第14話 超絶超愛 一途川
今、僕の目の前には、狂人ランキング第4位の "超絶超愛 一途川" がいる。
不良に絡まれていた一途川さんを助けた事で、彼女に惚れられてしまった。
一途川さんは数ヶ月前、愛していた男性への嫉妬から、その男性を包丁で刺し、精神病院に隔離されていた狂人だ。
そんな狂人に惚れられた僕は、ただただ絶望していた。
一途川さんは僕の方を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「 助けてくれてありがとね。あ、でもあなたは私の王子様だから私を助けるのは当然なのか……。とりあえず自己紹介しよ? 私は一途川奈緒。あなたの運命の人で、あなたのお姫様。それで、あなたのお名前は? その制服、黒月高校の制服だよね? 私も同じ黒月高校の生徒なんだ〜。しかもネクタイの色が赤色って事は、私と同じ二年生だよね? 確か一年生は青色で、三年生は緑色だったよね! 私、今までなんかよく分からない病院にいて、学校の事とかうろ覚えなんだ〜。あ、そんな事よりさ、趣味とかあるの? 私はこれといった趣味はないんだけど、好きな人とずっと一緒にいられたら何でも楽しいかな! あとさ、最初のデートはどこがいいかな? 遊園地とか水族館もいいんだけど、私的には最初はオシャレなカフェとか行ってお互いの事について詳しく話し合いたいかな。あ、でもね、別にこれは私の個人的な意見だから、もちろんあなたの意見もちゃんと聞くよ! だってこの先、一生一緒に過ごしていくってなると私の一方的な意見だけじゃだめだもんね! 将来の事はやっぱり2人で考えないとね。将来の事っていったら、子供は最低3人は欲しいよね。男の子が2人、女の子が1人。2人の男の子はお兄ちゃんでね、妹を守ってくれるんだ〜。あなたと私の子供だからきっとすっごく可愛いしかっこいいと思うんだ〜。おっと、いけないいけない。子供が産まれる前にちゃんと2人だけの時間も欲しいから小さなアパートに住んで毎日愛を育みたいな。それであとはね」
「 ぼ、僕、今日この後予定あるからまた今度ね! バイバイ!」
「 あ、ちょっと待ってよ! 私の王子様!」
僕は適当に理由をつけて、その場をダッシュで離れた。
…………。
これはなんだ?
なんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんなんだよ!
後ろを振り向くと、背後からは一途川さんが追いかけてきている。
ま、まずい……。
全速力……全速力で家に帰るんだ。
……いや待て。追いかけられてるし別ルートを行って撒くべきだ!
このまま適当な道を駆け抜けて、できるだけ自宅から離れよう。
一途川さんに僕の家を知られる事だけは絶対に避けなければならない。
僕はただガムシャラに走り続けた。
日頃から鍛えていたから、自分で言うのもなんだけど、足の速さとスタミナにはかなり自信がある。
背後を振り向くと、もう一途川さんの姿は見えない。
だがまだだ。
できるだけ遠くへ逃げるんだ。
凄い大回りして家に帰るんだ。
僕は、ひたすらに走り続け、なんとか大回りして自宅へと帰還した。
「 はぁはぁはぁ……。結構疲れたな……」
自宅へ帰ると、僕はすぐにシャワーを浴びる。
「 一途川さん……マジでヤバすぎだろ……。いきなり訳の分からない話を1人で延々と話してたし、完全に目もイっちゃってた……。僕はとんでもなくヤバい奴に関わってしまった……」
僕はシャワーを浴びながら、一途川さんの事を考えていた。
「 一途川さんと僕は同じクラスだけど、一度も話さなかったし、向こうは僕の事を知らなかった。せめて一途川さんと違うクラスなら……いや、一途川さんの事だし、学校中を探して僕の事を見つけるだろう……。明日学校に行ったら、間違いなく一途川さんは僕に絡みに来るだろう。同じクラスだし、今後僕はどうしたらいいんだ……」
いくら考えても打開策は思いつかない。
「 くそっ! 僕は愛宮さんを惚れさせて本当の告白をさせる事が目標だったのに、一途川さんに惚れられてどうすんだよ! 明日、学校に行った時点で詰みじゃないか! ……いっその事、不登校になるか?」
学校に行ったら詰みなので、僕は不登校になる事すらも検討し始めた。
だがそんな時……。
「 いや……待てよ? 確かに僕は一途川さんに惚れられたが、何とかして嫌われるってのはどうだ? 一途川さんの僕への愛さえ消えてくれればそれでいいんだ。山君は一途川さんの事を、惚れた相手には凄い一途と言っていたが、僕がめちゃくちゃな言動を発し、めちゃくちゃな行動をすれば、いくら一途川さんでも僕への愛は冷めるのでは?」
僕は思い付いてしまったのだ……。
狂人ランキング第4位、 "超絶超愛 一途川" の攻略法を……。
「 はは……完璧だ……。僕の作戦は完全に完璧だ……」
僕は思わず笑みが溢れてしまった。
とりあえず明日の朝、山君に相談しよう。
そして一途川さんの前で、ゴミでカスで気持ち悪くて、バカでアホで意味不明な狂人を演じるんだ。
そうすればきっと、一途川さんは僕の事を嫌いになる!
見てろよ、一途川奈緒。
僕が明日、君の愛を完全に打ち砕いてやる!
僕はそう決心したのだった。
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