第2話 俺はバカか!

 お、俺のスキル?ブルーレイレコーダーにパソコン、動画編集ソフトってどうやって使うんだよ?


取り敢えず画面はタッチパネルのような感じなので、ブルーレイレコーダーの所を触ってみる。


録画に再生、消去、予約……そのまんまじゃないかよ!


「ギィギィ」「ギィギィ」「ギィギィ」


ヤバいもうすぐ来そうだ。


落ちた穴からもれる光で蟻の魔物の姿が微かに確認出来る。1,2,3……全部で6頭みたいだ。チェーンカッターのような顎が動くたびに[ギィギィ]と音がする。


不味い、何もしないで死ぬのはもう御免だ。何でもいいから足掻いてみるさ。


蟻たちは俺の様子を見ているのだろうか?まだ仕掛けてこない。


今のうちにだ。試せるだけ試してやる。録画にタッチする。


するとタイトルと表示され、ロングホンアント基X6と表示された。


「殺ったのか?」


直ぐに蟻の魔物を見たが何も変わっていない。俺が大声を出したので、俺を襲うべく身体を沈ませる。


くそっ、録画など何の役にも立たない。こんなデータなど消えてしまえ、と思ったのと同時に蟻の魔物が向かって来た。


「また死ぬのか…………」



しかしいつまで経っても痛みがこない。恐る恐る目を開けると蟻の魔物は地面にへたり込んで動かない。


剣で突くが微動だにしないので死んでいるのは間違いない。


……何となくは理解ができた。録画したのはこいつらの存在の本質、内面的な物、生命エネルギーみたいな物なのかもしれない。それを消去したから……待てよ、タッチパネルには触れてない。思っただけだ。という事は?おっと今はここを出るのが先だ、どうする?


奴らの屍を利用する事にした。大きさは2m弱あるが思ったほど重くはないので何とかなるだろう。2頭ずつ交互に面をきって重ねていく。


さほど重くはないので引きずるのは簡単だったが、重ねるのは一苦労だ。そう甘くはなかった。


三段に重ねたアリンコは高さ1m50にはなっただろう。上に立って腕を伸ばせば、後60cm位だ。ジャンプすれば手が届く。


「やった……出れた」


出て来た穴に重なっている亡骸を見ると、タッチパネルにロングホンアント:防具の素材などに利用出来る、とコメントが出ていた。


「素材か?金になりそうだ、持って帰りたいけど……」


ダメ元だ、録画してみるか。パネルには触れず録画と念じる。


タイトル:ロングホンアントの器x6個と出た。


死体ではなく器?でもデータだけなんだよな、きっと……あれ無い。穴の中にはロングホンアントの死骸は無かった。


どういうこと?考えられるのは生きている物はダメということか?死んだら物扱いなのでOKとか?きりが無いので今はそう解釈しておこう。


「でもどうやって出す?……やっぱし再生だよな。再生!」


出て来た。お~、やったぜ。


疲れている筈だがテンションが上がり、アドレナリン全開のせいか街には楽に帰れた。ギルドに直行する。


「お前、よくロングホンアントなんか倒せたな。しかも6頭も持って来るなんて、アイテムBOXか?」


う~ん、アイテムBOXってなに?


「え、ええ。森の岩場近くで死んでたんです」


「死んでただぁ、他の魔物に襲われたか?それにしては傷がねぇな。……ふん、まあいい受付で待ってろ」


「はい」



「ヘイシロウさん」

「はい」


「ロングホンアントの素材料が銀貨35枚、薬草の分が銅貨40枚です」


「ありがとう」


やった。これはデカい、お金に余裕が出来た。安心したら疲れが一気に来たので宿へ戻ると直に裏手に回り生活魔法でお湯を作り身体を拭く。


「ああ、風呂に入りたい……これで稼げるようになる。もう少しの辛抱だ」


パンと目玉焼きだけの安い定食セットを食堂で食べて、直に部屋に行く。


生活を向上させるには一刻も早くこのスキルをものにしなくてはならない。


自分のスキルの事を考えると次から次へと疑問が湧いて来る。改めてステータスをみるとオールセブンだな、運だけは良さそうだ。若い頃の賭け事の経験が活きてる?


というかアメノフトダマノミコトって何方様でせうか。悪友に連れられて1度神社に御参りしたことがあるけど、神様御免なさい。それに称号もなんかねぇ。


真面目に考えよう。データを録画したまま魔物を倒したらどうなるのだろう?録画データは消えるのか?それに普通に考えてパソコンにデータを取り込む事ができそうだし、編集ソフトで色々な事が出来る筈だ。


そこまで考えたら俺は深い眠りに落ちてしまったようだ。翌日の昼頃に目が覚めた。


「ふぁ~、寝た寝た」


お金に余裕が出来たので暫くはスキルの検証をする事にしたのだが、よく考えて見ると俺は物事を知らなすぎる。余裕が無かったとは言え、自分の周りの小さな事しか考えなかったからな。


その甘さで死ぬことになったとも言えるのだ。


そこで今更だが、この世界がどんなものか知る事から始める。先ず地図を買った。



俺の今いる国はシング王国でここだ。周りの国はどうなっている……えっ?


なんて事だ、俺は3回とも同じ世界に転生していたのか。東に王子として生まれたアルバンカ王国、北に商人の子として生まれたサルスペン王国が在るとは。


こんな事すら考える事が出来なかったなんて……魔法は使えないスキルは無いと言われて諦めて何もしない、知ろうとしなかったのだ死んで当たり前だ。


この世界の俺は定年で退職した年寄りではないのだ。若い時の様にギンギラギンにならなくては。


それから俺は、この世界で俺に関わりのある事から少しずつ調べ始めた。


色んな事が判った。確かに同じ世界に転生はしたが最初に王子として転生した時より回数を重ねた分、時間が経っているらしい。


となると気になるのは"前世"2回の家族がどうなったかと言うことだが、商人の子としての方は今直は無理だがアルバンカ王国の方は調べられた。


俺が殺された半年後に国王が亡くなっている。この世界の寿命は身分の高い者や裕福な者達は魔法や薬が有るので高齢まで生きる。


俺の父、国王は当時57歳だった。まだ死ぬ歳ではない……奴らの息子が国王になるのは当然の流れだが、ここは暗殺されたとみるべきだろうな。


「糞っ!」



自分が不甲斐なかったのだが、ムカついてきた。一矢報いたいところだが今は無理だ。自分のスキルを理解し強くなる事が先決だ。


さあ、森へ行ってスキルの実験開始だ。


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