第13話 買い物デート
マンドレイク栽培開始、七十四日目。
今日は朝早くに畑仕事が終わったので、街へ出かけることにした。
最近仕事ばかりだったから、たまには息抜きもいいだろう。
馬車に揺られること一時間、俺とラウナは王都ヴィストールに到着した。
「仕事以外で来るのは久しぶりだな」
「ご主人さまはなにか買うの?」
「普段なら食料なんだが、今日はラウナの服だな」
「え?」
ラウナは目を丸くして俺を見つめてくる。
「商館から持ってきた服は古着ばかりだっただろ。最近は穴も目立ってきたしな。前から新しいのを買いたいと思ってたんだ」
「そんなことしたらお金がもったいない」
「助手が暮らしやすいようにするのも主人の務めだ。金のことは気にするな」
ドロシーに高ランクのヒールハーブを納品できるようになって、俺の収入は増え始めている。
野菜の代金と合わせれば、ラウナと二人で暮らしても不自由しない。
服くらいなら問題ないだろう。
「どの店がいいが言ってくれ。俺はラウナの好みに任せる」
「わからない。ほとんど外に出たことないから
「じゃあ適当に歩いて見つけた店に入ってみるか」
奴隷商館にずっといたら、それも仕方ない。
こうして立って街を見回すのだって、始めてかもしれないな
ちなみに俺は服のことはまったくわからない。
いま着てるのも家にあるのも、古着市で安く買ったものだ。
「それじゃいくか」
「うん」
俺とラウナは商店街を歩く。
店に面した大通りは今日も騒がしく、ひっきりなしに荷馬車が行き来していた。
「おっ、あの子可愛いな」
「綺麗な髪だしスタイルもすげえぞ」
「あれで男連れじゃなかったらなー」
チラホラと通行人から声が聞こえてくる。
貴族には不人気と言われたが、この世界でもラウナは美人のようだ。
なんだか俺まで誇らしくなる。
「隣にいるのは彼氏か?」
「そうじゃない? 普通の見た目だけど」
「たしかに普通だな」
「ザ・普通って感じよね。特徴もないし」
普通普通言うな。
特徴がないのが特徴なんだよ。
しかし、こうしているデート中のカップルに見えるのだろうか。
いや生まれてから転生した今日まで、デートしたことはないんだけど。
そうやって店を探しながらぶらぶらしていると、ラウナがある服屋を指さした。
「ご主人さま、ここがいい」」
「よし、入ってみるか」
店の装飾は派手すぎず地味すぎず、ちょうどいい感じだ。
『パーパルの服屋』と書かれた看板に、目をやりつつドアを開ける。
チリンチリンとベルの音が鳴った。
「すごい。いっぱいある」
「品揃えが半端じゃないな。こんな店があったのか」
広い店内には様々な種族に対応した服が、ずらりと並べられていた。
柄や装飾は派手なものが多く、南国にでも迷い込んだ気分だ。
「えっと、どこから見たらいいの」
「これだけ多いと探すのも大変だな」
はじめて見る服のジャングルに、困惑するしかない。
そんな俺たちが気になったのか、店員が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ! なにかお探しですかー?」
店員は金髪のショートヘアでテンションの高い女性だった。
胸元の名札には『エリーラ』と書かれている。
「この子に似合う服を買いに来たんだ。ラウナ、どんなのがほしい?」
「普段家で着るやつと、街で買い物をするやつ。エリーラさん、それから……」
「ああ、なるほど。わっかりました!」
最後の一つはエリーラに耳打ちしたので、俺は聞こえなかった。
一体どんな服なのだろうか。
「いくつか私が選んできますね。試着室でお待ちくださーい!」
そう言われ、俺たちは試着室へ向かう。
エリーラはすぐに大量の服をかかえ、ラウナと試着室の中に入っていった。
残された俺はカーテンの向こう側で待機する。
「これなんかすっごくお似合いですよ!」
「そ、そう?」
「はい。お客様にぴったりです!」
カーテン越しにラウナたちの声が聞こえてくる。
いま布一枚へだてて着替えが行われているんだよな。
別にエロいことを考えてるわけじゃないのだか、なんだか落ち着かない。
少し待つと着替えが終わったのか、カーテンが開いた。
「ご主人さま、こんな感じ、かな」
もじもじと恥ずかしそうな様子で、ラウナはが口を開く。
服装は野暮ったい古着から、ブラウスとロングスカートにガラリと変わっていた。
え、すごい。
雑誌でモデルでもやってのかな?
シンプルな服装なのにラウナの魅力が溢れている。
服一つでここまで可愛くなるものなのか
「……なにか言って」
俺が黙っているせいか、ラウナは不安になり始めているようだ。
実際見とれていただけなのだが。
なにか気の利いたセリフを言いたいが、なにも浮かばないので月並みな答えを返す。
「いいんじゃないか。とても似合ってるぞ」
「ですよね! わたしもバッチリだと思います!」
エリーラが被せ気味に言ってくる。
いきなり入ってくるから、びっくりしたぞ。
「ラウナさんの魅力を引き立てるために、あえて大人しめの服を選んでみました。この方がプロポーションがよくわかると思いますし!」
「ちょ、ちょっとエリーラさん……んっ、あうっ!」
「ほら、すごいですよこの胸の形! まさに理想の丘陵! 腰からお尻のラインは一級の芸術品です!」
「そういうのの苦手だから……やっ、あううぅ……」
エリーラは遠慮なしに、ラウナの胸やお尻を持ち上げてくる。
距離感バグっててヤバいなこいつと思う前に、俺の思考は一つのことで埋め尽くされていた。
なにこれ、すごくエロいんだけど。
恥ずかしがっているのも加点ポイントだし。
手を出さないという誓いが揺らぎそうになる。
「あの……ご主人さま止めて……」
ラウナが涙目でこっちを見てくる。
そうだった。
吞気に見とれている場合じゃない。
「あー、服が似合うのはよくわかった。そろそろ彼女を離してくれないか?」
「無理です! だってこんなボディ魅せられたら我慢できません!」
まさか拒否されるとは。
「ラウナさんには他のこれから服も着てもらいます! もちろんお代はサービスしますから!」
「サービスしてくれるなら、まあいいか」
「わたしは良くない……!」
「では次の服のお着替えしましょうね!」
「あっ、ちょっと……あああーっっ」
エリーラがシャッとカーテンを閉め、ラウナは再び着替えに入る。
着せ替え人形になった彼女が解放されるのに、二時間はかかった。
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