第6話 無茶振り
セシリアと合流する日まで、後4日になった。従魔を早いとこ造らなくては。
基本的な事は考えては有る。弱そうに見えて強い、えっ?何でこんな魔法が使えるの?てな感じにしたい。
そこで選んだのが元の世界のイイズナという動物に似た魔物でガッツというやつだ。小さい猫ぐらいの大きさで俊敏で気が荒い。
優秀なハンターなのだが1つ問題が有る。身の程をわきまえず数十倍も有る相手に喰い付くのだ。結果、返り討ちにあい、まるっと喰われてしまうのである。
まぁ、そこは俺が修正するからいいのだが。
では早速オリジナルを複製してと、それからスキルはヒュドラとキマイラのものをと、ついでにミノタウロスのも入れるか?そうだマンティコアとリッチも入れちゃえ。剣技はダークブレイドのスキルで偵察用に擬態の出来るダークスライムのスキルを入れれば完璧だろう。
あと治癒能力も欲しいからモノケロスを入れてと、魔人相手とは言え各数値は200倍にでもしておけば完璧だろう。足りなければまた書き換えれば良いもんな。
従魔として俺の生き人形になるわけだが、俺は猫とか可愛い動物が好きなので味気ない関係は嫌だと思う。長い付き合いにもなるだろうし。
なので、"人の言葉を理解し話せる"と定義付けをする。おっと、思慮深く沈着冷静を付けるのを忘れてはいけない。細かい事は少しずつ学習してもらおう。
名前はイズナに決めた。
後は再生して外に出すだけだが、些か気が重い。オリジナルを消去しなくてはいけないからな。まあ、勘弁して欲しい。許せ。
「ヘイシロウ様、イズナと申します」
「ああ、宜しくな」
準備は整った。再び王都行きの馬車に乗る。着いて最初にすることは冒険者ギルドに行ってイズナの従魔登録をすることだ。
「俺以外とは喋っちゃダメだぞ」
「はい、ヘイシロウ様」
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょう?」
「こいつの従魔登録がしたい」
鞄からチョコンとイズナが顔を出す。
「えっ、ガッツ……か、噛みつきませんか?」
「俺に危害を加えない限り大丈夫ですよ」
「そうですか、では登録証を出してください」
受付嬢に登録証を渡すと受け取った登録証を受付嬢がイズナの頭に定期を改札機にタッチするように付けた。
登録証が一瞬白く光る。
「はい、これで登録出来ました」
へぇ~、意外と簡単なのね。銀貨1枚を払って出ようとするとガラの悪そうな連中に前を塞がれた。
「よう兄ちゃん、変わった魔物を従魔にしてるじゃねぇか」
ひょっとして俺は絡まれているのかな?困った。子供の頃、ブルース・リーが好きだったから武道の事はよく調べて、ある意味オタク化している。
大人になってからも武術関係の動画もよく観たし。だけど実戦経験はない。
この世界に来てからもスキルの事ばかり考えていたから、魔法、剣術、体術はからっきしなんだよね。こんな所でコイツを消すわけにも行かないし、どうしよう。
「俺はなガッツが大嫌いなんだ」
「どうしてです?こんなに可愛いのに」
「バカ野郎!兄貴は子供の頃、鼻の頭を食いちぎられたんだよ」
あっ、ホントだ鼻の頭が無い。俺は思わず吹き出し、笑ってしまった。
「き、貴様~!」
ヤバい、ますます怒らせてしまった。誰か止めてくれないのかな。周りの冒険者達は新顔の俺がどう対応するのか様子を見ている感じだ。
胸ぐらをつかまれた。殴られるのやだな。痛いし。
『ヘイシロウ様、私が何とかしましょうか?』
『おお、イズナがいたんだよな、頼む』
『承知』
振り上げられた拳は俺の顔を殴りに来なかった。
「か、身体が動かねぇ」
どうやらイズナの"威圧する眼差し"によって金縛りになったらしい。
「今止めないと今度は耳が無くなちゃうかもよ?」
「うっ……わ、分かった、今日のところは勘弁してやらぁ」
俺はイズナにウインクする。
「キィ」
頼りにしてるぜ相棒。周りの冒険者達の「ふ~ん」という顔を見た俺は満足して外に出た。
約束の日は明日だ宿を探してゆっくりしよう。
ーー
「来たわね」
「やぁ、冒険者の恰好が似合っているよ、元気そうで何より」
「隣街で登録したの」
「サイモンさんは大丈夫?」
「相手が相手なので、魔道具だけでは心配だから指輪で創った空間で生活してもらっているわ。ヘイシロウが造った指輪は、ちゃんと機能してるの?」
「もちろん、ダンジョンでは重宝したよ」
「そうなの、私のスキルも大概だけどヘイシロウのスキルも相当よね」
「ああ、自覚しているよ。そうだ相棒を紹介するよ従魔のイズナだ、宜しくな」
「キィ」
「ガッツじゃない……噛まない?使役出来るの?魔物に突っ込んで行って自爆するだけじゃないの?」
『イズナ、世間のお前達に対する評価はやはり酷いな』
『自分達が1番強いと思ってましたものですから……』
「そこは大丈夫、イズナは頭が良いんだ」
「ふ~ん。では宜しくねイズナ」
「キィ」
「さて、紹介も済んだし、これからどうするかだけど此処はセシリアの地元だし当然狙いはジェド公爵なんだろう?」
「ヘイシロウさえ良ければ」
「俺の敵はアルバンカ王国にいるんだ、セシリアの用が済んでからで良いよ」
「有り難う」
「キンジィーが消えた事はジェド公爵も知っているだろうから、どうやって近づくかだが」
「そうね」
「サイモンさんは何か情報を持ってないかな?」
「そうか私はひと月もの間ダンジョンにいたから状況が判らないものね。サイモン、出てきなさい」
指輪に向かってそう言うとサイモンさんが現れた。まるで指輪の精みたいだ。
「そうで御座いますね……それでしたら、ひと月後に世界3大行事の1つでありますこの国で最大の武術大会が始まります。そこで上位の者達は、毎年お城でのパーティに招かれます」
「ああ、そう言いえばもう大会の季節なのね」
「3大行事ねぇ、それは使えそうだな」
「でも私は顔を知られているし……」
セシリアとサイモンさんが無言で俺の顔を見る。
「無理無理、俺は剣術は人並み以下だし」
「私が教えるわよ」
「ひと月じゃ無理だって」
「どう転ぶか判らないでしょ。賞金目当てで参加する人達の半分はお祭り気分で出るような物だし、密かに城に忍び込むのは色んな結界が張られてて至難の業で、真正直に正面切って行くのは面倒くさくて大変よ」
剣の訓練より簡単に出来そうだけどな。しかし、世界的指名手配なんて嫌だものな。
「仕方ないな、責任は持てないぞ」
「ダメならまた考えれば良いのよ」
セシリアはけっこう楽天家だよな。鬱ぎ込まれるよりは良いか。
こうして俺の剣の修行が始まったのだが、どう考えても1回戦負けだよな。
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