第4話 予期せぬ訪問者

 この人は私のステータスが見えているの?そんな筈はないわ、隠蔽スキルでステータスは隠し欺瞞スキルで書き換えてあるもの。血だらけの服や装備だって魔法で洗浄したし。


大体、この人に人のステータスが判るスキルなど無い。ただのFランクの冒険者だわ。


「いや、ここは地下29階なんで女性が1人でいるのは凄いと思ってさ」


「ま、魔物に襲われてパーティの人達とはぐれてしまったの」


地下29階ですって……Fランクの冒険者が来れるところじゃないわよね。貴方の方がずっと怪しいわよ……。


「そうなんだ」


「一刻も早くここを出たいの、御礼はするわ何とかならないかしら?」


どうやら、俺に危害を加える気は無いようだ。


「転移の巻物があるから入口まで戻れるよ」

「ホント!助かります」



ーー



「やった~外だ。あれからどれくらい経ったのかしら?今日は何日なの」


「花の月の25日だよ」


「……ひと月も経ってしまったのね……急がなくては。約束通り御礼をするので、一緒にお屋敷に来てください」


「解りました」


どうやら貴族のお嬢様らしい。



王都ベルンまでの馬車代を手に入れる為に、ダンジョン街ラズロウのギルドで彼女が狩ったであろうミノタウロスの肉を俺の登録証を使って売った。受付嬢には変な目で見られたが。


「よく考えたら転移の巻物の値段に多少の色を付けてくれたお金で良いです」


王都までは馬車で3日もかかる。冗談ではない。こっちは、やることは山程有るのだ。


「そうは参りません。失礼ですが貴方は高ランクの冒険者とは思えません。しかも1人で地下29階に行くまで相当苦労したはずです。そこから簡単に戻ってしまったのですから、見合った金額を差し上げないと」


逆に俺が疑われているのか?何が狙いだ。彼女を録画したタイトルには"人から幻姿、魔人になり人外に成った者"と説明されている。


何があったかは知らないが、持っているスキルは半端ない。俺の知らない物もある。きっとそれがユニークスキルというやつなのだろう。


当然、俺のことは鑑定している筈。だが、この世界の人達は俺のスキルの事は判らないらしい。冒険者ギルドで鑑定スキルの持主で確認済みだ。



「そんな、気になさらなくても」

「……それなら貴方を雇いたい」


はっ?自分はそんなに強いのに、ホワイ?


彼女に興味が出たので、受ける事にした。依頼としてギルドを通してもらう。またしても受付嬢に怪訝そうな目で見られる。Fランクの冒険者が護衛?って感じ。



馬車に他の客は居なかった。ここで改めて自己紹介となった。


「ヘイシロウと言います」

「私はセシリアよ」


これから和気あいあいと色んな事を話してくれるのかと思いきや、彼女は難しい顔をして黙りだんまりを決め込んだ。



やれやれだぜ。



盗賊に1度襲われたが護衛の冒険者達で片付く程の雑魚だった。2つの街で一泊ずつして予定通りに王都に到着。


せっかく来たのだ、依頼が終わったら見物していこう。貴族の住宅街は王都の西側で緩い坂を少し上がった所にあった。



「あそこが私のお屋敷よ」


大きな御屋敷だ。セシリアの数少ないお喋りで伯爵令嬢だと言うことは判っていた。


走って門に着いたセシリアが固まっている。どうした?


「どうして、何があったの?お父様、お母様……」



呆然としているセシリアに追いついた俺が見たのは太い鎖で閉ざされた門だった。江戸時代で言う閉門蟄居という事かな?


「キンジィー、キンジィーの仕業ね。待ってらっしゃい」


「セシリアさん、ちょっと待った……」

「お嬢様!」


「サイモン!サイモン、これはどういう事?」


「やはり生きておられたのですね。あの時だってそうでしたもの、私は信じておりました」


「そうよ私は生きているわ、理由を、理由を話して頂戴」


「それは……旦那様と奥様は反逆罪で昨日の朝に処刑されました」


「そんな……事って」


「事情はよく判らないけどサイモンさん、場所を変えた方が良いのでは?」


「貴方は?……そうですね、それでは私の後についてきてください。さぁ、お嬢様」




ーー



「ここなら安全で御座います」

「詳しく聞かせて」



「旦那様とアラン子爵、ブローブ男爵が共謀し私兵を使って陛下を亡き者にしようとした……罪で」


「そんな事……本当なの?」


「皆様方で最近の陛下の行いや言動がおかしいと話しあってはおられましたが、陛下を亡き者にしようなどとは決してありません」


「では何で……はっ!もしかして?スタンフォード家の鉱山の権利はどうなりましたか?」


「ジェド公爵様に移管されました。アラン子爵とブローブ男爵の酒と塩の権利も……」



「……キンジィーの言った事は本当だったのね」


どうやらセシリアはジェドって奴にハメられた臭いな。


「許せない」


復讐する気だろうな。彼女にはその力があるし、気持ちはよく解る。俺が強くなりたいのも復讐という気持ちが少なからずあるからだ。


そう言えばサイモンさんさっき気になる話をしてたような。やはり彼女には秘密が有りそうだ。



「セシリアさん、どうするんです?」

「決まっているわ」

「復讐ですか」


「ええ、そうよ」

「お嬢様……」



止まらないよなぁ。



「この嫌な感じ……サイモン、誰か来るわ」

「そんな筈は……ここを知っている者は他に居りません」


「いや、本当だ。皆んな気をつけて」



入口の扉が開き誰かが階段を降りて来る音がする。部屋に現れたのはケバケバしい化粧の女だった。



「あら、生きてたの不思議ね」

「キンジィー!」


この女がキンジィーか。こいつも人じゃない。大体この世界に魔人がいるなんて何処にも書いてなかったのだが。


「見張りから連絡があった時は、まさかと思ったけど」


「キンジィー、許さないわ」

「あら、どうやって?」



セシリアは殺る気だ。魔人と魔人の闘い、俺はサイモンさんを引っ張り後ろに下がりキンジィーを録画1し油断なく見守った。

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