第30話 白昼の襲撃者
「っ……危ねえ!」
首を狙ったナイフは、吸血棘によって阻まれた。
まさに危機一髪。
いざという時は自動で主人を守るように命令しておいてよかった。
「うおっ、マジかよ。いまので死なねえのか」
大袈裟な手振りで驚くのは、トカゲの獣人だった。
手には波のような刃をしたナイフを握っている。
いやだれだよこいつ!?
はじめて会ったぞ。
「だれだお前。なんで俺を狙った」
「あれあれ、あんたって説明とか必要なタイプ?」
「理由もわからず殺されるのは嫌だろ。あと俺はソウマだ。お前も名乗れ」
「まー、それもそうか。じゃあ賢いオレ様が教えてやるよ」
トカゲ獣人は軽薄さを隠そうともせず舌を出す。。
「オレ様はクイーニー。『四つ首の死神』所属の盗賊だ」
「なっ……四つ首の死神だと!?」
「おっ、顔色が変わった変わった。やっぱ知ってるよな。オレら有名人だもん」
四つ首の死神、以前タロスが言っていた残虐非道な盗賊団だ。
そのメンバーがいま俺の前にいる。
……かなりヤバそうな展開になってきたな。
「そんな有名人様がなんで俺を狙う。古着で布袋を下げた男は金持ちって教わったのか?」
「んなわけねー。団長の命令だっつーの。お前が生きてると邪魔らしいぜ」
「邪魔? なんの邪魔だ」
「あーなんて言ったっけ、げっこうじゅ? とかいう実を作られたら困るんだってよ。だから始末しとけって命令だ」
月光樹。
このトカゲ獣人、クイーニーはたしかにそう言った。
それを俺たち以外に知っているのは、トリップル家の面々だけだ。
「団長の名前はなんて言うんだ?」
「さっきから質問多くね? もういいだろ。いい加減殺させろつーの」
「これで最後だ。聞いたら納得して死んでやるよ」
こいつは口の軽い馬鹿だ。
戦闘が再開する前に、できるだけ情報を聞き出しておきたい。
「ディルク団長だよ。ディルク・カーディナル。次になにか質問しやがったら、手足の指を削いで殺すからな」
ディルクの名が出て確信した。
ラウナは正しかった。
目的はわからないが、あいつは四つ首の死神のボスで俺たちの敵だ。
「あともう一つだけ聞かせてくれ。ディルク団長の目的はなんだ? 場合によっちゃ協力できるかも──」
「ハイ、指削ぎけってい! シャアアアアアアアアアアアアア!」
俺が言い終わる前に、クイーニーが突っ込んできた。
速い。
目で追えないスピードで走り、瞬く間にナイフが右手指に迫る
「吸血棘! 守れ!」
「チッ、またそれかよ! 気色悪いなオイ!」
吸血棘が右手に巻き付き、攻撃を防いだ。
あの速さ、なにかスキルを使ってるな。
「てゆーか、死ぬんじゃなかったのかよ! なに抵抗してんだテメエ!」
「あれは嘘だ。だれが変温動物に殺されるか」
「意味わかんねえこと言ってんじゃねえ! オレ様はこのあとも仕事があんだよ! だからとっとと死にやがれエエエエエエエエエエエエッッ!」
ヒュンッと風を切る音が聞こえ、クイーニーはさらに加速する。
石畳を蹴る衝撃以外はまったく見えない。
俺は吸血棘を最大限に伸ばし、身体の周りを螺旋状にガードする。
「それはもう見たっつーの! オラァッ!」
四方八方からナイフが斬りつけ、吸血棘が切断される。
再生はできるがこの速度だと俺の首が飛ぶのが先だ。
この世界じゃ平和に暮らしたかったし、できるだけ戦うつもりはなかったんだけどな。
俺は腰の皮袋に指を伸ばし、魔法植物の種を取り出した。
ここからは容赦なしだ。
「はじめは驚いたが慣れればこんなもだぜ。テメエも魔法かスキルを使えるっぽいが、オレ様のスキルが上だったな」
「たしかに速いな。すごい。超すごい。俺の人生で見た中で最強のスキルかもしれないな」
「へへ、そうだろ。こいつはな【
クイーニーは口元を歪ませ、ナイフを舐める。
獲物をいたぶるのが好きでしょうがないって顔だ。
わざわざ説明してくれるんだから、相当楽しんでる。
「じゃあもういいよな。今度こそ死ねよ。死ね死ね死ね死ねエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!」
今度は完全にクイーニーの姿が消えた。
風を噴射する衝撃が派手に石畳を吹き飛ばす。
吸血棘を切断して、俺の喉笛を搔っ切るまで一秒もかからないだろう。
ただし、まともに動けるならだが。
「カッ、ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
叫び声が聞こえ、旧時計台の壁が派手に音を立てて壊れた。
おそらくクイーニーが激突したんだろう。
「がはっ……か、身体ひゃ動かひぇえ……りゃとお!?」
「魔物以外に使うのははじめてだけど、ちゃんと効くんだな」
「テへエ……一体なにをひやひゃった!」
俺はクイーニーの顔の前に座り、説明をすることにした。
色々としゃべってくれた礼だ。
「お前がベラベラとしゃべっている間に、『シビレ罠茸』という魔法植物を成長させておいた。こいつの胞子は一呼吸でも吸い込むと、全身に強烈な痺れを発生させる。調子に乗りすぎたな」
「ひゃあなんれテへエは平気なんりゃよ!?」
「俺はスキルで毒を無効にしている。自分の魔法植物でやられたら間抜けすぎるだろ?」
「くっ、クソしょオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」
呂律の回らない舌でクイーニーは吠える。
あとはこいつを警備兵に突き出して、ベルハルト伯爵に事実を確認しよう。
そう考えていた時、信じられない言葉が聞こえた。
「お、オレしゃまを倒ひたきゅらいで……いいひになるにゃよ」
「なんだって? はっきりしゃべれ」
「だんひょうがもう向かっひぇる。げっこうちゅを……奪ひににゃ」
「お前ら……まさか!」
ディルクの目的は俺を呼び出して殺すだけではなかった。
家にいるラウナやドロシーを襲い、月光樹を奪うつもりなのだ。
いままで気付かなかった自分に怒りが湧く。
俺はすぐに立ち上り、大通りを目指して駆けた。
警備兵に四つ首の死神の話をし、旧時計台にその一人がいると伝える。
それから、一番足の速い馬車を探した。
急がないと、何もかも手遅れになってしまう。
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