第31話 流れ八式

僕と阿修羅君は封鎖されていたデパートの屋上へと足を踏み入れた。


封鎖されていただけあって周りには勿論誰もいない。


僕と阿修羅君はお互いに睨み合う。


「 阿修羅君、約束通り僕が勝ったら山君に謝れよ?」


「 ああ、いいぜ」


阿修羅君は余裕の表情だ。


「 僕が勝ったら山君に謝ってもらうけど、もし阿修羅君が勝ったらどうすんの? 賭けは公平じゃないとな」


僕は阿修羅君に尋ねたが……。


「 あ? 特になんもねぇよ。俺はお前をぶっ飛ばせればそれでいい」


阿修羅君はそう言った。


「 そっか。君がいいならそれでいいよ。じゃあ、そろそろ始めようか」


「 そうだな」


さっきまでとは空気が変わった。


お互いに睨み合い、出方を伺う。


最初に仕掛けたのは阿修羅君だ。


一直線に僕の元へと向かってきて、力強く拳を握った阿修羅君はその拳を僕の顔面に振りかざす。


……。


前に阿修羅君と戦って分かった事がある。


それは、まともに戦ったら勝てないという事だ。


僕は普通の不良相手なら、ほぼワンパンで倒せるくらいの実力を備えている。

しかし、阿修羅君の強さは次元が違う。


だから前みたいにまともに戦っても勝てない事は明白だ。


ならばどうすれば良いのか。


簡単な話だ。


まともに戦わなければいいだけ。


前の戦いで使おうとした技があったのだが、如月さんに止められて、その技を披露する事なく戦いが終わった。


だから今度戦う時は出し惜しみしないと決めていたのだ。


見せてやるよ……僕の本気を……。


僕は全神経を両目に研ぎ澄ます。


( 『なが八式はっしき流眼りゅうがん』!!)


僕は心の中で技の名前を呟いた。


『流れ八式』……。これは僕が長年の修行を経て独学で開発した技だ。全部で八つあり、『流眼』もそのひとつだ。


『流眼』とは、全神経を両目に集中させ、相手の動きを見切る技だ。人間には、対象をはっきりと見る中心視とぼんやり見る周辺視に分けられる。『流眼』はその二つを上手くコントロールする事で相手の動きを見切る。

かなりの集中力を使うため長時間の使用はできないのが欠点だ。


「 オラァ!!」


シュッ!


阿修羅君は拳を振りかざしたが、『流眼』を使用した僕はその拳を難なく避ける。


「 オラァオラァオラァァ!!」


シュッ! シュッ! シャッ!


阿修羅君は僕の顔面を目掛けて殴り続けるが、攻撃は一向に当たらない。


「 !? なんだてめぇ……前と随分動きが違うじゃねーか」


阿修羅君は少し驚いているようだ。


だが、驚くにはまだ早い。


今度は僕の方から仕掛ける。


『流眼』を使い阿修羅君の拳を最小限の動きで無駄なく回避した後、僕は右脚を地面から少し浮かせる。


そして……。


( 『表流閃おもてりゅうせん』!!)


僕は浮かせた右脚を勢いよく阿修羅の頬を目掛けて蹴り飛ばした。


ドガッ!!


「 ぐっ!!」


僕のつま先が阿修羅君の左頬を捉え、初めて攻撃が当たった。


『表流閃』はつま先を相手の頬目掛けて蹴り飛ばす技だ。太ももとふくらはぎに力を込め、とてつもないスピードで脚を高く上げ、頬に当たる瞬間のみつま先に神経を研ぎ澄ませる。

そしてこの時、軸足への力の込め方も工夫がいる。

かなりの技術が必要だが威力は絶大だ。


だが、僕の攻撃はこれで終わらない。


僕は『表流閃』で阿修羅君の左頬を蹴り飛ばした右脚を地面に着く直前で止めた。


そしてそのまま……。


(『裏流閃うらりゅうせん』!!)


僕は地面に着く直前で止めた右脚を、今度は阿修羅君の右頬目掛けてかかとで蹴り飛ばした。


ドゴッ!!


「 ぐはっ!!」


僕のかかとは見事に阿修羅君の右頬を捉え、阿修羅君はよろめいた。


『裏流閃』は『表流閃』とは逆で、かかとで相手を蹴り飛ばす技だ。この二つの『流閃』を連続使用する事で相手に隙を与えない。


そして何より『流閃』はそのスピードが特徴だ。


前回の戦いで僕の攻撃を軽々避けていた阿修羅君はかなりの反射神経だが、その反射神経を持ってしても『流閃』には反応できなかった。


これが『流閃』の強みだ。


僕の攻撃を喰らった阿修羅君は口が切れて出血している。


にも関わらず僕の方を見て笑った。


「 ペッ!! お前、この前戦った時は本気じゃなかったな? 面白ぇ……超面白ぇよ紫電!! お前になら俺も本気になれそうだ!! さぁ! もっと俺とやり合おうぜ!!」


分かっていたけど向こうも全然本気じゃなかったか……。


だが僕は負けない。


勝って山君に謝ってもらうぜ阿修羅銀三!


僕と阿修羅君の戦いはまだ始まったばかりだ。

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