第8話 愛宮泉菜の過去

カラオケ店内でバッタリ会ってしまった僕と愛宮さん、そして桃園さん。


真っ先に口を開いたのは桃園さんだった。


「 伊吹お兄ちゃんもカラオケに来てたんだ! 私もイズナお姉ちゃんと一緒にカラオケ来てたんだ〜〜」


「 そ、そうなんだ」


「 グラスを2つ持ってるって事は、伊吹お兄ちゃんも誰かと一緒に来てるんだよね? せっかくだからみんなで一緒に歌おうよ!」


桃園さんは満面の笑みで提案した。


「 えっ」


というわけで……。


「 まさか我が妹、桜花も来てたなんて!」


「 優吾お兄ちゃんと会えるなんて私も嬉しい!」


僕たち4人は一緒に遊ぶ事になった。

愛宮さんはあまり乗り気ではなかったが、桃園さんのゴリ押しで決定した。


てか、山君と桃園さんテンション高すぎだろ。


僕はテンションの高い2人を見ていると、愛宮さんが突然声を掛けてきた。


「 あ、あの……紫電君。2人きりで話したい事があるから、少しだけ時間いいかな?」


「 は?」


愛宮さんの表情は、どこか恥ずかしそうで頬も少し赤い。


まさかこれは……。


僕と愛宮さんは個室から抜け出し、廊下に出る。


そして愛宮さんが僕の目を見つめ、あのセリフが……。


「 し、紫電君……。私、あなたの事が大好きなの! 私と付き合ってください!」


やはり告白か……。


だが、それにしてもさすがは "告白中毒のイズナ" 。今日の朝、僕に対して陰キャがクマのストラップを付けるなとかいう暴言を吐いたにも関わらず、頬を赤らめて告白してくる。

しかもここはカラオケ店の廊下だ。


どこでもお構いなしだな。

てかどんな気持ちで告ってんだよ。

逆に尊敬するわ!


とまあ、感心している場合ではない。


ここでこの告白を受け入れたら、暴力を振るわれるだけだ。


今朝の事もあるし、変な答えをして刺激しない方がいいだろう。


答えは決まっている……。


「 愛宮さん、ごめん。僕、君とは付き合えないんだ……」


僕は愛宮さんを振った。


「 そっか……」


愛宮さんは一瞬悲しげな表情を見せるも……。


「 イヒヒ……アヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……」


両手を頬に当て、不気味な笑みを浮かべ、とても気持ち良さそうに笑い出した。


完全にイっちゃってる……。


快感に浸っている愛宮さんを邪魔したら後が怖いので、僕は個室へと戻った。


個室に戻った直後、山君に話し掛けられる。


「 紫電君、大丈夫でした? 告白されたんですか?」


「 うん。告白されたけどちゃんと断ったから大丈夫。愛宮さんは今、快感タイムだよ」


「 そっか……。とりあえず紫電君が無事で良かったです……。君の事だから変な事言って、愛宮さんを怒らせないか心配だったんですよ……」


山君は少し安堵した表情で呟いた。


僕と山君が会話をしていると、桃園さんはどこか寂しそうな表情を浮かべながら呟いた。


「 イズナお姉ちゃん、昔はあんなんじゃなかったのに……あの日からずっとあんな調子……」


桃園さんの発言に僕はすかさず反応した。


「 え? 桃園さん、愛宮さんの過去を何か知ってるの?」


「 うん……。私とイズナお姉ちゃんは小学校も中学校も同じだったし、家も近くで昔から仲良かったんだよ……」


「 そうだったの!?」


まさか愛宮さんと桃園さんが仲良しだったなんて……。


それにさっきの桃園さんの発言から、愛宮さんの秘密を何か知っているに違いない。


これはチャンスだ!


「 桃園さん、その……。良かったら愛宮さんが過去に何があってあんな風になってしまったか教えてくれないかな?」


僕の問いかけに桃園さんは首を横に振った。


「 これはイズナお姉ちゃんのプライバシーに関することだし、いくら伊吹お兄ちゃんでもおいそれとは言えないの……。ごめんね」


残念ながら断られてしまった。

まあ、そう簡単には話してくれないか……。


愛宮さんの事について話していると、快感タイムが終了した愛宮さん本人が戻ってきた。


戻ってきた愛宮さんはソファに座り、黙って僕のカバンを見つめていた。


その視線の先にあるものは……。


「 あ、あの、愛宮さん……。さっきからずっとクマのストラップを見てるけど、やっぱり怒ってる?」


僕の問いかけに愛宮さんは真顔で答える。


「 ええ、かなり怒ってるわ。クマさんが可哀想でならない。紫電君、本当にあなた気持ち悪いわよ」


僕の心にかなりのダメージが入った。


今朝言われた傷がまだ完治していないのに……。


「 えー、可愛いじゃん! このクマさんのストラップもこれを付けてる伊吹お兄ちゃんも!」


ああ……。僕を肯定してくれるのは君だけだよマイシスター。


愛宮さんや金谷さんにはひどい言われようだったが、桃園さんだけは僕の事を肯定してくれた。


さすがはみんなの妹だ。


そんな桃園さんの発言を聞いた山君はすかさず反応し、昨日僕と一緒に買ったクマのストラップをカバンから取り出した。


「 実は僕も同じストラップを持っているんだよ! どうだ桜花? 可愛いだろ?」


「 うん! 優吾お兄ちゃんも可愛い!!」


「 僕は今幸せだーーー!!! 桜花! このストラップを君にプレゼントしよう!!」


「 やったー!! ありがとう!!」


山君と桃園さんは、また訳の分からないやり取りをしている。


てか、山君も狂人ランキング入れるんじゃないの?


僕はそう思った。


2人のやり取りを横目に見ていた愛宮さんが口を開く。


「 山君も持ってるんだそれ……。きっしょ……。てか、なんであなた達同じストラップ持ってるわけ?」


おっと。答えにくい質問が飛んできた。


昨日、愛宮さんとお近づきになるために可愛いもので取り入ろうとしたなんて事は言えない。


ならばこう答えるしかない。


「 僕と山君は可愛いものが大好きなんだ!」


「 きっしょ」


愛宮さんは僕たちの事を、ゴミを見るような目で呟いたのだった。


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