第33話 【緑の王】
「ご主人さま!」
「馬鹿! なんであんたが来てんのよ!」
ラウナとドロシーの声が聞こえる。
この状況かなりヤバそうだな。
「貴様は標的の一人、ソウマ・ササキか! いや貴様の元にはクイーニーが向かったはずだが」
「あのトカゲ野郎なら倒した。普通に雑魚だったぞ」
「こやつは一筋縄ではいかんようじゃな」
いまぶっ飛ばした鎧の大男と、フードの小男が四つ首の死神の団員だな。
そしてスケルトンの中でふんぞり返っているのがディルクだ。
「クイーニーはあとで私が殺します。仕事をしなければ貴方たちもそうなりますよ」
「いまのは油断しただけだ! その証拠にダメージはまったくない!」
「ヒヒ、それにこちらの有利は変わりません。小僧、指一本でも動かしてみろ。小娘を握り潰すぞ」
「小娘? それはこのちんちくりんのことか?」
「──ナニィッ!?」
フードの小男の背後で、スケルトの巨腕が崩れ落ちた。
別に難しいことはしていない。
地中から吸血棘を伸ばして巻き付け、へし折っただけだ。
もちろんドロシーはトゲを引っ込めた棘でキャッチした。
近くにいたマームも一緒に回収して、俺の元に引き寄せる。
「大きな怪我はないみたいだな」
「あ、ありがと。ていうかあんたそんな力持ってたの」
そういえばドロシーの前で戦ったことはなかったな。
スキルも魔法植物の栽培にしか使ってないし。
まあ、いまはどうでもいいか。
「ラウナも身体は──、っ……!」
そこで俺はようやく気が付いた。
華奢な身体は傷だらけで、額からは血まで流れている。
俺がいない間に、こんなになるまで戦ってくれたのか。
「ごめん。痛かっただろ」
「平気。ご主人さまのためだから」
「あとは俺に任せてくれ。あいつらは一線をこえた」
上司にパワハラを受けたときも唇を噛んだが、いま俺が覚えている怒りはそんなものと比較にならない。
四つ首の死神だかなんだか知らないが容赦する気は微塵もない。
あらゆる魔法植物を使って、こいつらを叩き潰す!
「どっちでもいい、かかってこい。それとも足が震えて動けないか?」
「許されざる侮辱! 武人の名の下に両断してくれよう!」
鎧の大男が大斧で横薙に斬りかかってくる。
俺は吸血棘を楯のように編んで、攻撃を受け止めた。
「魔法植物に己を守らせるか。臆病者が!」
「こちとら戦士でも冒険者でもないんでね。潰れろ」
複数のドングリを指で弾いて、空中で急成長させる。
根の部分は槍のように固めて尖らせたから、鎧ごと貫けるはずだ。
「無駄だ! そんなもの俺には効かん!」
尖らせた根は鎧に触れただけで弾かれた。
成木の重量を受け止める肉体にも驚いたが、鎧にへこみ一つないってのは魔法装備でもあり得ない。
こいつスキルを使ってるな。
「ずいぶん頑丈な鎧だな。どこで買ったんだ?」
「鎧の性能ではない。優れた武人は無意識に攻撃を受け流してしまうものなのだ。生っちょろい植物などいくらぶつけても俺の命には届かん」
「そうか。ならこういうのはどうだ」
足元に魔法植物の種を蒔き、成長させる。
見た目は雑草と大差ないが、それは静かに地面へ広がった。
「? なにかしたか?」
「さあな。それより武人の誇りはどうした? 俺はピンピンしてるぞ」
「フンッ、いま斬り捨ててくれるわ!」
鎧の大男が突進してくる。
そして足が地面の魔法植物を踏んだ。
ビンッッッッと何か跳ねた音がした。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!? き、貴様なにをしたああああああああああああ!?」
『スプリンググラス】、いま踏んだのはバネのような弾力を持つ芝の魔法植物だ。
地味な見た目に反して、攻城兵器に使えば大岩を飛ばすこともできる。
鎧の大男はロケットのように空高く打ち上がった。。
「落下の衝撃で俺を倒すつもりか? 受け身など武人にとっては基礎も基礎よ!」
上空でなにか叫んでいるようだがよく聞こえない。
俺は吸血棘をボール状にして中心に種を埋め込む。
そしてボールをスプリンググラスを使って、鎧の大男の元に打ち上げた。
「ん? なんだこの玉は?」
「【
ボールがほどけ、中から魔法植物が姿を現す。
俺にとっては飽きるほど見たやつだ。
「この魔法植物は……まさか……!」
「マンドレイク、叫べ」
『死ネアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
不快な叫び声が微かに聞こえ、俺は顔をしかめる。
直後、風切り音を立てながら、鎧の大男が大の字で地面にぶつかった。
「かへ……はへ……あへあへ……」
死んだと思ったが、うわ言をつぶやいている。
この世界の武人は思ったよりタフなんだな。
ちょっと驚いたぞ。
「ラウナ、仇は取ったぞ」
「ご主人さま、ナイス」
さすがにやり過ぎかと思った、ラウナは親指を立ててくれた。。
引かれてないなら、いまはこれでよしとしておこう。
「一人片付けたぞ。次はどっちだ?」
「ガイネウス、わかっているな」
「も、もちろんですじゃ。【
今度はフードの小男がスケルトンの背に乗り、大軍と一緒に突っ込んでくる。
前線に出ないタイプに見えたが、実は漢気があるのか。
もしくはディルクの近くにいたくないかだな。
「スケルトどもあの餓鬼を殺せ! 手段は問わん!」
数は五〇〇か六〇〇か。
家の周りを埋め尽くすほどの数だ。
このタイプのスキルを見るのははじめてだな。
「ソウマいくらあんたでも勝てっこないわよ! あいつのスキルはデタラメすぎるの! いますぐ逃げて!」
「ドロシー、俺のスキルをデタラメって言ったのはお前だろ。安心してそこで見ててくれ」
俺は同じ魔法植物の種を詰めた皮袋を握りしめる。
こいつは見境がなくて危ないんだが、俺、ラウナ、ドロシー、マーム以外は全部敵でいいだろう。
「【
ハエトリソウを巨大化したような魔法植物が、地面から無数に出現する。
こいつらは鋭い牙で獲物に喰いつき、捕食することだけがすべての食人魔法植物だ。
それはスケルトンだろうが例外じゃない。
『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッッ!!』
「ガッ、カカカ……!?」
「ココ……オ゛オ……!」
「き、貴様らなにをしている! わしを守らんか!」
ヒトクイソウはトラバサミのような顎で、スケルトンたちをかみ砕き飲み込む。
ただ骨では満足できないのか、狙いはすぐにフードの小男へ移った。
「や、やめろ! わしは餌ではない! 貴様命をなんだと思っている!」
「死体を操るやつがそれ言うか?」
「黙れ! わしのような特別な人間とその他有象無象を一緒にするな! 奪うのはわしだけの特権じゃ!」
フードが脱げて、小男の顔が露わになる。
おお……ゴブリンみたいな顔した爺さんだな。
人を顔で判断したくないけど、まさに凶悪なの盗賊団員って感じだ。
『GUUUUUU! SYUOOOOOOOOOOOOOOOOッッ!!』
「もういい! わしを背負ったまま逃げろ! 盗賊稼業などわし一人で十分じゃ!」
他のスケルトンを楯にして爺さんが逃げる。
俺が「逃がすな」とヒトクイソウに命令しようとしたその時、炎がスケルトンごと爺さんを包み込んだ。
「ぎゃあああああああああああああ!? で、ディルク貴様わしを裏切るのか!?」「先に裏切ったのはそっちだ」
「クソオオオオオオオオオオオオオオオオ! 死にたくない……死にたく……死にた……」
その言葉を最期に爺さんは息絶えた。
ヒトクイソウが残ったスケルトンを食い散らかす修羅場で、ディルクだけが冷酷な眼差しを俺に向けていた。
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