第15話 狂人演技

翌日、僕は教室の前で考え込んでいた。


昨日、不良に絡まれていたところを助けた事で、狂人ランキング第4位 "超絶超愛 一途川" に惚れられてしまった。


だが問題はない。


惚れられてしまったのなら、嫌われればいいだけだ!


僕は今日、一途川さんの前でイカれた狂人のフリをして嫌われてやる!


僕は気合を入れて教室のドアを開けた。


教室に入り、まず確認したのは一途川さんだ。

一途川さんは自分の席に座っているだけで、特に変わった様子はない。


そして次に確認したのが阿修羅君だ。

昨日は学校をサボったっぽいけど今日は……。


いないか……。


阿修羅君は今日も来ていないようだ。


その後僕が席に着くと、山君が挨拶をしてくれた。


「 紫電君、おはようございます!」


「 山君、おはよう!」


僕が山君に挨拶をした瞬間、一途川さんが席を立った。


そして、僕の方を見て、こちらに歩いてくる。


「 おはよう! 王子様! 今、王子様の声がしてすぐ分かったよ! まさか同じクラスだったなんてね! これもきっと運命だね!」


!? マジか……。


大きな声を出したつもりはないけど、僕の声に反応したって訳か……。


だが、こんな事で驚いていられない。


「 おはよう、一途川さん」


僕はとりあえず挨拶を返した。


すると、一途川さんは自分の席に戻り、大きな紙袋を手にして戻ってきた。


「 これあげる! 王子様! 」


僕は大きな紙袋を貰った。


「 なにこれ?」


「 これはね、私から王子様への愛のラブレター。昨日、あなたへの愛が抑えきれなくて、手紙にしたんだ〜。とりあえずA4サイズの原稿用紙1000枚くらいで簡潔にまとめといたから、ちゃんと読んでね? あと、手紙書いてる時にあなたの名前がわからなかったから、名前教えて?」


とりあえず僕は自己紹介をした。


「 僕は紫電伊吹。この前この学校に転校してきたばかりなんだ。よろしくね」


「 転校生だったんだ〜! よろしくね!」


平静を装い自己紹介したが、正直内心ビビっていた。


いきなりA4サイズの原稿用紙1000枚分のラブレターを貰うとは……。


「 じゃあもうすぐ朝のホームルームの時間だし、また後でね!」


一途川さんはそう言うと、自分の席に戻っていった。


僕と一途川さんのやり取りを見ていた周りの生徒たちから声が上がる。


「 次のターゲットは転校生か……」

「 可哀想に……」

「 あいつももう終わりだな……」


そんな声が聞こえてくる。


そして山君からも。


「 ど、どういう事ですか紫電君! あの "超絶超愛 一途川" に惚れられてるじゃないですか! 何があったんですか!」


山君はかなり慌てている様子だ。


「 実は昨日ちょっと色々あって」


「 色々ってなんですか!? この先どうするんですか!」


「 大丈夫だよ山君。僕には秘策があるんだ……」


「 ……秘策?」


慌てふためいている山君に僕の計画を話した。


「 いいか山君。惚れられたなら嫌われればいいんだよ!」


「 な、なるほど……。ですが、相手はあの一途川さんですよ? 惚れた相手には超一途な彼女が、惚れた相手をそう簡単に嫌うでしょうか?」


「 確かにな……。でも、度が過ぎたイカれ行為を繰り返していれば、いつか必ず彼女の気も変わるはずだ。僕は逃げずに一途川さんに立ち向かう!」


僕の言葉に山君は感動しているようだ。


「 さ、さすが紫電君! 愛宮さんだけでなく、一途川さんにまで立ち向かうなんて! 僕は、一途川さんにもし惚れられたら、危害を加えられる未来しか無いのだと思ってました!」


僕は山君のその発言に、少し引っ掛かった。


「 危害? 前に一途川さんに刺された男子生徒みたいにか?」


「 ええ。それもそうですけど、そもそも疑問に思いませんか? 惚れた相手には超一途な一途川さんが、これまで何人もの男性に惚れているという矛盾について……」


「 た、確かに……言われてみればそうだ……」


「 一途川さんの嫉妬が一定以上に達すると、愛は憎しみへと変わり、最終的に惚れた相手に危害を加える事で、その人への愛情は無くなるそうです」


「 まじか……」


前例もあるし、愛が憎しみへと変わった瞬間、包丁で刺されたりしてしまうのか……。


恐ろしいな……。


だが、そんな事にはならない。


僕には完璧な作戦があるからな。


「 気をつけて下さいね、紫電君……」


「 うん、ありがとう」


山君は不安げな表情で僕を心配してくれた。


その後、朝のホームルームが終わり、一限目が始まる前の休み時間になると……。


「 紫電く〜ん! お話ししよ〜!」


一途川さんがやってくる。


僕たちは他愛もない世間話をした後、一限目を迎えた。


そして一限目が終わり、休み時間になると……。


「 紫電く〜ん! お話ししよ〜!」


一途川さんがやってくる。


そして、その後も休み時間になる度に僕に話し掛けてきた。


そして気付けば昼休み……。


「 紫電く〜ん! 紫電君のためにお弁当作ってきたから一緒に食べよ〜!」


お弁当まで用意していたのか。


「 折角のお昼休みだから、人気の少ない所でのんびり食べよ〜!」


「 わ、分かった」


僕は一途川さんについて行く。


…………。


よし! このお昼休みが勝負だ!!


僕が昨晩、練りに練った狂人演技大作戦を実行する!!


僕は気合いを入れた。


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