第27話 新たなスタート
一途川さんの頭を撫で終わり、僕たちは学校を出たのだが……。
「 紫電君、この後デートしようよ!」
……。
甘いぜ一途川さん。それは想定済みだ。
あの一途川さんが、2人きりですぐ家に帰してくれる訳ない事くらい分かっている。
この後特に用事はないので一途川さんに付き合う事も可能だが、今日は色々ありすぎた。
昼休みは一途川さんに嫌われるため、自作のキショい歌を歌ったり、上履きを舐めしゃぶったりした。
さらに愛宮さんまでもが乱入して、一途川さんと愛宮さんのガチ喧嘩が始まり、放課後は阿修羅君との戦い……。
今日はもうヘトヘトだ。
だから一途川さんとのデートは本当に申し訳ないのだが断りたい。あと普通にめんどそうだし。
だが、あの一途川さんが簡単に諦めてくれる訳がない。
という事で、僕は一途川さんの誘いを断る方法を頭を撫でながら考えていた。
そして思いついた。
僕は俯き、暗い声で一途川さんに声を掛ける。
「 一途川さん、デートのお誘いありがとう。本当に行きたくて堪らないよ。でも僕はそれ以上にやらなくちゃいけない事があるんだ」
「 え? やらなくちゃいけない事?」
「 うん。それは君のために曲を作る事さ。君への想いを曲にしてまた歌いたいんだ」
どうだ一途川さん。僕の予想が正しければ君の反応は……。
「 嬉しい!! 私凄く嬉しい!! 紫電君にそんなに想ってもらえるなんて!! じゃあ私もすぐに家に帰って紫電君への溢れる想いを手紙にする!! こうしちゃいられない!! 早く家に帰らないと!!! また来週ね、紫電君!! 曲、楽しみにしてるからね!!!」
一途川さんはそう言って駆け足で帰っていった。
……。
大体予想通りだ。
何となく一途川さんの扱い方が分かってきたぞ。
一途川さんが教室を去り、僕だけになった。
そして疑問に思う。
「 また来週? あれっ……今日、金曜日じゃん……」
転校してきて一週間、色々な事がありすぎて曜日なんて忘れてしまっていた。
「 ……。疲れたし帰ろ」
僕は今日あった様々な出来事を振り返りながら家へ向かった。
土日は家でゲームやアニメを堪能し、僕の体力は回復した。
そして月曜日……。
学校に到着すると、玄関や廊下で生徒達が何やら騒ついている。
なんだろう……。
とりあえず僕は下駄箱の扉を開けた。
ドサッ。
「 は?」
下駄箱の扉を開けた瞬間、大量のラブレターが入っており、地面に散らばった。
昔の僕なら驚いていただろうが、どうせ一途川さんの仕業だ。
何事も無かったかのようにラブレターを拾い、カバンの中に詰め込んだ。
「 それにしても騒がしいな……」
すれ違う生徒はいつもより騒がしい。
だが、その答えは教室のドアを開けた瞬間に分かった。
……。
阿修羅君が席に座っている。
あの阿修羅君が登校している。
それですれ違った生徒達は騒ついていたのだ。
阿修羅君の席は窓側の一番後ろ……つまり、主人公席だ。
席に座っている阿修羅君は、机の上に肘をつき、どこか退屈そうだ。
そんな時、阿修羅君はこちらを見た。
……。
阿修羅君と目が合った……。
先週あんな事があったが、阿修羅君の反応は……。
特に反応なし。
目が合ったが、すぐに視線を逸らされた。
まあ、そっちから関わって来ないなら僕としても都合がいい。
さすがにクラス全員がいる中で戦いを吹っかけられたらまずいしな。
うん、てかそれより。
僕のロッカーと引き出しからラブレターが溢れまくっとるやん。
僕が心の中でツッコむと、一途川さんがこちらに向かってくる。
「 紫電君おはよ! この土日、ずっと紫電君への手紙を書いてたんだ!!」
「 あ、そうなんだ。ご苦労様」
僕が心無い返事をすると、右隣の愛宮さんが呟く。
「 紫電君かわいそ。こんな大量のゴミを押し付けられて」
そのセリフはやばいって愛宮さん。
そして案の定……。
「 は? ブチ殺すぞクソブス」
「 あら、クソブスが何か言ってるわね」
やばい……。また愛宮さんと一途川さんの喧嘩が始まっちゃう。
そんな時、現れたのは十六夜君だ。
「 先週、喧嘩はやめろって言っただろ? 2人ともおっぱい揉み合った仲なんだからもうちょい仲良くしようぜ? それとも今度はお互いの乳首をこねくり回しとくか?」
十六夜君はキメ顔で愛宮さんと一途川さんにそう言った。
あーあ、死んだな。
「 死ね」
「 消えろ」
ドガッ!!
「 フンヌラゴ!!」
十六夜君は愛宮さんと一途川さんの正拳突きを同時に顔面に喰らい吹っ飛んだ。
「 おはようございます紫電君。朝から賑やかですね」
「 ああ山君、おはよ」
山君も駆け寄り、この光景を見て思った。
今週も荒れそうだなと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます