姿をセシリアに見せる……事は出来なかった。何故なら、極度の筋肉痛でベッドから降りる事さえ出来なかったからだ。


嵯哭さないさんの言っていたのはこれか……魔物と戦っていた時はアドレナリンが出まくっていて気がつかなかったが、俺の身体が追いつかないのだ。


これから武術大会まで地道に筋力トレーニングをしなければならないと思うとガッカリだ。

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