コズミック・トゥデイ
ゆすら
コズミック・トゥデイ
最寄り駅近くの商店街の中には、私が足しげく通うドーナツ店がある。その店はこぢんまりとした佇まいの小さな個人店なのだが、売っているドーナツは味はもちろんのこと個性豊かなものが多く、都会の一等地にでも進出すればたちまち人気店になれるのではないだろうかと思えるほどであった。私は今日もそんなお気に入りの店に足を運んでいた。
「いらっしゃいませー。あ、こんにちは!」
お店に足を踏み入れると、いつも応対してくれる女性店員さんが挨拶をしてくれる。私がよく行く時間帯のシフトに入っているのだろう。お互いもう顔なじみである。そんな彼女が今日は話しかけてきた。
「お客さま、今日は新商品があるんですよ!」
それを聞いてショーケースに目をやると、ど真ん中に今まで見たことのない、きらきらかがやくカラフルなドーナツが並んでいた。私は思わず見惚れてしまう。
「どうですか? ギャラクシードーナツって言うんですけど。あれ? お客さま?」
「めちゃくちゃ……いいですね! これといつものコーヒーをセットでください!」
「あ、はい! ありがとうございます!」
彼女は私の様子に少しおどろきながらも、注文を受けて笑顔で商品を渡してくれた。新商品、ギャラクシードーナツを目の前に私もにこにこである。そのままイートインスペースのいつも利用している席に座ったとき、小さい子供を連れた女性が来店した。
「あ、このドーナツ、きらきら!」
「ほんとだね、きらきらできれいだね」
その親子連れもギャラクシードーナツに目がいったようで、特に子供は夢中になっているようだった。
「ギャラクシードーナツっていうんですよ!」
すかさず店員の彼女がふたりに商品名を伝える。ただそれを聞いて、子供はキョトンとしてしまった。
「……ギャラクシーってなあに?」
私を含めその場にいた大人全員が「あー」となる。その中で真っ先に母親が子供に説明をはじめた。
「ギャラクシーは銀河って意味なんだよ。それで、銀河は宇宙の中にたくさんあるものなの。わかるかな?」
「うん! わかった! だからきらきら!」
場が和やかになる。さらに子供の言葉は続く。
「このお店、宇宙なんだ!」
一瞬静まり返ってから聞こえる笑い声。私はそれを片耳に、にやにやしながら穴の開いた銀河を頬張った。
コズミック・トゥデイ ゆすら @64_yusura
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