第9話 狂人ランキング 3位と4位

愛宮さんの「 きっしょ」という発言の後、微妙な空気になってしまった。


僕は心にヒビが入る程度のダメージだが、山君はあまりのショックに放心状態……。


そんな空気を打ち消すためか、はたまた何も考えていないのか分からないが、桃園さんが突然話題を変えた。


「 そういえば、明日だよね! 阿修羅あしゅらお兄ちゃんと一途川いちずがわお姉ちゃんが帰ってくるの! 2人とも同じ日に帰ってくるなんて嬉しいな〜」


「 誰それ? それに、帰ってくる?」


僕は転校生だしその2人を知らないから何となく聞き返したのだが……。


「 そ、そんな……。あの2人が帰ってくる……? しかも2人とも明日、同じ日だなんて……」


山君の表情は今まで見た事ないほどに怯えていた。


「 山君、大丈夫? 凄い怯えてるけどそんなヤバい奴らなの?」


僕の問いかけに、山君はゆっくりと答えた。


阿修羅銀三あしゅらぎんぞう……。一途川奈緒いちずがわなお……。狂人ランキング第3位と第4位のイカれた奴らですよ……」


!?


「 狂人ランキング第3位と第4位!? それってつまり……」


「 はい。今、紫電君の目の前にいる、あの "告白中毒のイズナ" よりランキングは上です!!」


山君は真剣な表情でハッキリと言った。


そう、ハッキリと……。


愛宮さん本人の前で。


それを聞いた愛宮さんは、真顔で山君に問い詰める。


「 あのさ山君。私は狂人ランキングの事も、私が告白中毒って呼ばれてる事も当然知ってる。でもさ、普通それを本人の前で言う? ほんと最低だよ山君。桜花、もう帰ろ」


「 あ、ちょっと! イズナお姉ちゃん」


愛宮さんは怒ってしまい、桃園さんの手を無理矢理引っ張って帰ってしまった。


「 ……」


「 ……」


少しの沈黙の後。


「 今のは山君が悪い」


「 ですよね!!」


どうやら山君も自分の失言を理解していたようだ。


「 狂人ランキングの話になって、つい愛宮さんの前で口走ってしまいました……」


山君は一応反省しているようだ。


「 明日、愛宮さんに謝ったほうがいいかもね」


「 そうします……」


山君は目に少し涙を浮かべながら答えた。


「 とりあえずその件は愛宮さんに謝るとして、さっきの話の続きを聞いてもいい?」


「 そうでしたね! それじゃあ順番に説明していきます!」


山君切り替え早いな……。


「 まずは一途川さんから紹介します。本名、一途川奈緒。通称 "超絶超愛ちょうぜつちょうあい 一途川" です。狂人ランキング第4位で、狂力は8500です」


「 狂力8500……バケモンかよ……。それで、具体的にどんな奴なんだ?」


「 一途川さんは、メンヘラとヤンデレを両方兼ね備えた狂人です……」


「 メンヘラとヤンデレ……」


「 そうです。見た目は黒髪に桃色のメッシュが入った、地雷ギャルみたいな見た目です。そして何よりの特徴が、両腕です」


「 両腕?」


「 はい。一途川さんの両腕には無数のリスカした跡があり、それを隠すために包帯で覆っているんです」


「 まじかよ……」


「 はい……。見た目はかなりの美少女なんですが、中身が異常です。好きになった相手への重度な愛情表現、ストーカー行為、嫉妬、独占欲……。そして好きな相手に自分への愛情表現を強制し、好きな相手から好かれているという自分にすら酔いしれる……。彼女の愛はもはや狂気の域です……」


「 なかなかヤバそうだな……」


「 そうです。そして、そんな異常なまでの "愛" を持っている彼女につけられた異名が "超絶超愛" なんです……」


「 ……」


" 超絶超愛 一途川" か……。

話を聞く限りだと、確かにヤバそうだ。


「 そして、一途川さんの恐ろしさはこんなものではありません」


「 まだ何かあるの?」


山君は話を続ける。


「 はい……。先程、我らが妹の桜花は一途川さんが "帰ってくる" と言っていたのを覚えてますか?」


「 そうだな……。そこは僕も引っかかっていたんだよ。どういう事だ?」


「 一途川さんは今まで精神病院に隔離されていたんです」


「 は? なんで?」


「 人を……刺したんです……」


「 !?」


僕は驚いて言葉が出なかった。


人を刺した? 一体どんな理由があったらそんな事になるんだ。


「 山君……。人を刺したって……なんで……」


僕の問いかけに山君はゆっくりと口を開いた。


「 一途川さんが人を刺したのは、1年生の終わり……春休みが始まるほんの少し前でした。刺されたのは同じクラスメイトの男子生徒……」


「 同じクラスの男子を刺したのか?」


「 はい。一途川さんは刺した男子生徒に一方的な好意を抱いていて、度重なるストーカー行為を繰り返していたそうです。何度も告白していたそうですが、男子生徒は一途川さんの愛があまりに重すぎたため告白を断っていました。そんなある日、男子生徒は教室で同じクラスの他の女子とただの雑談をしていたのですが、一途川さんには凄く楽しそうに見えたらしく、それに嫉妬して自分のものにならないのならと、カバンから包丁を取り出しその男子生徒を」


「 ちょ! ちょっと待った! なんだよその話! ヤバすぎるだろ!」


「 はい。先程から一途川さんはヤバいと話しているじゃないですか」


「 そ、そうだけど! まさかここまでとは……。教室で女子と雑談していただけで刺すとかめちゃくちゃだろ! てかその前に、なんでカバンの中に包丁入ってるんだよ!」


「 一途川さんからしたら、自分以外の女子と話す事は、刺されるに値する行為という事なんでしょうか? まあ、僕は一途川さんじゃないので分かりませんが……。包丁に関しては、護身用または愛する人を守るために常に持ち歩いていたという噂です」


「 めちゃくちゃすぎる……」


ハッキリ言って舐めていた。


まさかここまでヤバいとは……。


愛宮さんより狂人ランキングが上な理由も理解できる。


一途川さんのとんでもないエピソードに僕は驚愕していた。


「 事件の後、一途川さんは精神病院に隔離されたのですが、桜花の話によると明日帰ってくる……」


「 そんなヤバい奴がこの学校に……。何組なんだ?」


僕の問いかけに、山君は僕の目をハッキリと見た。


「 紫電君はまだ転校してきて数日ですから、クラスの事はあまり知らないですよね。覚えてますか? 僕たちのクラスには空いている席が2つある事を……」


「 まさか……」


「 はい。僕たちと同じクラスです」


「 マジかよ……」


そんなヤバイ奴と同じクラスなんてどうなっちまうんだよ。


「 できるだけ関わらない方がいいよな……」


僕の呟きに山君も頷く。


「 その通りです。こちらから関わる事は避けた方がいいでしょう。万が一、惚れられでもしたら取り返しがつきませんからね」


山君の、その発言にふと思った。


「 惚れられる……か……。話を聞く限りだとマジの狂人だけど、そもそも惚れられなければいいのか……。なら、僕ら陰キャならよっぽど大丈夫じゃないか?」


僕の発言に山君はハッとなる。


「 た、確かに……。よくよく考えてみたら僕たち陰キャを好きになる人なんてそうそういませんよね……」


「 自分で言ってて悲しいけどそうだよな! なんかちょっと安心した!」


「 僕、初めて陰キャで良かったと思いました」


僕たちは心の底から安堵した。


「 それなら、とりあえず一途川さんは大丈夫そうだな。もう1人の阿修羅って奴について教えてくれる?」


「 はい」


山君は阿修羅銀三について話し始めた。

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