第23話 解毒の道筋

「って話を前にドロシー先生がしていました。そうですよね?」

「そ、そうね。実験のしすぎで記憶が飛んじゃってたわ。あはははは」


 問題はさておき、助手の俺が詳しすぎるのも変なのでフォローしておこう。


「素晴らしい。貴女をお呼びしてよかった」

「王都一の魔法薬店というのは真だったのですね」

「奥深い知識に感服いたしました」


 トリップル家の皆さまも納得してくれたようだ。

 俺のスキルに感づかれないようにしないとな。


緑の王ユグドラシル】のことを知られると、色々面倒になりそうだし。


「月光樹……か。だれか生息地を知っている者はいないのか?」


 伯爵の質問にだれも答えない。

 重苦しい沈黙が場を支配する。


 せめて種があれば【緑の王ユグドラシル】で育てることもできるんだが、このままじゃ万事休すだ。


「一つ手があるかもしれません」


 沈黙を破ったのはドロシーだった。

 真剣な表情だが、チラチラ俺の方を見てくるのはなんでだ。


「ドロシーさん、本当なのか!?」

「お嬢様を解毒する方法があるのですね!?」

「難しい方法なので絶対とは言えません。ただ月光樹の種ならあたしの店にあります。それを魔法で急速成長させて実を収穫できれば、解毒剤を作ることも可能、かも」


 最後のセリフは思いっきり俺を見て言いやがった。

 これって【緑の王ユグドラシル】で月光樹を育てろってことだよな。


 栽培方法はわかるが、色々と面倒な手順が必要ではある。

 ただこの状況だと……やるしかないか。


 俺だってリーシャお嬢様を見捨てたくはない。


「なるほど。魔法とは思いつかなかった。それで成長までどれくらいかかるのだ? 可能な限り急いでほしいのだが」

「それは、えーっと……」

「準備は必要ですが、育て始めれば四ヶ月で実は収穫できると思います。そうですよね先生?」

「ええ、そうね。あたしの魔法ならそれで十分だわ」


 栽培だけなら二ヶ月で収穫できるのだが、余裕をもっておこう。

 今回は他の準備に時間がかかりそうだしな。


「ドロシーさん、改めてお願いしたい! 報酬は上乗せしますのでぜひ解毒剤を作ってくれ! リーシャこれで助かるぞ!」

「はい……お父様……!」

「私からもお礼を言わせてください。お嬢様を救ってくださり、ありがとうございます」


 四ヶ月という言葉に、トリップル家の面々は喜びの声を上げた。

 伯爵はリーシャを抱きしめ、涙まで流している。


 執事のディルクは拍手までしていて、みんなもう病が治ったような反応だ。


 まあ本番はここからなのだが。


「あたしたちは一度王都へ戻ります。色々と準備も必要なので」

「伯爵のお力を借りることもあると思いますが、大丈夫ですか?」

「もちろんだ。トリップル家の総力を挙げて貴方たちを支援すると誓おう。必要なものがあればなんでも言ってくれ」


 それから俺たちは、リーシャお嬢様の治療について契約結んだ。


 期限は四ヶ月後。

 月光樹の実からアラクカブトの解毒剤を作ることが仕事だ。


「本日は誠にありがとうございました。人手が必要なときはいつでも申し付けてください」

「近い内に連絡すると……思うわ。よろしくお願いね」


 ドロシーとディルクが握手を交わす。

 近い内というのは俺の考えだ。


「…………」

「どうしたラウナ? なにか気になるのか?」

「ううん、たぶん気のせいだから」


 ラウナはじっとディルクを見ている。

 屋敷の中でも鼻を鳴らしている場面が多かったが、なにか気になるのだろうか。

 ともかく行きと同じ広々とした馬車に乗り込み、俺たちはトリップル家の屋敷を後にした。






「はあああぁー、疲れたわ」


 魔法薬店の扉をくぐると、ドロシーはカウンターに倒れ込んだ。

 ため息がデカすぎて外まで聞こえそうだ。


「疲れのは俺なんだが。お前の話は盛ってるし、病気じゃなくて毒だったしな。たまた魔法植物の毒じゃなかったら詰んでたぞ」

「悪かったと思ってるわ。でも金貨三〇〇〇枚よ? 受けないやつは人間じゃないわよ」


 まったく悪びれずにドロシーは頬を膨らませる。

 たしかに俺も受けるつもりだったが……それにしても行き当たりばったりがすぎる。


 トリップル家で味わったあの緊張感、治療を騙るニセ薬士ならあの場で斬り捨てられてたな。


 それはともかく仕事は始まってしまった。

 リーシャお嬢様を助けるために、がんばるしかない。


「で、これからどうするの? 月光樹の栽培はマンドレイクよりも難しいわけ?」

「水や肥料は普通の果樹と変わらないが問題は育成する環境だな。月光樹は月光を栄養にするが、加えて雨に当たらず、強い風に吹かれない環境じゃないと育たないんだ」

「……それって無理じゃない? 野生のはどうやって育ってるのよ!?」

「だから希少な魔法植物なんだ。こいつを育てるのは骨が折れるぞ」


 だから本当なら時間をかけて返答したかった。。

 どっかの魔女が種があると言い出したから、やりしかないんだが。


「じゃあどうやって育てればいいの?」

「ガラスの建物を作ってその中で育てる。これならさっき言った条件は全部クリアできるはずだ」

「温室ってこと?」

「正解だ」


 ラウナが答えたように、月光樹を育てるに温室を作るしかない。


 しかも俺の目がいつでも届く場所じゃないと、異常が起きたときに対応ができない。


 つまり、作るなら家のすぐそばだ。

 こうして月光樹栽培計画がスタートした。



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