第16話 紫電 VS 一途川 イカれた戦い

僕と一途川さんは、お昼ご飯を一緒に食べるため歩いていた。


「 紫電君! ここ! 私たちの教室がある本館じゃなくて、別館の空き教室だから全然人がいないと思うよ! ここで食べよ!」


「 う、うん。よくこんな場所知ってるね」


てか、別館とかあるのかよ。


広い中な学校……。


「 今日の朝早く来て、お昼の場所をどこにするか事前に調べておいたんだ!」


さすがは一途川さんだな。


僕と一途川さんは空き教室に入り、席に着いた。


じゃあ早速、作戦を開始するか……。


と思った矢先、一途川さんがゆっくりと口を開いた。


「 あのさ紫電君。2人きりになった事だし、ちゃんと聞いておきたいことがあったんだ。昨日はずっとそれが気になってて……」


一途川さんは、さっきまでの明るさが消え、若干声のトーンが暗く低くなった。


「 そうなの? 聞きたいことって?」


「 うん。昨日、紫電君さ、予定があるって言って急いで帰っていったよね……私から逃げるように……。その予定って……………………もしかして………………女じゃないよね?」


僕を見つめる一途川さんの瞳は、完全に光を失っており、まるで、ドス黒い闇が彼女を覆っているかのようだ。


今の一途川さんからは圧倒的なプレッシャーを感じる。


そして何より……。


怖い……。


今の一途川さんからは、圧倒的な恐怖を感じる。


だが、僕はここで折れる訳にはいかない。


僕は一途川さんの目をハッキリと見て答えた。


「 一途川さん。僕が昨日急いで帰ったのは女性関係の事だよ」


僕のその発言に、一途川さんは大きく目を見開いた。


「 は?」


その一言だけで圧倒的な圧力を感じたが、僕の作戦はここからだ。


「 まあ、女性関係といっても一途川さんの事なんだけどね」


僕がそう発言した途端、一途川さんの表情がどんどん和らいでいく。


「 え? 私関係? どういう事?」


僕はその問いに、できるだけクールに答えた。


「 昨日君を見た途端、あまりに運命を感じてね……。すぐ家に帰って君のために曲を作りたくなったんだよ」


「 えっ!? 私のために曲を!?」


一途川さんは僕の発言にかなり驚いているようだ。


「 ああ、そうだ。だから今ここで歌わせてもらうよ。君のために作った愛のソングを……」


喰らえ! 一途川奈緒!


僕は、イカれた行動その①『歌詞、リズム、メロディが意味不明な自作の曲を勝手に歌い出す』を発動した。


「 聞いてください。『運命』。

 ♪僕と君が出会ったのは運命か〜

 ♪運命に聞いてみた〜

 ♪運命は答えた〜

 ♪運命は運命と信じた時、運命が運命に変わ

  るのだと〜

 ♪運命は時に運命でなくなる事もあるけど、

  運命が運命でなくなった時、運命が運命を

  運命に変え、運命が運命を運命に進化させ

  る事で運命が運命になるのだと〜〜〜〜」


僕は自作のオリジナル曲、『運命』を歌い切った。


我ながら全く意味の分からない歌詞に加え、リズムもメロディもめちゃくちゃだ。


さあ、このイカれた行動にどう反応する、一途川奈緒! 普通の人ならまず間違いなくドン引きレベルだ!


僕は一途川さんの方を見ると、言葉が出なかった。


「 ……え? 一途川さん、泣いてるの?」


そう。一途川さんは号泣していたのだ。


「 紫電君が私のために、こんな素敵な曲を作ってくれたと思ったら感動しちゃって……。曲も素敵だけど、何より紫電君が私のために歌ってくれてる事が本当に嬉しい!」


一途川さんは泣きながらそう言った。


……。


こいつ頭大丈夫か?


なんでこんな意味不明な曲で泣けるんだよ。


イカれてるにも程がある。


イカれた行動は何パターンも用意してきたが、正直この、イカれた行動その①『歌詞、リズム、メロディが意味不明な自作の曲を勝手に歌い出す』だけで事足りると思っていた。


……。


甘かった……。


嫌われないにしろ、少しくらい微妙な空気にはなると思っていた。


甘かった……。


まさか号泣する程、感動されるなんて……。


さらに、一途川さんは驚いている僕に追い討ちをかける。


「 ねぇ、紫電君。今の曲、もう一回私のために歌ってくれない? こんな感動する曲初めてだから……」


……。


なんの拷問だよ。


もうあんな曲二度と歌いたくなかったのに……。


だが、断れる雰囲気では無いので、僕はまたしても『運命』を歌わされる事になった。


「 じゃ、じゃあもう一度、一途川さんのために歌います。聞いてください。『運命』」


僕は嫌々歌を歌う。


「 ♪僕と君が出会ったのは運命か〜」


「 ♪イエイ、イエイ、イエイ!」


ん?


「 ♪運命に聞いてみた〜」


「 ♪ウォウ、ウォウ、ウォウ!」


え?


「 ♪運命は答えた〜」


「 ♪ラーラーラー!」


なんと、僕の歌に合わせて一途川さんがノリノリで、イエイだのウォウだのフェイクを入れてきた。


……。


ここは地獄かよ。


なんだこの異様な空間は。


てか、一途川さん。


全然リズムに合ってないんだけど……。


そんな中、僕は歌う事を続ける。


「 ♪運命は運命と信じた時、運命が運命に変わ

  るのだと〜」


「 ♪フ〜ンフフ〜ン〜」


「 ♪運命は時に運命でなくなる事もあるけど、

  運命が運命でなくなった時、運命が運命を

  運命に変え、運命が運命を運命に進化させ

  る事で運命が運命になるのだと〜〜〜〜」


「 ♪イエーーーーーーーーーーイ!!」


僕は何とか歌い切る事ができた。


そして……。


「 最高の曲をありがとう! 紫電君! 大好き!!!!」


「 うん……。気にしなくていいよ……」


イカれた行動その①『歌詞、リズム、メロディが意味不明な自作の曲を勝手に歌い出す』は、一途川さんに嫌われるどころか、逆に好感度が上がってしまったようだ。


やはり、一筋縄ではいかないか……。


なら、次はあの作戦を遂行して、今度こそ嫌われてやる!!


僕は再度、一途川さんに嫌われる事を決意した。

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