第26話 よしよし

阿修羅君との戦いで散らばった机の整理と先生に頼まれていたプリントの貼り付け作業が終わった。


僕はタイミングを見計らってみんなに声を掛ける。


「 みんな、今日の事なんだけど……その、他の人には黙っていてくれないかな?」


阿修羅君とガッツリ喧嘩をした事がもし、他の生徒にもバレたら色々めんどそうだ。

だから、僕はみんなにお願いをした。


「 それについては大丈夫だ。俺たちからわざわざ話す事は無い。それに、転校生があの阿修羅と互角の戦いをしたなんて知れ渡ったら、色々面倒な事になるだろうしな。みんなもいいよな?」


暁君は僕の要望に答えてくれた。


そして他のみんなも暁君の言葉に賛成し、首を縦に振った。


「 みんなありがとう」


僕はみんなにお礼を言った。


「 まあでも明日から気を付けろよ? お前は阿修羅に目を付けられたんだからな」


暁君がそう言うと、一途川さんがすぐに反応した。


「 大丈夫! 紫電君は私が絶対に守るから! 紫電君! 次は私も一緒に戦わせてね!!」


「 考えておくよ……」


一途川さんは戦闘になると、包丁やスタンガンを平気で使うから大人しくしていて欲しいのが本音だ。


「 それで紫電君……私との約束覚えてるよね?」


「 や、約束ね……勿論覚えてるよ……」


そう。阿修羅君との戦いをやめてくれない一途川さんに対し、僕が一途川さんをよしよしする事で戦いを中断してもらった。


つまり、僕は今から一途川さんをよしよししなくてはならない。


一途川さんは僕の元へ歩み寄り、頭を差し出した。


「 はい。よしよしして?」


今更約束を破るわけにはいかないので、恥ずかしいがやるしかない。


僕は右手を一途川さんの頭の上に置き、優しく撫でた。


初めて触れた女性の髪。こんなにサラサラでいい匂いがするのか……。


僕がそんな事を思っていると一途川さんが喋り出す。


「 えへへ……紫電君の手のひらが私の頭を……髪を撫でてる……。最高……。もっと、もっと紫電君の手のひらの温もりを感じたい……。紫電君……もっと……もっと……」


「 はい、終わり」


「 えっ!? そんな!? もう終わり!?」


これ以上はなんか一途川さんがヤバそうだったので、僕は咄嗟に手を離した。


しかし一途川さんは納得いかないようだ。


「 紫電君! 全然足りないよ!!」


「 い、いや、もういいでしょ……」


「 よくない! 全然よくないよ! ほら! 手、出して! もっと撫でて!!」


一途川さんは僕の腕を掴み、無理矢理自分の頭を撫でさせようとする。


「 ちょ、一途川さんストップ!」


「 やだ! やめない! 撫でて〜!!」


僕と一途川さんが撫でる撫でない争いをしていると……。


「 よし、じゃれあってる2人はほっといて俺らは帰るか」


「 そうね、帰りましょうか」


暁君と金谷さんが呟いた。


そして他のみんなも教室を去ろうとする。


「 ちょ、みんな待ってよ! 助けてよ!」


僕はそう叫ぶも……。


「 お疲れした〜」

「した〜」


またしても暁君と金谷さんが呟き、教室を去っていった。


「 山君! せめて君だけは僕を置いていかないでくれ!!」


僕は叫び、山君が振り返った。


「 勿論ですよ紫電君! 僕は君の味方です! ここに残ります!」


「 邪魔」


「 ごめんなさい! やっぱ帰ります!!」


「 山く〜ん!!」


山君は一度僕のために残ってくれると言ってくれたものの、一途川さんが山君を睨みつけ、「邪魔」と言った事で怖気付いてしまったようだ。


みんなは教室を去ってしまったので、僕と一途川さんだけとなってしまった。


「 2人きりだね紫電君」


「 そうだね……」


「 じゃあお願いね!!」


一途川さんはそう言うと頭を差し出した。


……。


これはどうやら一途川さんの気が済むまで頭を撫でないと終わらないやつだな……。


僕は一途川さんの頭の上に手を置き、再び撫で始める。


「 えへへ、紫電君ありがと。お礼に私の上履き舐める?」


「 いや、大丈夫っす」


その後、僕は一途川さんの頭を1時間ほど撫でた。

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