第4話 妹降臨

圧倒的狂気を身に纏った愛宮さんが襲ってきた。


どうする……?


相手は女だし殴るわけにはいかない。

攻撃を避けたり防ぐくらいなら大丈夫か?


昨日の山君の話によると、愛宮さんは腕に自信のある不良相手にも一方的にボコってしまう程の強さを持っているらしい。


昨日はいきなりの事すぎたし、訳がわからず困惑していたから、一方的に攻撃を喰らった。


しかし僕は今まで何人もの不良と戦っているし、普通に戦えば愛宮さんに勝てないとしても良い勝負になるはずだ。


どうする……? 戦うか?


僕がどうするか考えていたその時……。


「 やーっと見つけた! 私のお兄ちゃん!」


急に話し掛けてきたのは桃色の髪をツインテールにした、これまた美少女だ。


その場にいた全員がその声に反応し、動きが止まった。


「 伊吹お兄ちゃんだよね? 私、桃園桜花ももぞのおうか! 1年2組なんだ〜。よろしくね! お兄ちゃん!」


「 は……? お兄ちゃん? どういう事?」


いきなり見知らぬ美少女からお兄ちゃんと言われた。


どういう事だ?


まさか僕に生き別れの妹がいたのか?


そんな事を思っていると、桃園さんは愛宮さんの方へ視線を向けた。


「 それとイズナお姉ちゃん! 今、伊吹お兄ちゃんのこと襲おうとしてたでしょ! 暴力はだめだよ!」


桃園さんは愛宮さんを注意した。


あの愛宮さんに説教だと!?

この子凄いな……。


僕が感心していると、愛宮さんが口を開いた。


「 分かったよ桃園さん。じゃあね」


愛宮さんはそう言い、この場を去った。


あの狂乱モードに突入した愛宮さんを説得させた!?


桃園さんは一体何者なんだ?


何はともあれ愛宮さんが去った事で僕は襲われずに済んだ。


とりあえず桃園さんにお礼を言おう。


僕は桃園さんにお礼を言おうとしたのだが……。


「 優吾お兄ちゃん! 元気だった?」


「 おう! もちろん元気だったさ! 桜花はいい子にしてたか?」


「 うん! 私いい子にしてたよ! だからご褒美に優吾お兄ちゃんに頭撫でてほしいな!」


「 全く〜しょうがない奴だな〜」


「 えへへ〜。優吾お兄ちゃんの手、おっきくて安心する〜」


……………………。


なにこれ?


山君と桃園さんの意味の分からないやり取りが僕の視界に映り込んでいる。


僕は山君に声を掛けた。


「 や、山君、これどういう事?」


「 桃園さんはこの学校の全生徒の妹なんですよ」


「 マジで意味が分からないんだけど」


僕が困惑していると桃園さんがこちらを振り向く。


「 伊吹お兄ちゃん! 私は今日朝からずっと伊吹お兄ちゃんを探してたんだからね!」


「 僕を? なんで?」


「 転校してきた新しいお兄ちゃんに挨拶するために決まってるでしょ!」


「 えっと……」


本当に意味が分からない。


なんなんだこの子は。悪い子ではなさそうだけど……。


「 昨日は私、他のお兄ちゃんと用事があって挨拶にいけなくて……。だから今日の朝、ずっと玄関の前で待ってたんだけど、伊吹お兄ちゃんがなかなか来ないから探してたんだ!」


「 そ、そうなんだ……」


「 とりあえず今日からよろしくね! 伊吹お兄ちゃん!」


桃園さんは僕に満面の笑みを見せると、この場を去った。


「 ……。山君、説明してくれ」


「 まあそうなりますよね。いいでしょう、説明します。彼女の名前は桃園桜花。そして、狂人ランキング第7位。通称 "妹改革の桜花" 。狂力は4300です」


「 まあ、狂人ランキングに入ってる事は予想してたけど、妹改革ってなんだ?」


「 桃園さんは一人っ子で兄姉がいません。ずっと1人で育った彼女は兄や姉に強い憧れを抱きました。そこで考えたのが、この学校の全生徒の妹となる事で、他の生徒を兄や姉にしたのです。妹という概念を改革したことから "妹改革" という異名がついたのです……」


「 なるほど……。めちゃくちゃすぎて、ついていけないな……」


"妹改革の桜花" か……。


さすが狂人ランキングに入るだけの事はあるな……。全生徒を兄や姉にするなんて狂ってる……。


「 ですが桃園さんはこの学校でもかなりの人気があります。狂人といえば狂人ですが、愛宮さんみたいに誰かに危害を加えないですし、何より可愛い! 」


「 なるほど……。確かに一部の男子生徒からは人気でそうだな……。それに害が無い分、愛宮さんより全然いいな」


「 そうなんです! ちなみに僕も桃園さんの事を妹のように慕っています! 僕は桃園さん……いえ、桜花の兄ですからね! 妹のためならこの命……惜しくは無い!!」


「 そーですかい。てか、全生徒の妹って……この学校、とんでもない数の生徒がいるだろ」


そう。この黒月高校は都内でも有数のマンモス高だ。


「 確かにここ黒月高校にはとんでもない数の生徒がいます。ですが、ここが桜花の凄いところ! なんと全生徒の顔と名前を完全に把握してるんです!」


「 マジか……。確かにそれはすごいな」


「 そうでしょ? だから桜花は凄いんです! そして何より可愛い! 可愛いのは顔だけじゃなく性格も可愛くて、この前なんか」


山君が桃園さんの事をひたすら語り出したので、僕は玄関へと向かった。


"告白中毒のイズナ"……。

"妹改革の桜花" ……。


この学校にはまだまだイカれた狂人がいそうだな……。

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