第34話 メルビンたちを迎えに行かなきゃ

 坑道の中はカンテラに明かりが届かないほど、濃い瘴気に覆われてきた。感覚が届くまで範囲を大きく広げて浄化魔法を使い、一掃してもモクモクと奥から湧いてくる。常時浄化魔法。発動して坑道内を進んでいく状態。魔力量がチートの僕でも、魔力がガンガン削られているのがわかった。

 貧血みたいに頭から血の気が引いて、足元が

フラッとした。

「チビ、大丈夫か?」

「できるだけ魔力を温存したいので、なりかけはギヨムさんにお願いします」

「俺の敵じゃねぇ」

「頼もしい!」

 鉱員を見つけては浄化、運んでトロッコに乗せる。ギヨムさんのおかげで、なんとか全員無事に回収出来た。フラフラになりながら外へ出る。王宮魔法士団辺境支部から応援が来ていて、辺りの浄化を開始していた。

「シリル、よくやった」

「お勤め頑張りました」

 一班の隊長に褒められ、ホッとひと息。と思った矢先、遠くから咆哮が聞こえた。

「これ……まさか、魔物?」

「国境で闘っている辺境伯率いる軍を抜けてきたのか」

「こっちに来る?」

「ジーンの分析じゃ、新しく湧いた瘴気に興奮して惹きつけられているのではないか、ということだ」

「集落は?」

「そのジーンが指揮をとって、魔法士団が結界を張り、魔物の殲滅をしている。瘴気は最初は大量に吹き出すが、この吹き出しは次第に落ち着く。ここの瘴気が浄化されるのも時間の問題、持久戦だ。だてに、王宮付きの魔法士じゃないさ」

 魔法士さんに任せていれば、大丈夫らしい。

 けど、ハッとした。

 ちょっと待って。今、メルビンたちどこに居るの?

 辺境伯閣下も国境付近で戦っている、魔法士団は荒れ山に。

 誰が二人を救出に向かう?

 いくら強くとも、魔物の群れに襲われたらひとたまりもない。


「隊長、僕、メルビンたちを迎えに行かなきゃ!」

「待て、お前、フラフラだろう!」

 隊長の制止も振り切り、空に舞い上がる。王都の方角へ向かった。

 何処にいるのか。メルビンの魔力を探すには、メルビンの魔力は少ない……。

――あ。

 あるじゃん、一番馴染みがあって大きな魔力。僕の魔力だ。

 メルビンが身につけている、魔法が使えるようになる指輪、羽織っているマント、メルビンが身につけているものは彼を守ってくれるようにと願いを込めて、僕の魔力が大量に込められていた。

 空中で静止、スゥーっと深呼吸。目を瞑って神経に集中し、魔力を探る――居た。目を開き、そっちを見る。荒れ地の向こうに森があった。森の中は道がないと迷いやすく、人が入らない森はとても歩けるところじゃない、馬で突っ切るのは無謀。だけど、近道って辺境伯閣下が言っていた、メルビンはこの森を抜けられる道を知っているんだ。


 森の上空まで来て、下に目を凝らす。ざわめく木々の隙間に魔物の群れが蠢きていた。

 魔力の気配は近くにある。なのに、木が邪魔してよく見えない。メルビン、どこ? 無事でいて!

 焦り始めたとき、目の端に一瞬炎を捉えた。

 暗い緑ばかりの森に明るく柔らかなピンク色が見えた。側にプラチナブロンドも。メルビンとルーファスだ。騎馬で森を掛け、魔物の群れに追われていた。

 上空から氷柱の雨を魔物に向けて放つ。一瞬、意識が遠のきかけたけど、大丈夫。僕はやれる!


 ミッション! メルビンたちを魔物の群れから守れ!


 メルビンたちを追う魔物に、氷柱を次々落とし、氷柱は魔物を貫き倒す。大分減ったけど、まだ森の影に隠れている。

 魔力の残量がほぼない。頭がクラクラして視界が狭まる。メルビンたちが森を抜けたところで、飛んでいる魔力もなくなり、荒野へ降りた。森から出てきた魔物の残党を氷柱で撃ち抜く。

 ついに立っていられなくなり、地面へ倒れた。

 馬の駆ける音が近づいてくる。もうほとんど見えないのに、白っぽいそのピンク色だけは光って見えた。

 黒い魔物の影がメルビンを追う。魔法で一匹貫いたが、他にもまだ追っていた。

 駄目だ、僕がやらなきゃ。

 身体が冷たい、夏なのに真冬のように寒い。

 もう一発、あと一発。

 魔力が空っぽなのがよく分かる。

 あと一発撃てば、死ぬかもしれない。

 でも、嫌になるなんだよ。この世界にメルビンが居無くなるのは。

 自ら暴走して魔力を使い果たし死んだ前回だったけど、今回も魔力を使い果たして死ぬ。悪役令息シリルは、メルビンとルーファスの恋の邪魔をして、そうやって死んでいく運命なんだ。


 大丈夫、僕が居ない方がメルビンは幸せになれるから。でも、思いを告げるくらいはしたかったな。あと、ありがとうって言いたかった。

 命の一滴まで振り絞り、遅い来る魔物に向かって最後の攻撃魔法を放った。

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