第19話 十六夜天夜

愛宮さんと一途川さんが睨み合っている。


そう。今この2人はバトルの最中だ。


「 クソブスビッチ、あんたが紫電君に話し掛ける事自体不快なの。早く死んでくれない?」


「 あら、ブスでビッチはどっちかしら? あなたの方が余程、ブスでビッチだと思うけど?」


「 マジ殺す」


「 殺せるかしらね」


やばい。さらにヒートアップしてきた。


「 死ねブス!」


「 死ぬのはあなたよ」


2人は同時に走り出し、お互いに拳を握った。


まずい! お互いに思い切り殴るつもりだ!


さすがに止めないと!


僕が2人の間に割って入ろうとしたその時……。


「 2人ともストーーーーーーップ!!」

「 ちょ、十六夜君。殺されますよ!」


「 え?」


後方から声がして振り返ってみると、そこには十六夜君と山君がいた。


十六夜君が急に教室に入ってきたため、愛宮さんと一途川さんの動きが止まった。


「 なんで山君と十六夜君がここに!?」


僕は2人に声を掛けた。


「 紫電、話は後だ。今はこの2人を止める」


十六夜君はそう言うと、愛宮さんと一途川さんの元へ歩いていった。


僕はすぐそばに寄ってきてくれた山君に小声で聞いた。


「 山君、どういう事?」


山君も小声で答えた。


「 じ、実は、紫電君と一途川さんが気になって、後を付けてきたんです」


「 そうだったの!?」


「 はい。最初は僕ひとりだったんですが、なぜか十六夜君も紫電君の後を付けてたので、一緒に見てました」


十六夜君が僕の後を……。


昨日、絡みがあったから僕の事を気にかけてくれたのかな。


その点に関しては嬉しいのだが……。


「 見てたって事はつまり……」


「 はい。紫電君、歌ったりしゃぶったり大変でしたね……」


「 やっぱ見てたんだ……」


まさかあれを見られていたとは……。


まあでも見られたもんはしょうがない!

見られたのが山君と十六夜君で良かったって事にしとこう!


僕はそう思う事にした。


山君とこそこそ話していると、十六夜君が口を開いた。


「 泉菜ちゃん、奈緒ちゃん、2人とも可愛いんだから喧嘩なんてだめだよ。もし可愛い顔に傷が付いちゃったらどうするんだよ」


十六夜君は2人の喧嘩を止めに来たようだ。


だが……。


「 は? 誰あんた? 紫電君以外に可愛いとか言われてもガチでキモいんだけど。話し掛けてくんな」


「 十六夜君、私は今、一途川さんに用があるの。どいてくれない?」


2人とも十六夜君の言う事など聞かず、喧嘩は止まらないようだ。


だが、十六夜君は諦めない。


今度は2人の間に割って入り、説得を試みた。


「 2人ともやめるんだ! 女の子が殴り合いの喧嘩なんて良くない! 俺は可愛い2人に傷付いて欲しくないんだ!」


十六夜君はそう言うが……。


「 キモいっつってんだよ! どけ!」


「 十六夜君、邪魔」


十六夜君の説得は2人に届かず、2人は十六夜に殴り掛かった。


「 危ない十六夜君!」


僕は声を上げていた。


しかし……。


ガシッ!

バシッ!


「 は?」

「 え?」


十六夜君は2人のパンチをそれぞれ片方の手で軽々と受け止めた。


パンチを受け止められた2人はかなり驚いているようだ。


……。


まじか十六夜君。


あの2人のパンチはかなりの威力とスピードだ。


それを完全に見切り、軽々と受け止めるなんて……。


十六夜君の事はただの変態だと思っていたが、もしかしてかなり強いのか?


2人のパンチを受け止めた十六夜君はゆっくりと口を開いた。


「 よく聞くんだ泉菜ちゃん、奈緒ちゃん。俺は女の子が傷付く事が何よりも嫌いなんだ。女の子同士の喧嘩が何よりも嫌いなんだ。だから仲直りしよう。それで争いは終わりだ」


かっけーよ。


十六夜君、マジかっけーよ!


僕は素直にそう思った。


変態なのは間違いないが、何よりも女子を大切にするいい奴なんだ。


なんかいい雰囲気だし、このまま2人とも仲直りしてほしいな。


僕がそう思っていると、十六夜君が口を開いた。


「 じゃあ、仲直りの印に、お互いのおっぱいを揉み合おう! 女同士、おっぱいを揉み合えば絆も深まるだろうしな!」


十六夜君はそう言うと、愛宮さんと一途川さんの腕を掴み、無理矢理お互いの胸へと手を当てさせた。


……。


は?


何やってんのこいつ。


全部台無しじゃん。


めっちゃいい感じだったのに、めっちゃかっこよかったのに台無しじゃん。


やっぱただの変態じゃん。


そして十六夜君は呟いた。


「 おっぱいを 揉み合う2人 仲直り」


五・七・五で綺麗に言った。


僕はこの瞬間思った。


十六夜君、死んだな……と。


「 死ねやオラァァァァァ!!!!!」

「 ぶっ殺す!!!!!!」


案の定、愛宮さんと一途川さんがキレた。

そして2人は十六夜君の顔面を思い切り殴った。


ドゴッ!!


「 フンヌラゴッ!!」


十六夜君は綺麗に吹っ飛んだ。



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