第7話 放課後のカラオケ

ストラップ大作戦が失敗に終わった日の放課後。


「 紫電君! 今日も張り切って愛宮さんの弱点を探しましょう!」


「 えー。今日もやんの? 正直今日はストラップ大作戦の失敗で心にダメージを負ったから、家に帰って傷を癒したいんだけどな……」


「 そう言わないで下さいよ! さあ! 行きましょう!」


山君はなぜか、すごい乗り気でテンションが高い。


「 山君、なんでそんなにやる気なの?」


僕は何気ない質問をしたつもりだったが、山君は少し微笑んでゆっくりと口を開いた。


「 楽しいんですよ。紫電君と……友達と何かをするのが……」


「 え?」


「 僕は今まで友達ができた事なかったんです……。学校ではいつも1人で、何をするにも楽しくなかったし、退屈でした……。このままじゃいけないと思っていたんですけど、今更誰かに話し掛ける勇気もありませんでした。そんな時、紫電君が転校してきたんです。転校してきた紫電君はまだこの学校に友達はいない……。これはチャンスと思い、勇気を振り絞って君に声を掛けたんです……。友達がいない君の……1番最初の友達になりたかったんです」


山君は照れ臭そうに笑って話を続けた。


「 紫電君と……友達と何かをするのが楽しいんです……。それが例え愛宮さんの弱点探しだとしても、友達と一緒に何かをする事が本当に楽しいんです! だから僕と一緒に愛宮さんの弱点探しをして下さい!」


山君は満面の笑みで僕にそう言った。


……。


僕はこの学校で友達が1人しかいない。

それは今目の前にいる山君だ。


僕は山君の話を聞いて、この人がこの学校で1番最初の友達で本当に良かったと思った。


心の底から思った。


思ったのだが……。


「 山君、ありがとう。僕も君が1番最初の友達で本当に良かったと思っているよ。でも……」


「 でも……?」


「 友達と一緒に何かをするんなら、愛宮さんの弱点探しとか訳分かんない事じゃなくて、普通にファミレス行ったりカラオケで歌ったりした方が楽しいんじゃない?」


「 …………はっ!!!」


山君はとても驚いた表情で固まってしまった。


「 そんなに驚かなくても……。てか山君、今気付いたって感じ?」


「 そ、そうですね……。で、でもこれは紫電君が悪いんです! 紫電君が愛宮さんを惚れさせたいって言うから、僕は友達の為にですね」


「 分かった分かった、僕が悪かったよ。それで、今日も愛宮さんの弱点探しする?」


僕の問いかけに山君は首を横に振った。


「 いいえ! 今日はカラオケにでも行きましょう!」


「 分かったよ。僕も歌を歌って、ストラップ大作戦失敗の傷でも癒すとするかな」


僕たちはカラオケ店へと向かった。


この街は、前いた地元と違って多くのお店があり、遊ぶ場所には困らなさそうだ。


カラオケ店に着いて早々、山君が口を開いた。


「 じ、実は僕、カラオケ来るの初めてなんですよね〜」


なんだ、山君はカラオケに来た事がないのか。


なるほど……。


「 僕と同じだな」


僕はそう答えた。


「 え? 紫電君も来た事ないんですか?」


「 そうだよ。だって僕も山君と同じで、今まで友達なんてできた事なかったし」


「 そ、そうですか……。なんだか僕たち悲しいですね……」


カラオケ店を前にして、少し暗い空気になってしまった。


だが、そんな暗い空気を打ち消すかの如く、山君が大声を上げた。


「 紫電君! せっかくカラオケに来たんですから過去の事なんて忘れて元気出しましょう! 昔はともかく、今はお互い目の前に友達がいるんですし!」


「 そ、それもそうだな」


山君のおかげで元気が出てきた。


「 よし! じゃあ紫電君! 中に入りましょう!」


僕たちはカラオケ店へと足を踏み入れた。


僕たちはカウンターで受付を済ませ、個室へと入る。


「 凄い……。大きい画面にオシャレな個室! ドリンクバーもついてて食事もできるし最高の空間じゃないですか!」


山君は初めてのカラオケでテンションが高い。


僕たちはまずドリンクバーへ行き、それぞれ飲み物を確保した。


そして個室へ戻ると早速……。


「 紫電君! 歌いましょう!」


「 そうだな!」


まずは山君が曲を入力する。

入力した曲はアニソンだ。


山君はアニソンを歌い終え、次は僕の番。

入力した曲はアニソンだ。


僕はアニソンを歌い終え、次は山君の番。

入力した曲はアニソンだ。


山君はアニソンを歌い終え、次は僕の番。

入力した曲はアニソンだ。


とまあ、アニソンの無限ループが始まった。


陰キャ2人がカラオケに行ったらこんなものだろう。


それから何曲か歌い……。


「 山君、ドリンクバーのおかわりに行くけど何がいい?」


「 オレンジジュースで!」


僕は山君のグラスと自分のグラスを持ち、ドリンクバーへと向かう。


「 オレンジジュースっと……」


僕は山君に頼まれたオレンジジュースをグラスに注いでいた。


すると突然……。


「 え? 紫電君?」


背後から声を掛けられた。


この声は……。


後ろを振り向くと、そこには愛宮さんがいた。


それだけじゃない。


「 あ! 伊吹お兄ちゃんだ!!」


愛宮さんの隣には桃園さんもいたのだ。


今、僕の目の前には、狂人ランキング第5位 "告白中毒のイズナ" と狂人ランキング第7位 "妹改革の桜花" がいる。


面倒な事にならないといいなー。


僕はそう願うのだった。

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