第3話2/3 メルビン・ウィンブレード

 生き物が活発になる温かい時期に魔物も活性化し、生き物が息をひそめる冬は魔物の活動もピタッと止む。

 冬ならばいいだろう、勲章が嫌なら無理にはやらない、辺境伯嫡男のお披露目も兼ねて中央の子供たちと交流を持ったらどうか、大々的なパーティーは開かず簡易的なお茶をやるから気軽に挨拶だけでもしにいらっしゃい、といった内容の書状が国からの使者と共に父上に届き、遥々辺境から当城となる運びになりました。

 ……国王様、かなり父上をお気遣いになられましたね。実戦に長けた軍を持つ辺境伯が半旗を翻したら、父上が辺境伯辞めるなんて言い出したら、魔物が雪崩込んで国土を大きく損失するのは目に見えています。

 辺境の献身無くして中央は無いのです。


 あまり国からの要望を突っぱねていると、反乱の意思ありと疑われかねないので、從う他ありません。国への忠誠は定期的に示さればいけないのです。

 だからね、父上。そんな不機嫌な顔をしてはいけませんよ? 書状を読み上げた使者の方が青ざめて震えてるじゃないですか。そんな魔王の覇気みたいなものを垂れ流さないで。国からお使いで来てくださった彼が可哀想です。


 乗り気ではない父上には申し訳ないけれど、僕は王都の子供たちとの交流は楽しみなのです。遊び相手……という一時的な繋がりではなく。

 辺境に居ると、どうしても中央との繋がりが希薄になってしまいますから、こういった機会に友人を作るには有効なのです。


 有事のさい国に応援を要請したとき、出し渋らずに力になって貰えるか。存在も希薄な当主のところへ戦力を送り、力を尽くして貰えるのか。

 確かに、騎士たちは国に忠誠を誓ってはいますが、辺境伯の人柄や功績が彼らにとって好ましいかどうかといった感情は馬鹿に出来ないのです。自分たちが仕える主人との関係性は、彼らの心情的にも重要だと、辺境伯の息子として毎日のように騎士たちと交流がある僕は考えるのです。彼らだって一人の人間ですからね。

 生まれつき魔力の強いお子様がいらしたら、ウチの戦力として欲しいところ。


 父上は数日タウンハウスに滞在し、領地へ帰るのですが僕は冬の間は上流階級のお子様たちのと仲良くなれたらな、と目論んでおります。

 十四歳になれば王立学園に入るのですが、その頃になってしまうと大抵の貴族のご令嬢ご令息、特に上位貴族の方は余計な者に憑かれるのを警戒し、入学前からお友達を決めて囲ってしまうことが多く、そこに入るのはなかなか至難の業だそうで。できれば、学園へ入る前にお友達を作っておきたい。


 僕の家庭教師についてくださっている先生が子爵家次男の方で、お勉強の休憩時間の談笑に学園での話は聞いております。将来のためのいい予習です。


 初めて行く王都にワクワクしないこともないのですが。都会では何が流行っているのでしょうね? お土産は何がいいでしょう。メイドのイザベルには香りのいいお茶がいいですかね。家庭教師のグレンは大人の男性に見えて甘いものがお好きなので都会で流行りのお菓子が手に入ればいいです。剣の師である騎士団長、バイロンには野営でも焼いただけのお肉が美味しくなるよう、珍しいスパイスと塩を調合した調味料なんてどうでしょうか。それから、それから――

 ……別に、遊びに行くのではありませんよ? お子様らしくはしゃいでいる訳ではありません。

 ウィンブレード辺境伯嫡男として、行くのです。

 都会を想像して楽しくなっているのではないんですよ?


「どこの方が子供会に参加されるのでしょう? 辺境の子の僕ですからマナーは大丈夫でしょうか。都会の上位貴族の方に失礼がないか心配です」

「メルビン、お前は賢く礼儀正しい。それが逆に心配だ。もっと孤児院へ通う頻度を増やし、年の近い子との交流の機会を増やしてやればよかったのだが」


 眉尻を下げる父上。暗に、子供らしくないと言われてしまいました。

 そして父上、子供たちを怖がらせて泣かせてしまい、自分のせいで僕の子供たちとの交流を邪魔しているのではないかと余計なこと考えていますね?


「父上のせいではありません。これは僕の性質ですので」

 ただの平民孤児だった僕だから、辺境伯の嫡男に相応しくあるよう、大恩人の父上の顔に泥を塗らないよう、必死になってしまうのは仕方ないのです。


「お友達になるかもしれない子たちをある程度把握しておきたいのですが」

「詳しくは王都に着いてからではないとわからないが、ランブロウ公爵家の三男がメルビンと年の近い子供が居る。名前は――シリル・ランブロウか。生まれつき強い魔力を持っていると噂があるから、私も彼のことは耳にしている。王家主催なのだから、呼ばれるだろう」


 キランと目が輝く思いがしました。

 ランブロウ公爵家は王弟殿下の家柄、加えて高い魔力の保持者とは。これは目をつけない訳にはいきません。是非ともお会いしたい。我が儘で破天荒で無茶な野望の持ち主で我が家系の足を引っ張るような方でしたら、ご遠慮しなければなりませんが。その当たりは、会ってみなければわかりません。


 期待を胸に、父上と共に領地を出立しました。

 王都へは馬車で向かいます。けして乗り心地の良いものではありませんが、領地から遠くへ行きたい離れたところへ旅をする楽しみが勝って苦ではありません。旅は、まぁまぁ慣れています。野営訓練について行ったり、隣接する領地へ挨拶に向かったり。そこそこ活動的に出向くので。乗馬は、自分で乗り降りが出来ないのと華奢な子供の体力で長旅は危ないからともっぱら馬車での移動。

……これでも七歳のお子様なのですよ? 早く父上のような立派な体躯の大人になりたいです。


 王都のハウスタウンに着き、早々に仕立て屋が呼ばれ、衣装決めの採寸。流行遅れなんて田舎者だと見下されてしまいます。まずは見た目から。上等な服を身に纏うのは、他者を蹴落とそうと、上流階級の魔物が跋扈する戦場へ赴く防具。お子様たちは時として、大人たちよりも純粋なだけ下位の者と判断すれば残酷に蹂躙しますから、最初が肝心です。

 行くのはお子様会、本来はお子様たちと交流――つまり遊ぶのが目的ですので、動きやすさも重要。装飾でゴテゴテし過ぎでも、何しに来たと白い目で見られるので、その辺のさじ加減は仕立て屋の方にお願いいたしました。

 白い衣装をお勧めされましたが、遊び回る可能性があるので、白は汚れが目立ってしまう。ライラック色のウエストコートの上に同じ色のコートに落ち着きました。僕の、白に近いピンクの髪に合う、優しい紫色です。

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