第32話 敗北

「 いくぜ紫電!!」


阿修羅君が僕に向かってくる。


( 『流眼』!!)


だが、僕には『流眼』がある。


この状態なら阿修羅君の攻撃を見切る事ができる。


「 オラッ!」


阿修羅君が僕の顔面に拳を振りかざす。


さっきまでと同じように避けるだけ……。


「 !? はやっ……」


僕はギリギリで拳を避けたが、さっきまでと比べ拳速が明らかに上がっている。


「 オラオラ! どうした! そんなもんか!!」


「 くっ……」


阿修羅君は僕の顔面目掛けて何発も殴り掛かる。


『流眼』でギリギリ避けているが、このままだとまずい……。何とか反撃しないと……。


僕は阿修羅君の拳を避けつつ攻撃のタイミングを見計らう。


……。


今だ!!


僕は右脚に力を込め、阿修羅君の左頬を目掛けて『表流閃』を繰り出した。


バシッ!!


「 なっ!?」


『流閃』に反応した!?


阿修羅君は僕の『流閃』を左腕一本でガードした。


「 その技はさっき見た。もう効かねーよ」


「 ……」


一回見ただけで反応してくるとかチートかよ……。しかも左腕一本で……。


僕は軽く後ろに飛び、阿修羅君との距離を取った。


どうする……?


本気を出した阿修羅君の強さは想像以上だ。

攻撃は『流眼』を使ってギリギリ避けられるくらいのスピード……。

防御は『流閃』を腕一本で止めてしまうし、一度見た技は喰らわない……。


バケモンすぎるだろ……。


さっきから『流眼』を使い続けているため、かなりの体力を消耗した。


もうそろそろ決着を付けないとまずいな……。


「 フゥゥー……ハァァー…」


僕は大きく息を吸い込み、吐いた。


そして阿修羅君を睨みつける。


「 次の一撃で終わりにしようか」


僕は阿修羅君に言い放った。


その言葉に阿修羅君はニヤリと笑う。


「 面白ぇ……。俺も次の一撃で終わらせてやる……。俺の本気を受けてみろ」


どうやら阿修羅君も次の一撃で終わらせるようだ。


僕は右手の拳を力強く握り力を込めた。


そして僕は阿修羅君に向かって駆け出す。


「 喰らえ!!」


僕が駆け出したのとほぼ同時に阿修羅君も駆け出した。


「 潰す!!」


僕と阿修羅君は右手の拳を握り、お互い一直線に突進する。


……。


僕は右腕にさらに力を込める。


大事なのは左脚の踏み込みと腰のひねり……そして拳の回転。


僕の全てをこの右手に込めて阿修羅君を打ち倒す!!


( 『流拳りゅうけん』!!)


僕は『流れ八式』のひとつ、『流拳』を繰り出した。


『流拳』は拳に全体重を乗せ、相手を撃ち抜く技だ。左脚の踏み込み、腰のひねりで威力を増加させ、さらに拳に回転を加える事でその威力は絶大なものとなる。


これを喰らえばあの阿修羅君でも倒せるはずだ!!


「 オラァーー!!」

「 デリャァー!!」


僕と阿修羅君はお互いに叫びながら拳を振るった。


ドゴッ!!

バゴッ!!


「 ぐっ!!」

「 がっ!!」


そして、お互いの拳がそれぞれの左頬にヒットした。


僕と阿修羅君はよろめいた。


そして……。


ドサッ……。


僕は左膝を地面に着いた。


……。


ボタボタ……。


僕の鼻と口から血が地面に垂れ落ちている。


「 ……」


なんだ……これ? 阿修羅君のパンチどんな威力してんだよ……。重すぎる……。


脳が……揺れる……。


今にも意識が飛びそうだ。


……。


そういえば阿修羅君は?


阿修羅君の拳は僕にクリーンヒットしたが、僕の『流拳』も阿修羅君に入ったはずだ……。


僕は片膝をつきながら阿修羅君の方を見た。


「 マジ……かよ……」


僕の視界に入ったのは、鼻血を出しながらも仁王立ちしている阿修羅君の姿だった。


『流拳』を使っても勝てねぇってのかよ……。


阿修羅君はゆっくりと僕の方へ歩いてくる。


僕は立ちあがろうにも上手く力が入らず動けない。


ああ……そうか……。


この瞬間、僕は敗北を確信した。

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