第34話 VSディルク前編
『GUUUUUUOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAッッ!!』
残っているヒトクイソウすべてがディルクに襲い掛かる。
こいつらの顎は岩も簡単にかみ砕く威力だ。
枯れるまでの時間は残り三分もないが、人間一人喰い散らかすのなら一秒もかからない。
──はずだった。
「燃えろ」
ディルクの掌から炎が生まれ、ヒトクイソウに襲い掛かった。
それは瞬く間に全体へ燃え広がり、顎を茎を葉を焼き尽くす。
『GIIIIIIIIIIIIIIIIIIッッ!?』
「う、嘘でしょ? 呪文詠唱もしてないのに! あいつどんな火力してんのよ!」
「怪物」
ドロシーとラウナが驚きに目を見開いている。
俺も同じ気持ちだ。
ヒトクイソウはたった一分で灰になった。
戦闘用の魔法植物がここまで簡単に蹴散らされるなんて。
団長の肩書は伊達じゃないってことか。
「最低火力でこれですか。所詮は植物ですね」
「ディルクお前……!」
灰だらけの地面を歩き、ディルクとの距離を詰めていく。
言いたいことは山ほどある。
「なんで俺たちを襲った。お前はトリップル家の執事じゃないのか」
「執事よりずっと前から私は四つ首の死神の団長です。殺し奪うことが本業ですので」
「リーシャお嬢様助けたい気持ちは嘘だったのか」
「あんな演技を真に受けないでほしいですね。。大体怒りを覚えているのは私の方です。貴様らが屋敷に来たことで、計画に大幅に修正を余儀なくされたのですから」
心底つまらなそうに、ディルクは計画について語り始めた。
「トリップル家に執事として潜り込んだのは、あの小娘と結婚するためです。私の才覚を持ってすらば、他の婚約者候補と並ぶところまでは簡単ですので」
「結婚? なんの冗談だ」
「必要なのは金と地位、それ以上に人脈です。四つ首の死神は悪名が広がり過ぎました。戦っても負けはしませんが、いい加減王都騎士団の相手をするのにも飽きてきましたので」
「話が見えてきたぞ。つまり殺しと略奪はしたいが追われるのはまっぴらごめんってことだろ。伯爵の人脈、情報網を使って騎士団の動きを把握したいわけだ。楽に暴力を楽しむために」
「正解です」
異世界に来てようやく二年目の俺だが、ここまでの悪ははじめて見た。
こいつは自分の欲望がすべてで、他人のことなんて道端の小石程度にも思っちゃいない。。
その証拠に、いまの話でディルクの感情は一ミリも動く気配がなかった。
「まさか……リーシャお嬢様の病気もお前のせいか」
「彼女が森へ遊びにいった行ったときにアラクカブトの毒を刺しました。そして解毒剤を私が用意すれば、結婚への決定打になると思いましたので」
「お前はもう解毒剤を持っているんだな。俺たちが屋敷に来たずっと前から」
「でなければ意味がないのでしょう。見つけたのは奇跡的な偶然ですがね。だから月光樹なんてものが存在したことには驚きました」
「普通に解毒剤を作られちゃ困るもんな。それが俺たちを襲った理由か」
そんなことのために、ラウナやドロシーは傷ついたのか。
許せない。
「あの中では貴方が一番面倒そうだったので、わざわざ呼び出したのですがね。魔法植物の知識にも長けてそうですし。クイーニーは期待外れもいいところでしたが」
「それがすべての真相か」
「ええ、あとはすべて焼き払って終わりです。盗賊に襲われた不運な魔法薬士たちとして、王都騎士団は処理するでしょう。お嬢様には私から解毒剤をプレゼントしますよ。結婚指輪代わりにね」
「終わりにはならないな。俺がお前をぶっ倒すんだから」
ディルクとの距離は二十メートルを切っていた。
あいつの炎と俺の魔法植物、どちらも射程圏内のはずだ。
「いくぞ。【
「燃やせ」
スキルで吸血棘を活性化させ、手足に加え背中からも出現。
鞭のように全方向から攻撃させる。
ディルクは掌の炎を壁のように展開した。
相性の悪い相手とはいえ、並の炎なら強引に突破できるんだが……。
「正面からゴリ押しですか。つまらないですね」
「くっ、これでもダメか」
炎に触れた瞬間から吸血棘が焼却される。
枯枝じゃないんだから、植物がこんな簡単に燃えるものか。
いや、それだけじゃない。
身体が熱い!?
「なんだこれ……炎が伝ってくる!?」
吸血棘を燃やす炎は触れた部分だけに留まらず、導火線のようにツルを上ってきた。
このままいけば俺も火達磨確定だ。
「吸血棘、自切!」
「いまので燃えてくれると助かるのですが。そこまで馬鹿でありませんか」
「その炎どうなってんだよ。なんのスキルだ?」
「大したスキルはありませんよ。炎は炎です。私が定めた標的を灰にしない限りは消えませんが」
「──!」
絶対に対象を燃やす炎か。
かなり厄介だな。
というか俺の天敵そのものだ。
「貴方は魔法植物を操るスキルのようですが運が悪かったですね。そんなもの頼っている限り、私の炎には勝てません」
「勝利宣言にはまだ早いだろ。要はお前の炎が届かない位置から攻撃すればいいだけだ」
「死角? ああ、勘違いさせてしまいましたね。いままでの炎は10パーセントの火力。そしてこれが50パーセントです」
ディルクの掌から炎が溢れ、周囲に燃え広がる。
それはまるでフェニックスのようだった。
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