第13話 一途川奈緒の王子様

金谷さんにボコボコにされた僕と十六夜君は屋上を離れる。


「 俺は絶対諦めないぞ!! 絶対に琴葉ちゃんのパイオツで乳首こねくりフェスティバルをするまで諦めない!!!」


「 多分次は確実に殺されるからやめた方がいいよ?」


十六夜君が訳の分からないことを言っているし、まだ諦めていないようだ。


「 なあ紫電。俺、琴葉ちゃんのおっぱい揉めなかったから、これからエロ本立ち読みしに行くんだけど、お前も一緒に行かね?」


「 えっと、遠慮しておくよ……」


「 そっか残念〜。じゃあまた明日な!」


十六夜君は駆け足で帰っていった。


てか、どんな理由でエロ本立ち読みしに行くんだよ。めちゃくちゃだな。


十六夜君らしいけど……。


それはそうと僕も帰ろう。


僕は学校を去り、自宅へと向かった。


帰り道、僕は今日の出来事を振り返りながら歩いていた。


今日の朝、問題視していた2人の人物。

1人目は狂人ランキング第4位の "超絶超愛 一途川" 。彼女は普通に学校に来ていたが、特に変わった様子はなかった。


そして2人目は、狂人ランキング第3位の "災厄の阿修羅" 。彼に至っては学校にすら来ていなかったため、何の情報も得られなかった。


そんな2人を警戒していたのだが、新たな狂人がもう1人。十六夜君だ。

十六夜君は、悪い人ではなさそうだけれど、ちょっとデリカシーがない。いや、だいぶデリカシーがない。


そういえば、十六夜君も結構狂人だと思うんだけど、狂人ランキングには入ってるのかな?

明日、山君に聞いてみよ。


こんな感じで今日あった出来事を振り返っていたのだが……。


ん? なんだあれは? なんかやばそうだ!


突如、僕の視界に入ったのは、黒月高校の制服を着た女子生徒が、大柄な男に腕を掴まれ、無理矢理路地裏の方へ連れて行かれる姿だった。


そして、大柄な男の後ろに3人の男性がいた。


一瞬だったので、女子生徒の顔はハッキリ見えなかったが、肩まである長い髪が見えたため女子と認識できた。


女子相手に男4人かよ……。


クズ野郎共め!!!


悪人は僕がぶっ潰して、いたぶって、二度と悪さできないように調教してやる!


僕は男たちを追いかけ、路地裏に入った。

路地裏に入るなり、男たちの声が聞こえてくる。


「 ねーねー、ちょっとくらい良いじゃん! 俺らと遊ぼうよー」

「 つーか君めちゃくちゃ可愛いね?」

「 胸でけーー!! 最高かよ!!」

「 少しくらい触ってもいいよな? なぁ、触らせてくれよ」


ゴミ共が! 潰してやる!!


僕は男たちに声を掛けた。


「 おい。何やってんだてめーら。女子1人に男4人とか恥ずかしくねーのかよゴミが。ゴミは黙ってゴミ箱にでも入ってろよ」


男たちは僕の方を振り向き、反応した。


「 あ? 誰だてめー」

「 今なんつった? 殺されてーのか?」

「 陰キャ野郎が……ぶっ殺してやる!」

「 カッコつけてんじゃねーよ!!」


男たちが僕の方に歩み寄ってくる。全員目つきが悪く、僕よりも身体は大きい。金髪や赤髪に大量のピアス……。典型的な不良だな。


男4人のうち、1人が僕に殴り掛かってきた。


「 オラァァァ!!」


男性はすごい気迫だ。


だが、気迫だけじゃ喧嘩は勝てない。


僕は男性のパンチを軽やかに避け、腹部を思い切り殴った。


ドンッ!!


「 がはっ!」


男性は気絶して倒れた。


まあ、こんなもんか。


僕がそう思っていると、残りの男たち3人が一斉に襲い掛かってきた。


「 舐めてんじゃねー!!」

「 殺してやる!!」

「 死ねぇー!!」


どいつもこいつも動きが単調で読みやすい。


まずは1人目のパンチを避け、顎に一撃。


「 あぐっ!」


顎を殴られた男性は気絶した。


次に2人目のパンチを受け止め、ローキックで男性の左ふくらはぎを思い切り蹴った。


ドシッ!!


「 ぐわっ!!」


ローキックを喰らった男性は膝をついた。

そして、僕の腰下まで下がった顔面を思い切り蹴飛ばした。


ドゴッ!!


「 ぶはっ!!」


男性は吹っ飛び気絶した。


あとは最後の1人のパンチを避け、飛び膝蹴りを顔面に喰らわした。


バゴッ!!


「 がはっ!!」


これで男たちは全員気絶。


あっけなかったな……。


おっと、それよりこいつらに捕まってた女子生徒は。


女子……生徒……は……。


あ……れ……?


僕の目の前にいた女子生徒は、一途川さんだった。


そう。狂人ランキング第4位の "超絶超愛 一途川" だ。


男たちを倒すのに夢中で、捕まってた女子生徒の顔を見ていなかった。


これは完全に迂闊だった。


まさか、助けた相手が一途川さんだったなんて……。


一途川さんは、メンヘラとヤンデレの両方を兼ね備えた、超絶超愛の狂人。


もしこれがきっかけで惚れられでもしたら……。


いや、まだ大丈夫なはずだ。


僕はただ、同じクラスの女子生徒を不良たちから守っただけ。


これがよくある異世界転生系のアニメとかだったら、チート能力を手にした主人公が悪人に襲われているチョロいヒロイン、通称チョロインを助け、恋に落ちるのだろうが、これは現実だ。


一途川さんはチョロインなんかじゃないよな。


僕はとりあえず一途川さんに声を掛けた。


「 あ、あの、大丈夫?」


話し掛けたのだが、一途川さんはどこか遠くを見つめているようだった。


そして、どこか遠くを見つめている一途川さんは、ゆっくりと口を開いた。


「 ああ、これはきっと運命……。あなたは、私の王子様……。私とあなたは今日ここで出会う運命だったんだわ……」


一途川さん……なんだか目がイっちゃってる……。


「 私はあなたを一生愛する事を誓うわ……。だからあなたも私を愛して? 私だけの王子様……」


やばい……。


これは完全に惚れられてしまった。


僕はこれからどうしたらいい?


誰か教えてくれ。


僕は空を見上げ、絶望した。

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