第5話 ファーストコンタクト

 キンジィーの動きは素早かった。いつの間にか握られていた剣によってセシリアの左手首が切り落とされ、ボトリと床に落ちた。


「痛!」


不味いなキンジィーのデータを消去するか。


しかしその必要は無かった。床に落ちた手首の周りは赤く血に染まったが、セシリアの腕からは血が出ていない。それどころかボコボコと再生が始まっている。


「ふ~ん、ダンジョンの底で貴女に何があったのかしら?」


「私が聞きたいくらいよ」


セシリアの持つ変わった剣がキンジィーを襲う。キンジィーは軽々といなす。


「ハハ、無理、無理。魔法学院でも剣術は私に敵わなかったじゃない」


「そうね、でも死ぬのは貴女よ」


「減らず口を、これでも喰らえ……何よ……これ?」



いつの間にかセシリアのつま先から床を這って、触手の様な物がキンジィーの足に吸い付いていた。


「まさか?何でお前がベルモンド家の力が使える……」


キンジィーの様子が変だ。ちょっと痩せた?スマートになった……いや違う、干乾びているんだ。



「もう終わりよ観念しなさい。父と母の仇は必ずとるわ」


「ち、調子に乗るな……我が同胞は世界中のあらゆる国の中枢の至る所に居る……お前は必ず抹殺される」


「負け惜しみを」

「ハ……ハ……我らは……がある限り……復活……」


キンジィーはミイラの様になりサラサラと粉になって崩れて行った。



「お、お嬢様は一体どうなってしまったのです?」


「サイモン、心配しないで、私は私よ。……ヘイシロウ、やっぱり貴方は私の力を見ても驚かないのね?」


「そうだね」


「貴方は何者なの?」

「ただのFランクの冒険者」


「よく言いますね。でも御免なさい。巻き込んでしまったかもしれません」


「ああ、かもしれない……だが俺の敵でもある可能性もなくはない」


「えっ?」


「取り敢えず場所を変えた方がいい」

「そうね、いい所が有るわ」



ーー


移動した先で俺達が入ったのはセシリアの持つ指輪で創られた空間?……部屋だった。



「この中なら安全よ」

「凄いな」


この能力は手に入れたい。


「じゃ、話しの続きね」


「サイモンさん、セシリアさんの子供の頃に何があったのです?」


「その話しが先なの?重要?もう、貴方の正体が聞きたかったのに」


「昔、グレードウルフに襲われ、噛み付かれて連れ去られたのです。それはもう必死に捜しました。1時間くらい走り回ったところで倒れているお嬢様を見つけたのです」


「ケガは?」

「それがかすり傷程度で」


「なるほど」

「何がなるほどなのよ?」


「その時、さっきキンジィーが言っていたベルモンド家と接触があったのかも、と思ってさ」


「あっ、なるほど。その方に助けて頂いたという事ですな」

「その通り」


「何よ、2人して理解りあって。貴方の事を話しなさい」


「分かった。キンジィーがお喋りで良かったよ。我が同胞はこの世界のどこの国の中枢にもいるって」


「確かに言っていたわね」


「それはつまり俺の両親も奴らに殺されたかもしれないって事なんだ」


「……そうなの。……同じ敵を持つ可能性が有るのね。だったら協力し合わない?」


「……そうだね」


魔物より手強い魔人と言う存在が他にたくさんいると判ったんだ、魔人のセシリアが仲間になるのは心強いか。


「分かった、こっちからもお願いするよ。ただ、2週間ほど準備する時間が欲しい」


「もちろんよ」


「後、その指輪とさっきの変わった剣もよく見せてほしい」

「良いけど、あげないわよ」


「取らないよ、同じのを造るんだ」

「?……なら良いけど」



「よし決まり」


「サイモンは暫く私と会わない方がいいわね。連絡方法は考えるとして、護身用にダンジョンで魔物がドロップした魔道具をたくさんあげるわ」


「お嬢様、有り難き幸せで御座います」

「大袈裟ね」



ーーーー



セシリアとは2週間後に落ち合う場所を決め別れた。俺は再びダンジョンに潜った。できるだけ多くの魔物を録画しておきたいからだ。


そうそう、例のクローンの件だが色々と制約が有る事が判った。


無機質な物、命の無い物はコピーして造った物はオリジナルと同様に付加されたものを含めて使えるが命の有る物はそうはいかない。


複製はできるが思い通り自由にできない。だが方法は有った。


オリジナルを消せば良いのだ。複製したその物のオリジナルが存在しなければ自由に操る事ができる。もっとも1度オリジナルを消してしまえば、複製の複製は何体でもできるので大した制約でもない気がするが。


アンデットなどを操るのがネクロマンサーなら俺はさしずめ生き人形使い、リビングパペッターと言ったところだ。


魔人の力は未知数なので、こちらも手札が多い方が良いと思い他のスキルを使ってみようとしたがダメだった。


残りのスマホ、電車、憑依召喚は緑の文字と画面の黒が反転しているので、使えるようになるにはレベルが足りないのだろうと解釈した。……もう1つ有った。録画の予約も反転してるな、予約って?まあ、レベルが上がればいずれ判るだろう。




ここのダンジョンの最下階は60階。今、ヒュドラを録画2して俺の眼の前には大きな扉が有る。


この中には、このダンジョンの親玉が居るらしい。レッドドラゴンだそうだ。


レッドドラゴンにも倒した後のお宝も気になるが、クリアしたら大騒ぎになるらしいので自重する。目立つわけにはいかない。



「それじゃ帰って俺だけの特別な従魔を造るとするか」



俺は転移の巻物を使った。転移する中でキンジィーが塵になる前に言った中で『復活』という言葉が浮かび上がり、ふと頭をよぎった。

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